「え……」 「死んだのではなかったのか……?」 「わ、わたしはです! ではないです……、生まれ変わりって噂です……」 殺生丸は上から下まで見定めるように見渡す。そのとき犬夜叉が動いた。 「から離れろ!!」 鉄砕牙を振り翳しながら殺生丸に斬りかかろうとしたが、「邪魔だ」と殺生丸が呟くと同時にひらりとかわし、体制を崩した犬夜叉に無駄な動き一つない蹴りをお見舞いした。犬夜叉は何十メートルも飛ばされた。かごめの悲痛な叫び声がこだまする。 「犬夜叉!」 駆け寄ろうとすると、殺生丸に手を掴まれた。 「離して!」 「はなぜ死んだのだ……」 「離してってば!」 の怒鳴り声とともに、黎明牙から淡い光が名前を包むように放たれた。殺生丸はその光のそとへはじき出された。何はともあれ殺生丸から逃れた名前は一目散に犬夜叉のもとへ向かう。殺生丸はその姿をじっと見つた。 犬夜叉の許へと駆け寄る途中に、犬夜叉がむくりと上体を起こした。 (よかった、生きてた……) ほっと息をつくと、犬夜叉がの所へ飛んできた。 「! 大丈夫か!?」 「わたしは平気! 犬夜叉の方こそ……」 「俺はなんちゃことねえよ。あぶねーから弥勒たちんとこに避難してろ、頼む」 「うん……」 が言われたとおり弥勒たちの所へ避難すると、犬夜叉は殺生丸の前に立ちはだかる。 「てめえ……何しにきやがった!」 「鉄砕牙に決まっている。だが……もう一つ用ができた。そのためにはどうやら貴様を消さなくてはならないようだ」 殺生丸が不敵に笑む。 「ぬけ犬夜叉」 「今度は腕だけじゃすまさねーぜ!」 鉄砕牙を抜き、殺生丸に斬りかかる。だが、怒りに任せた犬夜叉の一撃はあまりに読みやすく、殺生丸は身体をふわりと跳び、優雅に犬夜叉の背後に舞い降りた。鉄砕牙はそのまま地面を斬る。 「ふん。思った通りだ。犬夜叉、貴様全く鉄砕牙を使いこなせてないな」 挑発などではなく、本心で言っているようだった。犬夜叉は奥歯を噛みしめ鉄砕牙を抜く。 「てめえふざけんな!」 再び背後の殺生丸に斬りかかろうとした。 「太刀筋が丸見えだ。大きな力に振り回されている」 殺生丸は犬夜叉の腕を掴み、淡々と告げる。鉄砕牙は空中で停止した。 「くっ……」 腕の皮膚が嫌な音を立てて溶け始めた。 「腕が!」 「毒の爪よ」 かごめの言葉に名前がぞっとした。(わたし、危なかったのかも……) 「刀を離さんと溶けてしまうぞ」 「そうなる前に……」 犬夜叉がもう片方の手を柄に添えた。刹那、渾身の力を双腕にこめる。 「てめえが真っ二つだ!」 押されてた状況から一変、犬夜叉が押し返す。 「いやなやつだ」 ぽつり呟いた殺生丸の表情に変化はなく。は殺生丸に漠然とした疑問を抱く。 (殺生丸は……何者なの) 殺生丸は手を離し、空中に飛ぶ。そして、首元にあるふわふわした襟巻きのようなものを犬夜叉に向かって飛ばす。襟巻きは鉄砕牙にあたり、犬夜叉の手から飛んでいく。 「ちくしょ……!」 急いで踵を返し、鉄砕牙に飛びつこうとすると、先に殺生丸が鉄砕牙の前に降り立ち、地面に刺さった鉄砕牙を容易く抜き、一振り。着地しようとした犬夜叉にお見舞いした。 「教えてやろう。鉄砕牙の真の威力を」 「なんで殺生丸がもてるの!?」 「なんでって?」 は知らないのだ。鉄砕牙のこと、殺生丸のことを。かごめが説明する。 「あの刀は、妖怪は持てないのよ」 なぜ、鉄砕牙を持てるのか? 「殺生丸……さっき犬夜叉の一撃を止めるとき、咄嗟に右手を出した。つまり、殺生丸は右利き。だが、今彼は左で鉄砕牙を持っている。そこにカラクリがあるのでは?」 弥勒の推理に、が頭を活用する。 「左手が、人間の腕ってこと?」 「そういうことです」 その結論に至るのは至極普通なのだが、自分で導きだしたということがなんだかすごく嬉しかった。 「殺生丸は前に犬夜叉に左手を切り落とされてるわ」 かごめの言葉にいよいよ弥勒の説が有力になってきた。 