「今回の実験はこれでひと段落だ!」

 ハンジが拳を天へと突きあげてはしゃぐ。実験続きの生活もようやくひと段落だ。今回の実験でもかなり巨人のことを知ることが出来た。それもこれも、ひとえにハンジだからこそ成せることだ。さすがわたしのハンジさん! とはうっとりとハンジを見つめる。

「今日は飲むぞ〜? 今日ばかりは私も飲んでしまうぞ〜〜!!!」
「やった〜〜! 飲みましょう! モブリットさん、大好きなお酒ですよ!! 久しぶりにモブリットさんの樽を一瞬で乾かす技を見たいです」
「あはは! モブリットは兵団きっての大酒飲みだからね!! 私も負けないよ〜?」
「分隊長! ! はしゃぎすぎです!!」

 モブリットは普段は自重しているが、ザルなのだ。リヴァイも相当飲むが、恐らく肩を並べるだろう。

「それにしても、君たちにはいつも苦労を掛けているね。私についてきてくれて感謝しているよ。ということで、今日は私の奢りだ! 明日はみんな非番だし、存分に飲みたまえ!!」
「ひゃっほ〜!! 這ってでも帰れるように兵舎の近くのあそこに飲みに行きましょうよ!!」
! どれだけ飲む気だ!」
「大丈夫。もしもの時は私が担いで帰るからね!」

 たちは一度兵舎に戻って私服に着替えて酒場に向かった。

「では、人類の勝利への第一歩に……カンパァ〜〜〜イ!!!」
「かんぱーい!!」

 景気よく酒の入った樽がかち合う。ここのところは実験続きで睡眠もなかなか満足に取れない生活が続いていたものだから、酔いが早い。一杯目を空にするとはぐわんと視界が歪む感じがした。今日はすぐに酔っぱらってしまうかもしれない、と心配しつつも、ハンジが担いで帰ると言っていた言葉をちょっぴり期待している自分もいた。

「いやぁ〜うまい。酒がうまいです!!」

 モブリットが陽気に笑う。

「じゃんじゃん飲みたまえ。も2杯目同じのでいい?」
「はい! 注文しますね、すみませ〜〜ん!!」

 酒が進むにつれて、は自分が酔っているのを感じた。そうなってから酔いが進むのは転がるように早かった。

「モブリットさん! さあ、秘儀・樽乾かしを披露してくださいいい!!」
「オイオイ、、お前絶対酔っぱらってるだろ」
「わたしが酔っていたとしてぇ、関係ありますかあ? 早く乾かしてください!」
「そうだぞモブリット、私の可愛いがこう言っているんだ。早く飲み干せ!」

 完全に出来上がったが据わった目でモブリットを煽り、そんなの肩を抱いてハンジが更に煽る。モブリットはため息をつくと、樽に入った酒を一気に飲み干して、どんとテーブルに置いた。

「ほら、飲みましたよ!」
「……モブリットさん、今本当に飲みましたぁ? わたし、よーーーっくみてましたけど、飲んでるように見えませんでした」
「そうだそうだ! もしかしてモブリット、不正したんじゃないか? 正々堂々、もう一度飲みたまえ!!」
「何言ってるんですかアンタ達!!」

 あはははは! と二人が手をたたいて笑う。

「でもモブリットさんほんとーーーっにお酒強いですよねぇ……すっげえ! 尊敬しちゃいます」
「ええー!? 、私は? 私のことは尊敬してくれないの?!」
「ハンジさんのことは……んふふ、勿論尊敬してますよ。大好きです」
「モブリットのことも大好きなのかい?」
「大好きです!」
「えええ〜〜〜〜!?!?!? モブリットと私、どっちが好きなの!?!?」

 の肩をがしっと掴んで悲痛そうな顔でハンジが問う。

「ハンジさんに決まってるじゃないですか!」
「さすが!!! もう、モブリットにヤキモチ妬いちゃうところだったじゃないか!!」
「なんで二人のイチャイチャを俺が見なきゃならないんですか!! 部屋でやれ!!」

