「さあ吐きなさい。誰に毒虫の巣をもらったのですか?」 弥勒に胸ぐらを掴まれて、顔をひきつらせ、滑稽な顔になりながらも、邪見が口を開く。 「な、何者かは知らぬ。狒狒の皮をかぶって姿を隠しておったし……奈落という名しか」 奈落! 弥勒とが顔をあわせる。 「そいつはどこに!?」 「知らぬ。それに知ったところで無駄だろう? 貴様は虫の毒をたっぷり吸い込んで間もなく死ぬのだ」 弥勒は顔をしかめる。 が眉をつり上げて咄嗟に邪見に拳骨を喰らわした。覚醒したの力は計り知れなく、邪見の顔が思いきり歪んだ。 「弥勒はわたしが死なせない!」 力強い言葉に、弥勒は少し安心を覚えた。根拠なんてどこにもないが、が言うなら本当になんとかなりそうな気さえする。 「くっ……」 だが着々と毒が体内に回っていて、弥勒が苦しそうに俯いてゼェゼェと肩で呼吸をする。 「弥勒!? 大丈夫? しっかり!」 「ふん、ざまあみろ」 弥勒には強気な邪見がふんっと鼻を鳴らせば、弥勒は失礼、との手を丁寧に退かすと邪見を思う存分殴った。 「や、八つ当たりじゃ……」 「少し疲れました……」 は弥勒の額に浮いた汗を拭い、「もう少しだからね」とかごめの到着を待つ。 「あっかごめじゃ!」 「七宝ちゃん! みんな無事?!」 やってきたかごめは慌てふためきながら大きな鞄を漁り始めた。 「どれが効くのかしら……!」 「オラからはなんとも……」 「しっかり弥勒様、薬飲める?」 適当な薬をもって弥勒とのもとへ寄る。顔を見て、が覚醒したことに気がつき何か言おうと口を開いたが、弥勒の容態を案じて黙って薬をに渡し、犬夜叉と殺生丸の戦いが見えるように妖怪の肉片を登っていった。 「うう、……飲ませてください。」 「いいよ、口あけて」 薬をつまみ、口のなかに入れようとすると弥勒が首を横に振る。 「口移しで」 「……絶対いや」 有無を言わさず薬を口に放った。 (まだ冗談言う元気はあるみたい……でも闘いが長引けば危ない……がんばって犬夜叉) 「畜生! 逃げるな!」 犬夜叉の攻撃をしなやかにかわす殺生丸に、苛立ち気に叫ぶ。 「ふっ」 余裕たっぷりの笑みを消し、不意に真顔になり爪を立てた。 「そうだな。なぶるのも飽きた。はやくと話がしたい」 殺生丸の毒の爪が犬夜叉に襲いかかる。ギリギリのところ避けるが、掠った火鼠の衣が嫌な音を立てて溶けていく。刹那、光り輝く弓矢が殺生丸の鎧を刺し、粉々に消し飛んだ。殺生丸が弓の放たれた方向を一瞥すると、やはりそこにはかごめがいた。一瞥したその一瞬の隙をついて、犬夜叉が殺生丸の鳩尾に拳をかます。これには殺生丸も苦痛に顔を歪める。 「面倒だ。女諸共……」 犬夜叉の首を掴み、かごめの方へ投げつけた。犬夜叉は真っ直ぐにかごめに直撃し、二人は地面にたたきつけられた。 「くっ……かごめ!?」 急いでかごめから退き、ぐったりと意識を失ったかごめを抱き起こし、言葉を失う。そのまま静かにかごめを横たえ、殺生丸を見据える。 「てめぇよくも……」 「女とともに地獄へ行け。――?!」 「殺生丸、いい加減にしないと許さないよ」 両手を広げ、犬夜叉の隣に立つ。黄色い双眸に、細い瞳孔。覚醒したの短いスカートの裾がヒラヒラと風に舞い、なんとなく決まってるように見える。 「……」 「わたしは! 鉄砕牙をかえしてっ」 「、」 「に手を出すな!」 犬夜叉よりも大きな声で、の前に躍り出た弥勒が叫ぶ。殺生丸は眉を寄せいかにも不愉快そうに顔をゆがめた。 「法師、虫の毒で死んだのではなかったのか」 「を守りきるまで死ねないさ」 苦しそうな顔に相反して不敵な笑みを浮かべて弥勒が言った。 「あなたを吸い込みます」 「……やってみろ」 「やめな」 犬夜叉が手頃な石を拾い上げ、毒虫の巣に当てる。刹那、毒虫がわらわらとあふれ出てきて、耳障りな羽の音が充満する。 「次吸ったら死ぬぞ」 「くっ……だが!」 「かごめとを連れて逃げてくれ。……二人を頼む」 真剣な顔で頼まれ、弥勒は不本意ながら頷く。だがが食い下がる。 「でも…!」 「ダメだ。…は弥勒とかごめを側で守ってくれ」 覚醒したは今このメンバーの中で一番の戦力になると思ったので、犬夜叉は真剣な顔でお願いする。 「……わかった」 渋々頷き、弥勒とかごめを難なく担ぎ、七宝を肩車して地面を蹴った。 奈落の差し金 |