弥勒の狸が変化して、犬夜叉一行を乗せて楓の村へ向かう。昨夜の疲れから皆は仮眠をとっていた。眠りながら
は夢を見ていた。 『お久しぶりです』 気付けばまた、あの橋の上にいた。暗い、わたしたちだけの世界。久しぶりに会ったは変わらず着物に身を包み、穏やかな笑顔を浮かべていた。 「お久しぶりです」 わたしも挨拶をしかえす。 『黎明牙の力を御覧になりましたね』 「結界を作れるんですか?」 『はい。戦うことでしか守れない私へ我が君がくださった守りの刀。それが黎明牙』 腰に携えた黎明牙をちら、と見る。薄々感じてたけど、やっぱりこれはすごいものらしい。『普通の刀としても使えるんですよ』と付け加えた。 『しかしまだ貴女には長い間結界を張れませんし、範囲も狭いのです』 「なぜですか?」 『変化がまだ不完全なのです』 「どうすればいいんですか?」 どうしてもとの会話では疑問しか出てこない。わたしは知りたいことが山ほどあるんだ、と感じる。のこと、黎明牙のこと、――わたしのこと。 『変化を重ねるごとに力は増します。最後には小さな村一つを守れるくらいになるでしょう』 「じゃあ修行とかはしなくてもいいんですか?」 『私までなるのには必要ありません。各地に拡散し、眠っている私の力が変化の際吸収していくのです。ただ――』 途中で言葉を止め、はわたしとの距離を縮めはじめた。やがてはわたしの目の前にやってきて、初めてこんな近くで真っ向から対峙した。近くで見るはそれはもう美しかった。 『私を越えるには、修練が必要です』 「でも、小さな村一つを守れるならそれ以上はいらない気もします」 『それもそうですね。しかし奈落という者……気を付けてください。どれほどの脅威なのかわかりませんので』 「はい。でも、がいれば平気です」 『ふふ。それはなんだか嬉しいですね』 そういって照れ臭そうに笑ったは可愛らしかった。 『おや、もう時間のようです』 残念そうに呟き、わたしの頬に片手を添えた。薄れていく意識のなか、確かに彼の感触を感じた。 『またね、』 なぜだろう、彼に名を呼ばれると心地よくなる。くすぐったい気持ちのなか、まどろみに身を任せた。 たゆたう世界 |