新一と二人でDVD。勿論DVDの内容も気になるんだけど、それよりも隣で一緒にDVDを見ている新一のほうが気になってしまう。足を組みなおしたり、ちょっと身じろいだり、なにか動きがあるたびに新一を盗み見てしまうわたしはやっぱり新一に恋をしているんだろう。
 映画は大詰を迎え、ちょっぴり感動するラストを迎えて物語を締めくくった。

「結構おもしろかったな」
「ね、わたしもタイムマシンに乗ってみたい!」
「なんか、ますます勉強って感じでもなくなってきちまったな」
「確かに。SFは失敗だったね」

 ぐぐっと伸びをする新一に倣って、わたしも伸びをする。

「けどお礼してほしーしな」
「するよ! お礼!! そもそも勉強を見てもらった時点でお礼確定だよ!」
「ほんとかよ、じゃあもう赤点まぬがれなくてもいいな。って、そういうわけにはいかねえんだよな」
「そうなの?」
「ったりめーだ。この俺が教えてるんだ、赤点になんかさせられるかってんだ」
「よーしじゃあ、お願いします。新一先生」

 隣に座っている新一が微笑みを浮かべながら、おう、と言って頭をわしゃわしゃと撫でられた。ぎゅっと胸が縮こまる。ああ、心地よいような、爆発しちゃいそうな、今すぐ逃げ出したいような、このまま時が止まればいいような、いろんな気持ちが一気にあふれ出る。やめてよ新一、いいややめないで、好きだ、大好きだ新一。



うれしくって抱き合うよ
05.また明日




 黙々と問題を解いていく。新一に教わったところは全部面白いくらいに解けている。頭がよくなっていることが実感できるってなんだか気持ちがいい。分からないところは新一に聞き、先生よりもわかりやすい解説をしてくれる。問題を解いては少し休憩をし、やがて日も暮れてきたのでお暇することになった。

「じゃあね、新一。今日はありがとう」

 玄関で靴を履き、笑顔で礼を述べた。

「よし、送ってくよ」
「えっいいよ、すぐ近くだし」
「すぐ近くったって、もう暗いし。つべこべ言うんじゃねーっての」
「えー……でも」

 わたしがぐずぐず言っている間も、新一は靴を履いて、「ほら行くぞ」と、わたしの頭に手を置いてをぐしゃっとし、先に歩き出した。ああまた胸が縮こまる。わたしは小さくうなづいた。
 神様、こんなに幸せで罰は当たらないのでしょうか……? ニヤニヤとしてしまう顔をそのままに、新一のあとをついていく。日の落ちた外は涼しい風が心地よい。

「明日やればもう俺たち、中間テストはたぶん完璧だな」
「ほんと、多分、わたし史上最高点叩き出せる気がする」
「つーことは、来週にはからお返しがもらえるわけだな」
「そういうことです」

 あさっての月曜日から二日間にわたって実施される中間テスト。そののち教科ごとにテストは返却され、赤点かどうかはわかる。よっぽどのことがない限り赤点はないはずだ。つまり……お約束のデートが出来ると言う訳だ。

「楽しみにしてるね」
「なーんでおめーが楽しみにしてるんだよ。そのセリフはこっちのセリフだっつーの」
「た、楽しみにしてくれてるの!?」
「俺はお礼をしてもらえるわけだからな、そういうわけだ」

 なるほど、そっか。お礼かあ、何しよう。デートに行けることがわたしからしたら一大イベントだから、その先の“お礼”については具体的に考えていなかった。何をすれば喜んでもらえるだろう。

「新一は何してほしい?」
「バーロー、そういうことじゃねえんだよ、俺が何をしてほしいか、ということを考えた末にがしてくれること、っていうのがいいんじゃねえか」

 ???? よくわからないが、考えることに意味があるのか。……何がいいんだろう。
 っと、いけない、わたしは一つのことを考え出すと同時進行で何かをする、ってことができないから、これはあとで考えることにしよう。今は隣にいる新一のことだけを考えよう。
 ちらっと隣を歩く新一を見れば、彼もわたしのことを見てくれていた。かち合った目と目。また心臓が飛び跳ねる。慌てて視線をそらしてしまう。

「明日は何時に来るんだ?」
「あっ、い、一応今日と同じくらい……かな、出る前にメールするよ」
「おう、待ってる」

 なんて会話をしている間に、もうわたしの家。ああ、もうついちゃったよ。もっとわたしの家が遠ければもっともっと新一と一緒にいれるのに。

「うっし、じゃあまた明日な」

 玄関の前で片手をあげ、ひらひらと新一は手を振った。うん、なんてわたしは頷きながら同じように手を振る。

「なんつー顔してるんだよ」
「えっ!? どんな顔してる?」
「いや? まあ気にすんな。おやすみ」
「えええ!? おやすみぃー……」

 歩き出した新一を追いかけるように玄関先まで走るが、新一は振り返らずに帰路についている。わたしはどんな顔をしていたんだろう……。去っていく新一の後姿を見ながら、

「また明日」

 と再び呟いて、その姿が見えなくなってから家に入った。胸に手を当てて深く息をつき、“また明日”。その響きの愛おしさをひとり噛みしめた。