「ああああ殿ー!!」
「ん?え、どしたの?」
「いいからはやくきてっ、はやくー!」

学校の課題をこなしていたら、ケロロがすごい勢いで部屋に入ってきて、わたしの手を掴んでどこかへ連れていく。
たぶんこのルートはケロロの部屋かな……?どうかしたのかしら。
ケロロはわたしの予想通り、ケロロの部屋にすごい勢いで入っていった。

「つれてきたよ!」
「遅いぞケロロ!さあ早く、を。」
「え、え??なになに?」

ぐいぐいとケロロに背中を押されて部屋の奥へ案内される。すると部屋の隅がなんだか暗いのに気付いた。
それもこれも、隅で縮こまっている存在のせいなんだとおもう。その存在とは、ドロロ兵長。

「ケロロ、またなにかしたんだ?」
「濡れ衣でありますっ!ちょっとドロロの存在を忘れてただけであります!」
「それだって。」
「ひどいよケロロくん……」

瞳をうるうるさせてこちらを見ているドロロ。うーん、トラウマスイッチしっかり入っちゃってるね。
こうなっちゃうと、誰の声もドロロには届かないんだよね。ていうか、わたししか相手をしないんだけどね。

「ねえねえ殿。耳かーして?」

しゃがみこんで髪を耳にかけると、ケロロが耳打ちをする。

「ドロロに愛をささやいてほしいであります。」
「んえっ!?なんで、」
「ああなっちゃったドロロには、殿の言葉しか届かないであります。愛でドロロを救うでありますよっ」

わたしの声しか届かないなんて……言われちゃったらその気になっちゃうよ。
ケロロは親指を突き立てて、任せたであります!とウインクした。

「任せなさい!」

握りこぶしをケロロに見せて、意気揚々とドロロのもとへ歩み寄り、しゃがみこむ。
うう、この空気の中にいたらこっちまで暗くなりそうだ。負のかたまりだなぁ。

「ドロロ」
「……どうせ僕なんて」
「ドロロってば」

ドロロがやっとわたしの目を見てくれた。
顔は涙でぬれていて、なおも涙を瞳にたたえていた。この子の涙は枯れないのかしら。鼻水まで流しちゃって。

「ドロロがだいすきだよ」
「!!殿……!僕を、こんな僕を……!」

どうやらわたしの声、届いたみたい。ごしごしと涙をこすって小さい体でしがみつくようにわたしに抱きついてきた。
よしよしと頭を撫でまわす。も〜、かわいいんだから。鼻水と涙がついたけど、まあ大目に見ましょう。

「あとは二人で楽しめよぉ〜く〜っくっくっく〜」

クルルが銃を取り出して、ドロロに向かって発射する。
とたん白い煙があがり、煙が消えるころにはドロロは人間になっていて、ケロロ小隊は撤退していた。

殿……。面目ない。ありがとうでござる。」

ドロロはわたしから離れて、小さく微笑んだ。
そうだよ、わたし、いつだってドロロの笑顔が見たいんだよ。

「いいえ。これからは辛くなったらわたしのところにきてね。一人じゃないんだから。」

微笑み返すと、ドロロに抱きしめられた。
シャイなドロロにしてはずいぶんと大胆な行動に出た。かくいうわたしも抱きしめられるなんて
まったく予想だにしてなかったので心臓が大変なことになってたりする。

殿、これからも、ふがいない拙者を支えてほしいでござる。」
「もちろんだよ。」

わたしでいいなら、喜んで。




トラウマスイッチなんてくそくらえ!