「もう、なんで昨日電話でなかったのよ??」 翌日、いつも通り一緒に学校に行っているところに蘭がやってきて、開口一番にそういった。 「おはよう蘭」 朝の挨拶がまだだぞ、という意味をこめてわたしからおはようのプレゼント。すると、蘭ははっとした顔をして「おはよう、順番間違えちゃったよ」とはにかんだ。ふふ、とほほ笑み、次にちらっと新一の様子をうかがうと、ああ、と昨日を思い出すように、視線を空へ移した。 「わりぃ、忙しくってよ」 「折り返しの電話くらい、くれてもいいじゃない」 「わりぃって」 ぶすっと、可愛くむくれる蘭は、女性のわたしが見ても可愛いと思った。そのときに、わたしの頭にひとつ、昨日の情景が浮かんだ。 (そういえば昨日、新一、電話きてたけど、あれだったりして……) ケータイを確認して、しばらく考えて、結果的に電話をとらなかった。もしもあれが蘭からの電話だったら、蘭よりもわたしを優先してくれたみたいでうれしい。まああの電話が蘭からの電話かどうかは定かではないけれど。 「昨日ちょっと早く部活が終わったから私も勉強会参加しようと思ったんだけど」 「そうだったんだ。今日も部活??」 「うんそうなんだあ」 「頑張れ蘭、もうちょっとで大会だもんね。応援いくよ!」 「ありがとう! が来てくれたなら勝てそうな気がするよ」 蘭が好き。真っ直ぐに愛を表現してくれる蘭が大好き。だからこそ、わたしが新一を好きだなんて口が裂けても言えないんだ。 うれしくって抱き合うよ 03.ただ、距離を縮めたいんだ この日もわたしたちは新一の家で勉強会。お邪魔します。といえば、いらっしゃいませ。といたずらっぽく笑う新一と一緒に工藤邸に入り、新一はお茶を出すためにキッチンへ行き、わたしは椅子に座ってそわそわと新一を待つ。 「はい、どーぞ」 「ありがとうー。って、リンゴジュースだ、やったー!」 「ああ、好きだろ?」 どきん、心臓が誰かに握られたくらいぎゅっとなって、痛い。 (新一が、わたしの好きなジュース用意してくれたんだ……!) 頬に熱が集中するのを感じた。ずるいなあ、新一、さらっと嬉しいことをしてくれるのだから。 「あっ、ありがとう!」 なんだか顔が見れなくて、俯いたままお礼を言う。 「おう。うっし、じゃあやるか」 相変わらず新一の教え方は上手で、わたしは魔法にかけられたようにスラスラと問題を解いていった。自分のテスト勉強できなくてごめんね。とわたしが謝ったら、 「いや、教えることによってより深い理解につながるから、俺のためにもなってるんだぜ」 と言ってくれて、少しほっとした。そして新一はわたしが問題を解けて喜んでいると、新一まで嬉しそうな顔をしてくれる。だからわたしもこの顔が見たいが故、やる気が出る。(不純な理由だけど) 好きな人の嬉しそうな顔って、素敵だもんね! そんなこんなで勉強会のおかげでわたしは教えてもらったことを吸収していった。 「蘭来れるかなあ」 わたしがぽつり呟く。 「あいつ、今日やると思ってねえんじゃねーの?」 「え? なんで??」 「いや、俺たちが勉強会をするって言ったのは昨日だが、そのあとに蘭に勉強会をするなんて一言もいってねえーしな」 「そうだっけ……?」 「おう」 言われて記憶を手繰り寄せれば、確かにそんなような気もしてきた。今日も、昨日電話に出なかった件ののちに部活の話になったので、言われてみれば勉強会が続くことを言っていなかったような気がする。 「まあ部活もあるし、いいんじゃねーか?」 「そうかなあ……」 うーん、やっぱりなんか罪悪感がこう、チクチクとわたしを責める。けれどやっぱりわたしも二人きりになれるのなら、二人きりになりたいし、ううう……。 「それに、本当にやばかったら俺に泣きついてくるだろうぜ」 に、といたずらっぽく新一が笑う。そういわれればそうかもしれない。は笑顔になって、確かに。と頷いた。結局蘭はこなかった。 そして次の日も、わたしは新一の家で勉強会をした。 「ねえねえ、もしもさ、わたしが赤点免れたらお礼するからね!」 「おーそいつは楽しみだな。何してくれんだ?」 「そうだなあーわたしとデートなんてどう?」 冗談っぽく言ってみたけれど、淡い期待を抱いてたりする。これがきっかけでデートに行けたりしたら、嬉しいし……。ダメでもともと、といったやつだ。 「バーロー」 新一の口癖だ。やっぱり、駄目かあ。 「そのデートで、俺にお礼してくれんだよな?」 新一は照れた顔をした。例の、眉を寄せて不機嫌を装ったあの顔だ。わたしの胸に何か暖かいものが広がっていくのを感じた。これは、オッケーということだよね。 デート、してくれるんだよね……!? 「もっちろんだよ!! よーし、頑張っちゃおう!!」 幼馴染だもん、一緒に遊びにいったって、不思議じゃないよね?初めて、勉強を頑張ろうと思います。 |