食堂に行けば調査兵団の面々がそれぞれ夕食をとっているところだった。ああ、お腹すいた。トレーをとってちらと食堂内を見渡せば、エレンたちがいた。食事を受け取ると足早にエレンのもとへ向かった。 「こんばんは、エレン、アルミン、ミカサ。一緒に食べてもいい?」 「さん! もちろんです」 エレンが快く頷いてくれた。ニコニコとそのきりっとした眉を下げるのは、年下と言うのも相まってとてもかわいく見える。その横のミカサはとてもクールな美人だし、アルミンはわたしと同じ班のニファにそっくりな美少女、否、美男子。なんだか三人を見ていたら心が洗われるようだった。 「さんは今日、ハンジさんと一緒じゃないんですね」 そう聞くのはアルミン。わたしは頷く。 「ハンジさんなら研究室で寝ちゃってると思う。いつも一緒にいるイメージ?」 「そうですね、さんは、ハンジさんやモブリットさんか、ニファさんと一緒にいるイメージです」 「言われてみればそうかもしれない。やっぱり同じ班だしね、一緒にいることは多いかも」 よく見ているなあ、なんて感心しながらサラダを食べて、スープを飲む。今日はじゃがいものポタージュだ。 「エレン、スープが口元についてる」 慣れた手つきでミカサがエレンの口元をハンカチで拭う。その様子はさながら姉弟の様子にも見えたが、その親密さについては、実はいつも気になっていた。 「ずっと気になっていたんだけど、エレンとミカサって付き合っているの?」 「いやいや全然違いますよ。小さい時からずっと一緒に住んでるってだけです」 エレンは、何を言っているんだこの人は。みたいな顔で手を横に振るが、ミカサは複雑な顔をしている。そのミカサの表情から、これ以上の追及はなんとなく憚られたので、そっか。で終わらせる。 「さんは、彼氏とかいるんですか」 「え? あ、そうね。いるよ」 自分に投げ返された質問。そうか、自分が聞いたのだから、この質問が返ってくるのは不思議ではない。何て答えようかな、と考えを巡らせる。言っていいものなのか、どうなのか。言い淀んでると、エレンが、当てていいですか? と目を輝かせた。 「モブリットさんですね!」 「あはは! そうきたか!」 個人的にその回答が面白すぎて、声をあげて笑う。 「おれの名前が聞こえたけど、どうかしたのか」 「モブリットさん、聞いてください。エレンはわたしとモブリットさんが付き合ってるように見えたんですって」 夕飯のトレーをもったモブリットさんが訝しげな顔でわたしの横に来て、そのまま座った。モブリットさんはわたしの言葉を聞くと、とても複雑そうな顔をした。 「エレン、断じて違うからな。そんな噂くれぐれも流さないように。アルミンとミカサもね」 「は、はあ」 モブリットさんにあまりの気迫に、三人はこくこくと頷いた。わたしはもう笑いが止まらない。理由はあるにせよ、そんな真顔で釘を刺さなくても。 「そうか、エレンは知らないのか……」 「知っている人のほうが少ないんじゃないですか」 わたしが付き合っていることは、仲の良い人しかしらないはず。 「この狭い兵団内なんて噂なんてあっという間に広まるぞ。まあエレンたちは新兵だから、知らなくても無理はないか」 「そんなに広まってるんですか……困りましたね」 兵団内での恋愛は禁止されているわけではないが、なんだか公私混同とか言われそうで困る。わたしよりもむしろ相手の方が困るんじゃないかな。それだけは避けたい。 「えーじゃあ誰なんですか、オレの知ってる人ってことですよね?」 「エレン、そんなズケズケと聞くことじゃない」 「ありがとうミカサ。でも、秘密にしてくれるって言うなら教えるよ。ただし、当たったらね」 「すぐ当たりそうなもんだけどなあ」 モブリットさんがからかうように笑いかけてきた。そんなに分かりやすいのかなあ……わたしは仕事中に関係性が分かるようなことはしていないと思っているんだけど。 「なんだか面白そうな話をしてるじゃない」 心臓が止まるかと思った。振り返らなくたって声の主は分かるけど、反射的にわたしは振り返り、声の主――ハンジさんを見た。 「私たち付き合っているんだよ、知らなかった?」 三人は面白いくらい驚愕した。クイズだったのに、バラされてしまった。 そう、わたしの恋人はハンジさん。ハンジさんはわたしたちの関係を証明するかのようにわたしの後ろから首に腕を回して寄り添った。か、顔が近い……! 慌てて前に向き直る。人前でこんな近い距離でいるなんてなんだか恥ずかしくてわたしは顔に熱が集まるのを感じる。 「えええええ!! ハンジさんって恋人とかいたんですか!?」 