 ひし、と抱き合う二人にモブリットがツッコむ。 

「モブリットはエッチだなあ。部屋でヤれ、なんて……」
「分隊長! 妙な言い方しないでください! そういう意味で言ったわけではありません!!」
「モブリットさんもそんなこと言うんですねぇ! お酒ってこわい」
「アホ! この酔っぱらいめ」

 きゃっきゃ笑っていたと思ったら、程なくしてはテーブルに突っ伏して眠り込んでしまった。隣に座っているハンジが優し気に眼差しを細めて、着ていた上着をにかける。

「分隊長もそんな優しい顔をするんですね」
「ん? そんな優しい顔してた? あはは、なんか恥ずかしいなあ」

 ハンジはぽりぽりと頬をかきながら笑う。かけていた眼鏡を上へズラして、実はね。と語りだす。

「ほんとのところ、私は壁外にを連れて行きたくないんだよ。この子を危険に晒したくない」
「しかし、それはが嫌がりますよ」
「わかってる。だからこそ、常に目のつくところに置いているが、心配でね」

 は壁外で、ハンジの目の前で巨人に食べられかけたことがある。あの時は本当に血の気が引いたし、今思い出しても恐怖で体中から力が抜ける。彼女を失うかもしれないという恐怖はもう二度と味わいたくない。けれどは間違いなく一緒に行くというだろう。

「自分は、壁外で傍にいたほうが生存率が上がると思いますよ。のことは分隊長が全力で守ってくれるし、分隊長はがいれば突然隊列から巨人を追いかけて飛び出したりもしないですし」

 生き急ぎ過ぎているハンジは、がいれば少し留まってくれる。ハンジの生き急ぎの抑止力になることを考えれば、は何が何でも壁外調査についていくだろう。

「ははっ。そんなこともあったね」
「それにはかなり訓練も頑張っているので、分隊長が思うよりたくましいですよ」

 ハンジ班に入るために相当努力をしたとかつてモブリットに言っていたが、入ってからも努力しているのをモブリットは知っている。巨人を倒すのも、巨人を捕獲するのも、相当技術が必要なのだ。
 ハンジ班に居続けるために、周りに実力を認めさせるのも必要なんです! と熱く語っていたは今は夢の中であるが。

「……それでも、壁の中にいれば危険に晒さずに済むだろう」
「自分から見たら、より分隊長のほうが危険な目に合ってると思いますがね」

 と二人でハンジの死亡フラグを今まで何回折ってきただろうかとモブリットは遠い目をする。確かにね、とハンジは快活に笑った。

は人類が勝利するか、結婚して子どもができたかしないと前線から立ち退かないと思いますよ」
「あぁ……そうかぁ……」

 なんだか怪しい気配を察知してモブリットが訝しげな視線を向けると、案の定スイッチの入ったハンジが妖しい笑みを浮かべていた。

「分隊長……?」
を孕ませれば大人しく待っててくれるのかぁ……私が毎晩に子種を植え付ければいずれは妊娠して安全な壁内で待っててくれるじゃないか……」
「分隊長!! アンタ言葉のチョイスがゲスいわ!!!」
「よぉーしモブリット!! 今日からと子作りに励もうとしよう!!」

 先ほどに優しい顔で自身の上着をかけていた人と同じ人物とは思えない豹変ぶりは酒のせいか、もともとの人格ゆえか。ハンジさんは眼鏡をかけなおして、! と名を呼びゆさゆさと揺らす。

、さあ起きて」
「んー……」

 中々起きないを見かねてハンジさんは身体をくすぐりだす。

「ちょ、なんです! あははは!!! おきてますう!! やめてええ」
、帰るよ! そして子作りするよ!」
「何言ってるんですかハンジさぁん……うーなんか大きい声出したら頭痛い……」
「分隊長! 今日くらいはゆっくりさせてあげてください!」

 部下の安眠が脅かされようとしているが、この上司はモブリットの言うことを聞かないだろう。すまん、俺がうっかり子どもの話をしたものだから……と心中で懺悔している間にも、ハンジはを担ぎ上げている。

「ではモブリット、良い休日をね!」
「ハ、ハンジさん揺らさないで……ぎもぢわるい……」
「大丈夫! 今から気持ちいいことするからさ!!」

(2020.09.16)
ゲームのハンジさん見てたら思いついたやつ。下ネタじゃねーか。