「弱小な貴様等など一振りだ。まっていろ、

 破魔の矢の効力が消え、再び変化した鉄砕牙を振り上げ、優雅な動きで降り下げようとする。だが、振り切るか切らないかのところで犬夜叉が、風圧にも負けずに殺生丸の腕につかみかかる。先ほど百の山の妖怪をなぎ倒した時のような事態は防げた。
 しかし殺生丸の一振りで発生した風が岩を飛ばし、犬夜叉に言われたとおり少し離れた場所に避難したたちを襲うが、は黎明牙を咄嗟に振りかざした。なぜだか体が勝手にそうしたのだ。すると先ほど殺生丸から逃れるさい放たれた淡い光が再びたちを包み込んだ。

「やっぱり……」

 黎明牙にはなにか秘密がある。


「敵に背中をさらすとは!」

 殺生丸の毒の爪が、犬夜叉の背中に突き刺さり、犬夜叉の腹を貫通した。腹部の鈍痛と違和感、異物感に犬夜叉が眉根を寄せる。殺生丸は緩慢な動きで犬夜叉から手を抜き取り、鼻であざ笑う。
 その様子にが思わず駆けだそうと半歩だしたが、先ほどの犬夜叉の言葉と真摯な表情が頭をよぎりぐっと留まる。――犬夜叉の思いを踏みにじるわけにはいかない。

「犬夜叉!」

 不意に後ろから悲痛な叫びが聞こえてきて、顔だけ振り返ると、かごめが駆け出そうとしてるところを弥勒が抑えている。

「かごめ様戻ってはいけない!」
「だって……!」
「今戻れば犬夜叉の気持ちを踏みにじることになります!」

 弥勒の言うとおりだった。かごめが駆け出そうとする足を止め、悔しそうに下唇を噛んだ。



「泣かせるな。仲間を逃すための時間稼ぎか……」
「なんだよ殺生丸……気づいてねえのかよ」

 ニヤと口角をあげ、次の瞬間殺生丸の左腕を引きちぎる。

「俺の鉄砕牙……かえしてもらったぜ!」

 腕を捨て、血みどろになった鉄砕牙の束を握る。形勢逆転と思われた。が

「ぐっ……!」

 殺生丸の腕が貫通した腹部からの大量の出血で、犬夜叉はとうとう力が抜け、鉄砕牙を地面に突き刺し気を失ってしまった。が庇いにでようとしたが、殺生丸は動かない。

「殺生丸様……あやつ気を失って」

 いつの間にか殺生丸の隣にやってきた邪見がそろりと犬夜叉に近づこうとするのを殺生丸が「それ以上近寄るな」と制す。意味が分からず「は?」と殺生丸を降り仰いだ瞬間、気を失ったはずの犬夜叉がぎゅっと鉄砕牙を強く握り、まるで刀を振ったかのように地面に亀裂が入った。

「な、なんで、刀を振ってるわけじゃないのに……」

驚きのあまり腰を抜かした邪見。

(こいつ……気を失ってはいるが、私が間合いに入ったら確実に振り切ってくる)

「帰るぞ邪見」
「は、はい!」
、また会おう」

 そして殺生丸は何事もなかったかのように引き上げていった。

「「犬夜叉!」」

 かごめとが急いで駆け寄る。
 うっすらとした意識の中で殺生丸が退去し、皆が無事なことを確認した犬夜叉は張りつめていた緊張が
一気に解け、そのまま地面へ倒れ込み、今度こそ完全に意識を失った。
 大量の出血とともに。かごめの悲痛な叫び声が木霊した。



鉄砕牙奪還