やってきたのは港町。
野宿続きだった一行は、久々に屋根のあるところに寝泊りすることになった。

「よかったー野宿じゃなくて!」

かごめがご飯を食べながら本当に嬉しそうに言った。
犬夜叉がそれをきいて面白くなさそうに「悪かったな、いつも野宿で」と呟いた。
一方は、お祓いをしている弥勒をついてきていた。弥勒は方位ごとにお札を貼っている。
はそれを不思議そうに見ていた。

「これで大丈夫。不吉な雲は消えましょう。」
「ありがとうございます法師様。」

屋敷主が折れ曲がった腰を更に折って礼を述べ立ち去った。

「すごいねー。」
「何がですか?」

与えられた部屋へ向かう最中が弥勒のことを褒めた。
しかし弥勒には皆目見当が付かないらしく、目を丸くする。

「不吉な雲をはらえるなんてすごいよ!最初は似非法師かと思ってたけどやっぱり違った。疑ってごめんね。」

いまやの目はキラキラと輝いている。対する弥勒は焦っていた。


――嘘なのに。


……?」
「ん?」
「あいやなんでもないです。」

自分のことを尊敬し、信じきっているにとても嘘だとは言えなかった。

「お疲れ様ー」
「ええ、お待たせしました」

部屋ではかごめがご飯を食べていた。
犬夜叉は柱にもたれていて、顔から不機嫌さが醸し出されていた。

「おい弥勒。」
「はい?」
「宿探しの刻限になると辺りで一番良い屋敷に不吉な雲がたれ込めてるったあどういうことだ?」

言われてみればそうだ。確かにいつも不吉の雲がたれこめている。

「嘘も方便というじゃありませんか」

言って弥勒はハッとした。
そばにはがいて、さきほど自分の法力を褒められたばかりだった。

「嘘だったのか!?」

素っ頓狂な犬夜叉の声と、

「嘘だったんだ……」

騙されたといわんばかりのの声。
二人は信じられない、といった表情で弥勒を睨んだ。だがかごめも七宝も驚きもしなかった。
彼らは気付いていたらしい。

「嘘つき!」
「ほら、こっちこい!」
「うん!」
「そんなあ……」

犬夜叉の隣に腰を降ろしたにとほほ、と肩を落とした。

「自業自得ね。」
「まあそのおかげで屋敷に泊まれてるんじゃがな。」

+++

夕飯を食べている最中、何の前触れもなく急に悪寒がした。

なんか……くる。
直感がそう告げる。

いままで感じたことのない強大な邪気。

「四魂のかけらの気配が!ものすごい速さで近づいてくる……」

かごめが立ち上がり叫ぶ。たぶん四魂のかけらを持っているヤツが邪気の正体だろう。
一同は急いで屋敷の外へ出るべく走り出した。走っている最中地鳴りが響いた。
夜の闇を切り裂くようなその音に、は冷汗をかく。

(でっかくて気持ち悪いのじゃないといいな……)

屋敷を出たと同時に地鳴りの正体が姿を表した。

「でっかくて気持ち悪い……」

の願い虚しく、クリティカルヒットだった。
よく目を凝らすと、でっかくて気持ち悪い妖怪の肩に誰か乗っていた。

「殺生丸……。」

傍らで犬夜叉が呟いた。
殺生丸と呼ばれた男はふわりと宙に浮いたと思ったら、次の瞬間には犬夜叉の目の前にいた。
かごめが悲鳴を上げつつ逃げ、七宝が続く。弥勒もきょとんとしつつも、弥勒以上にきょとんとしている
の手を引いてかごめに続いた。犬夜叉は一拍遅れてとびのいた。

「相変わらず動きが鈍いな……」
「殺生丸……!」

安全域に逃げ込んだたちは岩影に隠れて犬夜叉達を見守る。

「お知り合いですか?」

弥勒がこそっと聞くと、かごめが説明を始める。

「犬夜叉のお兄さん…犬夜叉と違って本物の妖怪よ。」

犬夜叉に兄弟がいたなんて初耳だった。言われてみれば髪が似ている気がする。
犬夜叉と比べ冷淡な顔をしていて、怖いくらい整った顔立ちだ。

「まだ鉄砕牙を狙ってるのね!」

理由は不明だがどうやら犬夜叉の鉄砕牙を狙っているらしい。

「ん……?」

殺生丸の目がに止まった。その瞬間はドキリとした。
生命の危険を感じた。目が…目が合ってしまった。
殺生丸はふわりと浮き、刹那彼はの目の前にやってきた。

「この匂い…なのか……?」



殺生丸あらわる