「邪見!」 殺生丸が一声かけると、海にたたずむ巨大な妖怪にちょこんと乗った妖怪――邪見――が「はいっ」と即座に応答する。 「ただいま山の妖怪、精霊どもを追い出します!」 巨大な妖怪は勢いよく山に手を振り下げた。轟音が轟き、はバランスを崩した。弥勒が支えてくれたので、転ぶのは防がれた。 「大丈夫ですか?」 「うん……ありがと」 弥勒に礼を言い、じっと山を見つめる。森がざわつき始めた。次の瞬間、無数の妖怪・精霊たちが一気に山からでてきた。 「よいか犬夜叉……一振りだ。一振りで百匹の妖怪をなぎ倒す!」 鉄砕牙を振り上げた。すると、まるで強烈な風圧ができたように山から逃げ出た妖怪たちどころか、山までもが殺生丸の一振りに呑み込まれた。これには誰もが声を失った。 「妖怪どころか……山までも消し飛んだ」 「なら、これぐらい容易いだろうに」 殺生丸の言葉にが目を見開く。 「どういうこと……」 「それほど強いのだ。は……私なんぞ、の足元にも及ばぬ」 自分の中に確かに存在するに、は恐怖心を抱いた。それが本当ならば、あまりに強すぎる。あの温厚で穏やかな顔からは想像できない。 「待たせたな犬夜叉。次は貴様だ」 鉄砕牙の切っ先が犬夜叉に向けられる。 「鉄砕牙のサビになれ」 「ちくしょう……!」 鉄砕牙のない犬夜叉は明らかに不利な状況で、下手したら殺生丸に殺されてしまう。というか、殺されだろう。は居ても立ってもいられず、走り出した。犬夜叉を守るために。 「やめてよ!!」 「な……!」 両手を広げ、目の前の殺生丸をにらみつける。勇気ある行動に出てみたが、心臓は破裂寸前。逃げたい消えたい泣きたいの三拍子だった。それを悟られないように、は顔を険しくして歯を食いしばる。(負けるな!) 「……どいてくれ」 「じゃない!!!」 「どいてろ! こいつは俺の敵だ!」 ずい、と今度は犬夜叉がの前に躍り出る。 「もう黙ってられませんな」 さらに犬夜叉の前に弥勒が躍り出た。負けず嫌い犬夜叉、それが気に喰わず弥勒の前にでる。 「てめえはひっこんでろ!」 「犬夜叉一人では無理です。」 「喧しい! 俺の前に立つな!」 「こどもね……」 かごめがの隣にやってきて、あきれたようにため息をついた。 「あとはこの私にお任せを。殺生丸様のお手を煩わせるまでもありません」 邪見が自信ありげに言った。 「……そうだな。みてみたい」 「つぶしてくれる!」 手が犬夜叉たちをつぶそうと迫る。真っ暗な陰が彼らを包む。 「私にお任せを」 弥勒が数珠を取り、風穴を解禁した。 「成敗!」 巨大な妖怪が風穴に呑み込まれていく。邪見が焦燥しきった顔で「えっ!?」と狼狽えている。ただの人間だと思っていたのだろう。殺生丸は鉄砕牙を地面に突き刺し持ちこたえる。 「きゃーっ! 弥勒様すごい!」 「……」 「犬夜叉もすごいけど」 「とってつけたよーに言わんでいいっ!」 そのとき殺生丸が何かの巣のようなものを弥勒に投げつける。そこから虫がたくさん出てきて、弥勒の風穴に自ら吸い込まれていくように飛び込んでいく。刹那、弥勒の身体がぐらつく。 「くっ……! 犬夜叉、あとは任せた!」 風穴を閉じ、地面に倒れ込む。明らかに様子がおかしい。犬夜叉が散魂鉄爪で虫を倒す。 「弥勒! どうしたの!?」 「虫の毒にやられたようです……」 弥勒の身体が熱い。そのとき、の身体がざわついた。 ――弥勒が危ない その言葉が頭の中に反響する。 「毒!? 待ってて、薬とってくる!」 かごめが走ると、は弥勒を難なく担ぎ上げる。 「!?」 「ここは危ないよ。安全なとこまで運ぶ!」 「おい! へーきなのか!?」 犬夜叉の言葉を無視しては弥勒を担いだまま飛び、少し離れた場所で着地した。 に弥勒を担ぎ上げる力なんてあるわけないのに、は軽々と担いだ。さらには人間では考えられないほどの飛距離。弥勒がぼんやりする頭で導き出した考えは、 が覚醒した。 弥勒の危機と覚醒再び |