夜が明け朝になり、皆が仮眠から起きた。少ない睡眠時間だった上にその時間と会っていて心のほうが無休なため、少しだけ気だるい。弥勒はもう起きているだろうか? 弥勒のそばに寄り確認すると、彼はもう起きているようだった。

「体調は大丈夫?」

 くてっと寝ころんでいる弥勒の横に、も両足を投げて寝転び、弥勒に問うた。

「平気です。ご心配ありがとう」

 そっか、とは微笑み、ぼやーっと空を眺めた。
 二度目の覚醒も無意識で、弥勒が危ないと感じた瞬間、身体が深く脈打って、力が漲った。驚くほどの強力な力を発揮しても、への畏敬の念を感じるが、違和感はなくて、寧ろ妖怪になった自分に懐かしさも感じた。

ってすごい」
「そうですね」
「弥勒様、具合はどう?」
「ああ、だいぶよくなりましたよ」
「それはよかった」

 弥勒は上体を起こしにこりと微笑む。も起き上がりかごめを見ると、やはり浮かない顔をしていた。

「犬夜叉、もうすぐ楓おばあちゃんの村よ」
「ああ」

 さすが半妖だけあって命を取り留めているが、やはり重傷で、今は横になって安静にしている。かごめが心痛そうな顔で目を伏せた。

「狸さんありがとう」

 村へたどり着き、かごめが狸に頭を下げたのに倣い、も頭を下げた。
 弥勒が屈んでお礼の銭だと言い木の葉を差しだし、狸は困ったように頭を掻き、苦笑いした。そこでが弥勒の頭にチョップを喰らわせ、「木の葉やないかぁ!」とたどたどしいツッコミを入れた。

「かごめ、ちょっとこい」
「ちょっとまだ歩いちゃ」
「いいから」

 よろめきながらも歩き出す犬夜叉の後を、と弥勒と七宝もついていこうとするが、「おめーらはくんな!」と一喝。と弥勒は顔を見合わせキョトンとする。

「……追いかけますか?」
「だ、だめだよ」
「といいつつ、行きたそうな顔してますよ」
「……ばれたかぁ」
「いってみましょ。」
「うーん、いいのかなぁ」

 少し罪悪感を感じつつ、弥勒と七宝とともに犬夜叉の後を追った。犬夜叉は骨喰いの井戸にやってきた。そのあとをと弥勒と七宝がつけ、近くの岩場に隠れ様子を見守る。

「かごめ……調子はどうなんだよ?」

 井戸に背を預け、腰を下ろす。犬夜叉は殺生丸にかごめを巻き添えて吹き飛ばされ、意識を失ったときのことを言っているのだろう。質問の意味を理解して、頷いた。

「平気よ。たんこぶできたぐらい」
「そうか……悪かったな」

 目を伏せて、申し訳なさそうに謝った。かごめはしおらしい犬夜叉に違和感を感じ、彼の額に手を当て熱を計る。多分、平熱。

「やっぱりあんた可笑しいわよ」
「お前も聞いたろ? 五十年前俺を罠にはめた奈落が殺生丸の裏で糸を引いていた。だからこれから……もっと危ない目に遭うかもしれない」
「そりゃそうね」
「!!……お前怖くないのかよ! 今回は命拾いしたけど」
「怖くないわよ! それより今はあんたのけがの方が…!?」
「俺は」

 ぐい、と腕を引っ張られ、かごめは犬夜叉の胸の中にすっぽり埋まる。

「俺は怖かった。……かごめが死ぬかもしれないと思ったら怖かった」

 背中に手を回し、かごめの存在を確かめるようにぎゅっと抱きしめる。回した手を首へ這わし、ぎゅっと何かを握ると、不意にかごめを井戸へ突き飛ばす。

「これは俺が持つ」

 犬夜叉は手に持った四魂のかけらを一瞥し、言った。かごめは無意識に鎖骨に手を這わせ、先ほどまで確かに存在した四魂のかけらがなくなっていること確かめた。犬夜叉が先ほどかごめから奪ったのだ。

「四魂のかけら……!」
「お前は二度とこっちにくるな!」

 どん、と突き飛ばしてかごめを井戸の中へ強制的に落とした。




犬夜叉の思い