楽しみがあると辛いことだって乗り切れられるって、ほんと。今日の放課後が楽しみ過ぎて、憂鬱な火曜日の時間割はあっという間に撃破できた。(何個か寝ちゃったけど) 帰りのHRが終わり、みんなが荷物をまとめて部活に行くもの、帰路につくもの、遊びに行くもの、それぞれ の行動になる。わたしは荷物をまとめ終わると、ちらっと新一のほうを見る。 「………」 新一と蘭が楽しそうに会話している姿が目に入った。ずきん、また心が痛んだ。今は新一のところへ行ってはいけない。邪魔はしちゃいけないし、そんなことする醜い自分が嫌になりそう。もう一度、忘れ物がないか確認して、それでもまだ喋ってたら、トイレでも行って時間をつぶそう。 うれしくって抱き合うよ 02.放課後キラキラ 忘れ物チェーック。といっても、机を覗き込むだけ。うん、机の中にはいつものセットしか入っていない。すぐ終わっちゃったなあ。 「、行くか」 顔を上げようとしたときに、頭上から声が降り注ぐ。ぱっと元の姿勢に戻ると、どうやら蘭と話し終えたらしい新一がいた。 「うん! どこで勉強する?」 「んーそうだなあ、俺んちでやるか?」 「え?」 「家から近いし、帰るとき楽だろ?」 なんだ、一瞬でも胸を躍らせた自分が浅ましい。論理的で合理的な新一らしい理由に、一瞬、感情が出てしまったかもしれない。 けれど追及されないあたり、出なかったのかもしれない。不思議に思ったことはとことん追求する新一だもん。 「そうだね、賛成!」 片手をあげて、にこっと賛成した。 途中にあるコンビニでお菓子や飲み物を買って、新一の家にやってきた。新一ママとパパは今海外にいていないので、新一は半分一人暮らしみたいなものだった。 「お邪魔します」 「いらっしゃいませ」 ニヤリ、いたずらっぽく微笑んだ新一に迎え入れられた。 「久しぶりに新一の家きたなあ。昔はよく来てたけど」 「そんなもんだろ。俺たちももう、年頃だしな」 他人事のように言う新一。そんなもん、で片付けられて、少ししょっぱい気持ちになった。そんな気持ちを抱えつつも、リビングにやってきて、荷物を置いてテーブルに向かい合って座り、教科書を開いた。 「で、どこがわかんねーんだ?」 「んーとね……わからないところが、わからないっていうか……」 「ははー。できねぇやつの典型的な例だな、こりゃ。骨が折れるぜこりゃあ」 「新一さま、よろしくお願いします」 ぺこっと頭を下げた。うーん、もうちょっと授業を聞いとけばよかったと思うけど、でもわからない分新一に教えてもらえるんだから、嬉しいよ。そもそもわたしがバカだからこの状況ができたわけで、勉強のスペシャリストだったら、勉強を教えてもらうなんてシチュエーションなかったんだもん! 「頭悪くてよかったー」 !!!!!!! 心の中のつぶやきが口をついて出た。そんな自分に自分が一番びっくりした。 「どーいう意味だよそれ」 呆れたように言った新一。でもちょっぴり嬉しそうにも見える。……気のせいか。 「ふふ、なんでもない。じゃあまずは数学から!」 「まず、って……こりゃあ、一日じゃ無理そうだな」 わたしは、好都合だけどね。新一と付き合いたいなんて高望みはしないけど、自分の幸せの追及、してもいいよね。 お勉強会は本当に自分のためになった。新一と一緒にいれて、新一に教えてもらえる嬉しさもあるけど、新一の教え方は本当にうまい。彼の言うとおりに問題を解いていくと、面白いくらいに解けるんだ。難題が解けた時の快感はたまらない。と、新一がいつしか言っていたけど、確かにそうだなと思った。もっとも、わたしにとっての難題と、新一にとっての難題の種類は、まったくレベルが違うけれど。 「そろそろ休憩にするか」 「はあーい! ねえ、新一って本当に教え方うまいね! 先生になれるよ」 「本質をきちんと理解していれば、誰にだって教えることはできるぜ」 「うーんそうかなあ、才能もあると思うよ。」 「そんなに褒められても、なんもでねえぞ?」 あ、照れている。照れた時の新一の顔をしている。こう、眉を寄せて、不機嫌を装っているんだけど、どことなく嬉しそうなこの顔。 と、そのとき、新一のケータイがぶるぶる震えた。新一はケータイを開けて、確認すると、しばらく悩んで結果、ぱたんとケータイを閉じて、何事もなかったかのようにケータイをポケットにしまった。 「? いいの、電話」 「おー。いいんだ」 暫くバイブの音が聞こえ続けたが、やがて鳴りやんだ。それが鳴りやむまでは何か喋りかけては悪い気がして、鳴りやんだのを確認して、口を開いた。 「ねえ、あのさ、もしまた暇な日があったら、教えてよ」 「放課後なら暇だから、教えてやるよ」 「ほんと!? お願いしていい……?!」 「中間は来週。俺がここで見捨てたら、おめー赤点確実だもんな」 「うう……その通りでございます。ありがとう新一さま!!」 にやにやと意地悪な顔をして新一が言った。けれど嬉しすぎて叫びたいくらい。明日も、明後日も、明々後日も新一と二人で一緒にいられる。新一に教えてもらえる。神様ありがとう。 「土日もどうせ家で試験勉強だから、暇だったらこいよ」 「え!?!? いいの!?!?!?」 「そんなに嬉しいのか? ま、こんなに追い込まれるくらいなら、授業寝てんじゃねーぞ」 「よく御存じで」 勉強会……嬉しいな。でもこれって、蘭も誘った方がいいのかな? 今日も来たいって言ってたし、一応声をかけたほうがいいんだろうな。そんなことを考えて、ずん、と気が重くなる。 誘わなくてもいいじゃん? という悪い自分と、誘わなきゃずるいんじゃないかな?と思う良い自分。しかし、蘭がどんな気持ちになるのかを考えると、誘わなきゃな、と思う。この、わたしの中途半端にお人よしに嫌気がさす。 「蘭も……誘っとくね」 「はぁー? なんで蘭の野郎も誘うんだ?」 「え、だって、今日も来たがってたし」 「あー……。んー、まあ、任せるぜ」 なんとも歯切れの悪い返事。ああ、そっか、蘭がいると緊張してうまく教えられないのかな。寧ろ、わたしがお邪魔虫になっちゃうか……。みじめな気持ちになっちゃうの、かな。自分で自分を追い込んでいる気がする。蘭を誘うの、やめようかな? それがお互いのためかな。 新一にとってはただ出来の悪い幼馴染に勉強を教えるだけ。そこに、自分の好きな人が加わったら、気が散ってしまうよね。わたしだって本当は、二人がいいし。いいかな……? たまには、いいよね? 少しの罪悪感を胸に、決意した。 ================================ うーん。怪盗が全然出てきません。 もうしばしお待ちくださいませ。笑 青山。 ================================ |