先ほど弥勒が吸い損ねた巨大な妖怪の残骸の影に隠れ、弥勒をそっとおろす。あわてて犬夜叉と七宝もやってきた。 「! お前……顔が」 の顔は瞳孔が細くなっていて、耳は尖り、髭を思わせる三本の赤い線が両頬に入っている。これはが覚醒していることを意味している。 「隠れても無駄だ」 殺生丸が犬夜叉たちが隠れた巨大な妖怪の頭を鉄砕牙で切り裂く。見事に裂かれた妖怪の頭からは、犬夜叉の姿は見あたらない。 「消し飛んだか」 「そう簡単にくたばってたまるか!!」 妖怪の肉片の中から犬夜叉が飛び出て、殺生丸に飛びついていく。 「わざわざ飛び出してくるとは!」 ニヤ、とイヤな笑みを浮かべて鉄砕牙を犬夜叉に切りつける。彼に武器はなく、そのまま真っ二つになると思いきや、犬夜叉は鉄砕牙の鞘で対抗した。 「……弥勒!」 覚醒したが肉片の中から出て、埋まったままの弥勒を捜し当て、抱き起こした。 「………すまない」 「ぶはっ!」 弥勒に引き続き七宝も自力で脱出した。すると傍らで邪見が出てきた。 「どうも引っかかる……」 顔をしかめて細い瞳孔でギロッと見下された邪見は、怯む。彼女はの生まれ変わり。邪見が怯むのも無理はなかった。の言葉に弥勒が言葉を続ける。 「あの毒虫の巣。まるで私のためにあつらえたような……どういうことですか?」 苦しそうな顔にニヤリと笑みを浮かべて問うと、邪見が弥勒を見て鼻で笑う。 「そのようなこと貴様ごときに話す筋合いはないわ」 「ほぉ」 弥勒の顔から一瞬にして笑みが消えた。次の瞬間繰り出されたのが、綺麗な拳。邪見が「はうっ!」と情けない声を上げて顔を歪めた。 「調子扱いてんじゃねぇぞ」 邪見の腕をがしっと掴み、冷たい笑みで見下ろした。 「話してほしいな。」 「や、……」 は口角を上げ意地悪い笑顔を浮かべると、邪見の背筋に戦慄が走った。 「ここは大人しく喋っちゃったほうがいいと思うよ?」 「命は大切にしたいところですけどねぇ」 二人の冷たい笑顔に見つめられ、邪見の精神状態は極限まできていた。 (この二人……危ないぞ!) 七宝が冷や汗を流した。 「刀と鞘で勝負になると思うか? 犬夜叉」 「これはそんじょそこらの鞘じゃねぇ……てめえの頭をかち割るくらいはできるぜ!」 劣性だった犬夜叉がありったけの力で押し返す。が、 「やってみろ」 殺生丸が鉄砕牙に力を込めると、犬夜叉はいともたやすくとばされる。力の差が手に取るようにわかる。 「その前に貴様は消し飛んでいるだろうがな」 口元をつり上げ、犬夜叉に斬りかかろうとした刹那、一条の光が鉄砕牙に突き刺さり殺生丸が静止する。 「!」 鉄砕牙の変化が解け、元の錆びた刀に戻る。ふと、少し離れた場所から声が聞こえてくる。 「殺生丸! 次は体に当てるわよ! 犬夜叉、逃げて早く!」 緑色のセーラー服の少女が大きな荷物を傍らに弓矢を構えて勇ましく殺生丸に食ってかかっている。先ほど鉄砕牙の変化が解けたのはどうやら彼女のはなった破魔の矢が原因らしい。 「殺生丸! 今度は腕……左腕をぶち抜くわよ!」 (あの女……) 殺生丸が眉を寄せる。彼女には見えている。左腕に埋め込まれた四魂のかけらが。 「当たれ!」 かごめが破魔の矢を放つ。が、殺生丸は少し体を傾けて容易くよけてしまう。 「今度こそ!」 「ダメだかごめ! 逃げ……」 犬夜叉が忠告してる間に、殺生丸がふわりと宙を舞い、かごめの前までやってきて爪を立てる。 「死ね」 「やめろ!」 犬夜叉がすかさず横から爪で斬りかかるが、殺生丸は背後に跳び避ける。だが顔に一筋の赤い傷が付く。滴る血をそのままに殺生丸が面白そうに微笑んだ。 「速いな……女のことになると」 「けっ軽口叩いてんじゃねえ! かごめ、もういい。あっちいってろ」 「う、うん……」 おとなしく立ち退き、少し離れた場所から二人を見守る。 「読めたぜ。なぜてめえが鉄砕牙を持てるのか…その左腕、人間の腕だな? その腕ぶんどっちまえばてめえは鉄砕牙に触ることもできねえ。しかも、」 地面を蹴る。 「四魂のかけらまでついてくる。一石二鳥だぜ!」 「ふっ私の左腕に触れられるならばな」 余裕そうに口角をあげて、犬夜叉の攻撃をひらりとかわし、右拳で迎撃する。拳を受けた犬夜叉は地面にめり込みながらとばされた。 「ふん。今のは兄の顔を傷つけた罰だ」 (鉄砕牙を使ってこねぇ……まだかごめの矢が効いてるのか!? 刀が変化する前にぶっ倒さねえと……!) 立ち上がり、殺生丸を見据えた。 VS殺生丸 |