つれてこられたのは昔の雰囲気のする木造のお屋敷。犬夜叉に担がれ軽いジェットコースターをしばし体験して目が廻りダウン寸前の は担がれながら屋敷の中に入っていく。

「で、名前は?」
……

 犬夜叉という男。先ほどは恐怖のあまり思考は止まっていて気付かなかったが、今思えばなんだか変な名前だ。犬夜叉。なんてぼんやり思っていると、犬夜叉は立ち止まった。

「おいババア。見てくれ」

 そういってを座らせる。 の視界に現れたのは神社にいそうな巫女姿の少々大柄な老婆……というよりおばあさん。片目に眼帯をしている。

さま…!?」
「あ、いや、違うんです。っていいます」

 再び赤の他人に間違われる。なんだか申し訳なくてぺこり、頭を下げるが依然として驚愕の表情を浮かべている。

「おいババア、大丈夫か?」

 いつまでも静止しているのを見かねた犬夜叉が声をかける。

「……ああすまん。あまりに似ていてな。、と申したか。わしは楓じゃ」
「どうもです」

 さっきから間違えられるとはいったいなんなのだろう。年を取った人に様付けをされるような人というのは一体? 疑問は増えるばかりだ。

「まああくまでみかけの話じゃがな」

 楓がじっとを見る。その視線に耐えかねて、は目をそらした。と、そこで聞きたかった疑問を思い出し、視線を元に戻して口にする。

「あの……かごめっていってたけど……かごめとどういう関係なんでしょう?」
「かごめとそこにいる犬夜叉は四魂のかけらを探しておるのじゃ」

 四魂の……かけら? 探してる? 最近かごめは沢山休んでいる。大変だとは思ったが、それらは仮病で、ここでその四魂のかけらを探していたというのか。

「……へぇ」

 とりあえずこういうのが精一杯だった。

「不思議な運命じゃ。かごめは桔梗お姉さまの生まれ変わりで、さまの生まれ変わりかもしれぬとは」
「でもきっと違うと思いますよ。そんなすごい人の生まれ変わりだなんて……」

 夢のような話だ。平凡なこの自分が、まさか。

さまはな、かつてこの村を妖怪の手から守ってくれていたのじゃ」
「そうなんですか。」

  を語る楓の姿がやけに生き生きしていてなんだか面白い。

もあの井戸から来たのか?」
「あの井戸……? わたしはくしゃみをしたら突然ここにいたの」
「くしゃみをしたら……変な話だな。ちょっとこい」
「へ? あ、はい」

 つかつか歩きだした犬夜叉についていく。屋敷を出て、そのまま近くの森のなかをずんずん進んでいく。

はよ」

 突然しゃべりだした犬夜叉。は斜め後ろを歩いていたのだが、隣を歩くことにした。

「俺の親父に仕えてたんだ。ちっせぇころから兄貴みたいで、親父とおふくろが死んでからは保護者みてぇな感じだった」
「ゆかりがあるんだね」
「まあな。その俺が、は生まれ変わりじゃねえかって本気で思ってる」
「どうしてそう思うの? そんなに似てる?」
「ああ。姿形に、匂いもそっくりだ。あとはなんとなく直感で思う。懐かしい気持ちになる」

 そういって笑みを浮かべた犬夜叉の横顔は実に穏やかだった。目的地はどうやら井戸らしかった。草やら蔦やらが生い茂っていて長い間使われていないようだった。

「かごめはいつもこっから来るんだ。だからもしかしたらもいけるかもしれねぇ」
「帰れる、ってこと?」
「ああ。物は試しだ。飛び込んでみろよ」

 飛び込むのは怖いので蔦を使いながら井戸を降りていく。とうとう底までついたが、何かかわったようには思えなかった。すると、ひょいと犬夜叉が顔をのぞかせた。

「だめだったか」
「みたい」
「俺とかごめはいけるんだけどな……なんでだ?」
「なんでかな?」
「残念じゃねえのか?」
「んー、危機だとは思ってないかな」
「……そうか」

 そんな会話を交わしながら、再び蔦を使い井戸から出た。やはりかわらぬ景色が広がっていた。

「……昔、同じようなこともいってたぞ」
「偶然、偶然」

 苦笑いを浮かべ、もときた道を戻り始めた。

「なあ、。帰る方法、わかんねぇからよ、一緒に旅にこねぇか?」
「旅? なんの旅?」
「四魂のかけらを探す旅だ。もしかしたらそん途中に帰る方法見つかるもしれないぜ」
「でも妖怪がいる世の中なんでしょ? 足手まといにならないかな……?」
「俺が守る。心配いらねぇさ」

 なぜかその言葉にどきりとした。誰かに守るなんて言われたのは初めてで、しかもその守るという言葉の意味が外敵から体を張って守ってやるという、なんとも男らしい意味だから尚更だ。と、そこでいまさらだがふと疑問が浮かび上がった。

「……あれ、犬夜叉は妖怪なの?」
「………俺は、半妖だ。おふくろが人間」
「へぇ。素敵だね」
「素敵? ……俺は妖怪になりてぇよ。」
「人間と妖怪の、どっちでもあるんだから、きっと架け橋になれるよ」
「なんの架け橋だよ」
「そりゃ、人間と妖怪だよ。妖怪って悪さするんでしょ? だから犬夜叉が仲を取り持ってさ」
「けっ。くだんねぇな……にしても、おめぇにしても、考えがあめぇよ」
「柔軟な思想だといってほしいな」

+++

「と、いうわけで、帰る方法探すために犬夜叉の旅についていくことになりました」
「そうか。わしが思うに、がこの世界にやってきたのは必然的だと思う。だから、犬夜叉の旅についていくのもまた必然じゃろう。それから敬語なんてやめてくれ。恐れ多い気すらする」

 どうやら彼らのなかではもう、の生まれ変わりという方向でまとまっているらしい。

「じゃあ遠慮なく……あの、かごめも生まれ変わりだと言ってたよね」
「ああ。わしの姉のな」
「お姉さんはどういう人なの?」

 が問いかけると、犬夜叉は席を立った。その様子はどこか哀しげで、思い詰めているようにも見えた。ふらり外へ出ていった犬夜叉を見やり、楓はため息を吐き、説明をはじめる。

「お姉さまは桔梗といってな、それは素晴らしい巫女だった。 さまとともにこの村を妖怪の手から守ってくださっていた。さまが自刃したあとにお姉さまは犬夜叉を封印して死んだよ」
は自殺したの? それに、犬夜叉を封印……?」
「突然のできごとだった」

 何十年も昔のある日、西国のとあるところで刀を胸に突き刺し自害していたのだという。それを犬夜叉が見つけこの村につれてきて、葬ったのだった。

「理由はわからぬが……実に惜しい死だった。この村の者は亡骸を見て皆が泣いたよ」
「とても、人望があったんだね」
「清く、美しく、やさしく、強く、とても素敵な妖怪じゃった」

 楓は懐かしげに目を細めるのだった。かつての少女の憧憬がかいまみえた。