「失礼だなあエレン、私だって恋人くらいいるさ」 “わたしの恋人がハンジさん”と言うことよりも、“ハンジさんに恋人がいた”と言うことの方が衝撃が凄いらしい。何となくわかる気がするけど。ミカサなんかは驚き過ぎてフリーズしている。 「いや、ハンジさんって人間のこと好きになるんだって……」 「僕はてっきり、巨人への探求に心血を注ぎ過ぎて、そういうことには興味がないのかと思ってました」 「アルミンまでそんなこと言うの。私だって人間だよ? ま、そういう訳だから、私の可愛い恋人に手を出さないようにね」 顔が近いからハンジさんの声が耳元で聞こえてきて、こんな状況なのにぞくぞくしてしまうわたしは悪い子だ。 「さん……」 エレンが何か言いかけたと思ったら、ミカサが物凄い勢いでエレンの目隠しをした。途端、エレンは非難の声を上げる。 「なんだよミカサ! なんで目隠しすんだよ!」 「見ちゃダメ」 「分隊長! 気持ちは分かりますが公共の場でイチャイチャするのはやめてください」 「なんだよモブリット、たまにはいいじゃないか今は仕事中じゃないんだしさぁ。徹夜続きでウトウトしてて、気が付いたらがいないから探しに来たんだ。、食べ終わったら帰ってきてね」 「は、はい……」 待ってるよ、とわたしにだけ聞こえる声でつぶやいて、ハンジさんは戻っていった。残されたわたしは体が熱くて手で扇ぐ。 「そういう訳だから、はハンジさんと付き合ってるんだ」 モブリットさんが説明してくれた。それと同時にミカサの手を無理やり剥がしてエレンが視界の自由を手に入れたようだった。 「さんがハンジさんと付き合っているのも吃驚でしたが、ハンジさんが人間のことを好きになるっていうのも驚きでした……」 アルミンが呆然としたまま言った。 「わたしも、まさかハンジさんがわたしのことを好きになってくれるなんて吃驚だったなあ。さて。ご飯も食べ終わったし、わたしは先に失礼するね。おやすみなさい」 わたしはいそいそとご飯を食べ席を立った。 「さん……女の顔してた」 「エレン!」 エレンの呟きと、ミカサの咎めるような声が背後から聞こえてきて、わたしは顔から火が吹くかと思ったが、振り返らずにまっすぐにハンジさんの研究室へ向かった。 「失礼します」 相変わらず研究室は荒れ果てていて、その中心にハンジさんはいた。わたしに気づくと、くるりと振り返って「!」と名を呼んだ。積まれた本や散らばった紙を慎重に避けながら、ハンジさんのもとへ赴いた。 「おかえり」 「ただいま、ハンジさん。さっきは吃驚しましたよ」 ハンジさんに横から抱き付きながら言うと、ハンジさんは頭を撫でてくれた。 「あはは。だってみんなに教えなくっちゃさ。私のだってさ」 「言ってよかったんですか? 隠しておいた方がよかったのかなって思ったんですが」 「どうして? は知られて嫌だった?」 「わたしは問題ないですけど、でももしハンジさんにとって不利益になったら嫌だな……って思って」 腰にまわす力が思わず強くなる。わたしだけのハンジさんだって思いたい。今だけは、今だけでも。この手の中にいるんだから。 「どうして不利益になるって思うの?」 「……例えば、公私混同だってハンジさんが他の人から言われたりしないかなって。それに、わたしなんかが恋人って……その」 「」 強い力で引き離され、肩に手を置かれたと思ったら、そのまま椅子に腰かけさせられた。 「どうして“わたしなんかが”って思うの? 私が好きなを、そんな風に言わないでほしいなぁ。私はが好きで、は私のものだってみんなに知らしめて、誰も手出しできないようにして独占したいって思っているよ。それに私たちは果たすべきことを果たしている。誰も公私混同なんて言わないさ」 「ハンジさん……」 眼鏡の奥の瞳は熱を湛えていた。その熱が伝わってきてわたしは熱に浮かされそうな感覚になる。そのままゆっくり顔が近づいてきて、唇が重ねられた。ちゅっと音をたてて、唇はゆっくりと離された。心臓が何かに握りつぶされそうなくらい締め付けられて痛い。今度はおでこをくっつけて、わたしの両頬にハンジさんの手が添えられた。 「さて、明日は確か非番だね。一緒に寝ようか」 「はい……あ、でも片づけないと、それにハンジさんお夕飯―――」 「いーの。さあ、私の部屋へ行こう」 わたしの恋人は、変人マッドサイエンティストで有名な、第四分隊隊長の、ハンジ分隊長です。確かに変人だけど、とってもセクシーでわたしの気持ちを掴んで離さない妖艶なお方なのです。 私の恋人を紹介します。 (2020.09.13) 最新話を読んで感情のままに書きなぐってます。急にすみません。ちょっとだけ書かせてください……。 |