今は昔、という妖怪がいました。
はとても強く、そして美しい妖怪でした。
は普段、人間の姿をしていましたが、本当の姿は化け猫。
ですが決して悪さはせず、人間と仲良く暮らしていました。
人間に良くするを妖怪は好ましく思っていませんでしたが、
いかんせん彼は強いため、逆らうものは一匹もいませんでした。


《日本妖怪全集より》




くしゃみをしてみれば




「こうやって二人で帰るの久々ね」
「そうだね。うれしいな」

 そういって微笑み合う。日暮かごめとは幼なじみだった。しかしは違う中学に進んだため、同じ学園生活は歩めていないが、小学校からの付き合いは今だに健在だ。最近のかごめは糖尿病の検査入院やら脚気やら大変で、二人一緒の帰路につくのは本当に久しいことだった。

「体調はどうなの?」

 デリケートな質問なので、控えめに尋ねる。

「ん、ま、まあぼちぼちね」

 歯切れの悪い返事に、もしや、と思考をめぐらす。

「……なんかできることがあったら言ってね」

 きっと体調が思わしくないのだろう。かごめの体調を気遣いつつ、もう分岐路にきたことに気付いた。

「ありがとう。……それじゃまた会うのはしばらく後になるだろうけど、またね」
「うん。またね」

 かごめに別れをつげ反対の道を歩いていくと、不意に鼻がむずむずする。これは所謂くしゃみの前兆。

「ふ……は……ふえくしゅ!」

 くしゃみをし終え、目を開けると、突如見知らぬ風景が広がった。

「どこ、ここ?」

 鼻の下を擦りつつどこか此処がどこであるか示すようなものを探すが、見当たらない。辺り一面田舎の風景だった。とりあえず歩いてみると、家がぽつぽつ見えてきた。しかしこれまたどんなに過疎が進んでいるんだと思うほどの田舎っぷりだった。遠目に人が畑を耕している様子が見える。

「おい」

 誰かに声をかけられた。振り返ると、長い銀髪の青年とも少年ともつかぬ男がいた。

「はい……?」
……なのか?」
「あ、違います」
「でもはずっと前に死んだはずだ……」

 銀髪の男はの言葉を聞かずぶつぶつと独り言を言っている。と、そのとき彼の頭についている不思議なものに気が付いた。

「み、み」

 犬だろうか、猫だろうか、そのような耳がついているのだ。しかも飾りじゃなく、本物のように見える。

「その耳は……本物ですか?」
「まあな」
「………ほんもの?」
「おう」

 ありえない。人間の耳は通常目の横についているはず。

「……あ、の。もしよかったら触らせてくれます?」

 しかし興味がある名前は思い切って頼んでみると、銀髪の男はおずおずと了解する。近づき、ゆっくりと手を延ばし触れると、そこには熱はなかったが、そっと指を入れようとするとぴくりと動いて「くすぐってえよ!」と銀髪は怒鳴った。本当に、本物らしかった。手を離し改めて見つめあう。銀髪は端正な顔の作りをしていた。少し心臓の動きが早くなる。こんな美形にじっと見つめられたのは初めてだった。銀髪は不思議な顔をして名前の顔をじろじろ見る。

「ほんとうにじゃないのか?」
「まったくの別人です」
「……」

 銀髪の男は何も言わずにじっと名前を見続ける。そんなに見つめられ続けては、少々気まずい。

「………。こい」

 しばしの沈黙の後、は銀髪に担がれ、びゅん、と地面を蹴り飛び上がった。生まれて初めての経験に思考力が低下し、恐怖しか感じない。飛んでは着地し、飛んでは着地し、と目まぐるしく変わる景色に目が廻りそうだ。

「俺は犬夜叉。おめえは?」
「やああああ!!!」
「あ? ?」
「ちがあああああ!!!!」