新たに弥勒と言う仲間が加わり、犬夜叉たちの旅は賑わいを見せた。

「かごめ様はお美しいですなあ」
「まあ! 弥勒様は正直者ね」

 かごめが自転車を押しつつ嬉しそうに笑った。は犬夜叉の隣を歩く。

「仲が良いみたい」
「ったく、いけすかねえやろうだぜ。はあんなやつにだまされるなよ」

 とはいうものの、弥勒に言われた言葉に引っ掛かりを感じる。好きだといってくれた言葉は、嘘だったのだろうか。弥勒とかごめの華やかな笑い声が前から聞こえてきた。

「ねえ犬夜叉は、四魂の玉を手に入れたらどうするの?」
「……。本物の妖怪に、なりてぇ。」

 少し歯切れの悪さを感じた。

「妖怪になってどうするの?」
「強くなりてぇだけだよ」
「でも人間になろうって思ったんだよね」
「あんなの気の迷いでい」
「半妖でいいと思うんだけどなあ」
「ったく、るせーな」
「わたしはどうなるのかな。かごめは井戸から帰れるけど、わたしは帰れない。もしかしたらこのままずっとここにいるのかもね」

 現時点で唯一と言える現代と"今"を繋ぐ骨喰い井戸は四魂のかけらに因縁のあるかごめと犬夜叉しか
使うことができないらしい。自分はくしゃみをやってきたのだが、次くしゃみをしたときに帰れるとも限らない。可能性は低かった。

「……そんときゃ、俺が面倒見てやるよ」

 犬夜叉を見れば、頬を赤くしてただ前を見ていた。犬夜叉の優しさが嬉しくて、は小さく笑って「ありがとう」と衣の裾をそっと掴んだ。

+++

「こりゃひどい」

 弥勒の言ったとおり、ひどい光景だった。無数の死体にまがまがしく陰欝な負のオーラのようなものが包んでいる。むせ返るような血の匂い。死体と言うものをはじめて見たは泣きたくなる。そんなの肩をそっと優しく弥勒が抱いた。

「大丈夫です、私がついています」
「ありがとう……」

 弥勒の優しさに胸が熱くなるが、先ほどの弥勒とかごめの様子を思いだし、素直に喜べない。

「ただの雑魚妖怪じゃねえな……」
「四魂のかけらがからんでいる」
「っておい弥勒! なにしてやがる!!」

 弥勒をから引っぺがした。

「俺はもかけらも、譲る気ねーからな」
「早い物勝ち……ということですね」
「かけらのほうはな」

 犬夜叉と弥勒の視線がぶつかった。

「まあまあの取り合い?」
「るせーだまってろかごめ!」
「ならここでお別れします。私は一人で勝手に動きます」
「え……一緒に行くって」
「犬夜叉はそうは思ってないようですので。……、少しよろしいか」
「うん?」

 弥勒はを連れて少し離れた場所へ移動した。犬夜叉が何か言いたそうに二人を見たが、結局何も言わず二人の様子を見守る。

「気になる?」
「ぜんぜん」

 そういいつつ険しい顔で二人を見続けるという言っていることとやっていることが裏腹な犬夜叉に小さく苦笑いした。

「きっと忘れてしまわれただろうと思って、念のためもういちど言っておきます」
「うん……?」
「『私の気持ちは本気です。それを忘れないでくださいね』」

 先ほど茶屋で言われた言葉が蘇った。弥勒を見れば、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「しばしお別れですが、かけらを追っていればいずれ会うことでしょう。寂しいでしょうがしばしの辛抱です」
「はいはい」

 何がしばしの辛抱です、だよ。と心の中で思い、小さく笑った。

+++

 弥勒と別れてたあとの犬夜叉の行動はすばやく、を背にのせて何かをかぎつけるように鼻をひくつかせ、とにかく走った。かごめと七宝は自転車で追い掛ける。

「ねえ、何を探してるの?」
「さっきの死体からかすかに墨の匂いがしたんだ。……ん!?」

 突然犬夜叉が声を上げる。

「墨のにおいだ!」

 どうやら見つけたらしい。犬夜叉が走るスピードを上げて墨の発臭地へ急いだ。




こんにちはとさようなら