「ねえねえそこの君」 学校帰り、いつもどおりの通学路を歩いて毛利探偵事務所まで歩いてく。あとは階段を上るだけ、というところで見たことのない女性が俺に話しかけてきた。たぶん、蘭と同じくらいの年齢だ。 「僕のこと?」 一応知らないやつだから、猫をかぶっておく。あー、きもちわりぃ。いつまでこんなマネしてなきゃならねぇんだか……。幼児化させた黒の組織を心底恨めしく思う。 「そう、僕のこと」 なんともいえない笑顔で、やけに癪に障るいい方だった。こいつ……一体目的はなんなんだ? まったくよめねぇのがいらだつ。 「ちょっと聞きたいことがあるの。そこの喫茶店、はいらない?」 ますます意味がわからねぇ。こいつについてくことに何の意味を見出せない。だけど、なんとなく断っちゃいけないような気がした。それは割と好みの顔だったからかもしれないし、違うかもしれない。 「うん、いーよ」 「ありがとう、じゃあ、いこ」 ポアロに入店し、店員とのやりとりをすませて席へ案内される。窓際の席だった。俺はオレンジジュースを、女はアップルジュースを注文した。 「で、早速なんだけどね」 また例のなんとも言えない笑顔をうかべて、まるで何か見定めるかのように俺を見る。真意を見出せないその笑顔が、やっぱりイライラする。 「あなた、工藤新一でしょ?」 !!! な、なんなんだこいつ……!? 突然現れて、むかつく笑顔振りまきながら、白昼堂々俺のトップシークレットをさらりと言い当てた。いくら俺とは言え、動揺しないわけがなかった。そしてそれを、彼女が見逃すわけがなかった。 「やっぱり」 くすくすと楽しそうに笑った。 「大丈夫、それを知ってるからといって逆手にとって脅そうってワケじゃないし」 「な、なにいってるのおねえさん……ぼく、新一兄ちゃんじゃないよ? 新一兄ちゃんとは親戚だから似てるだけで―――」 「うふふ、いいんだよ隠さなくて。本当に、何をする気もないし」 「どこで知ったんだ? そのことを……」 一刻も早く情報源をあぶりだす必要があった。俺の正体を知っているやつっていったら、父さんに母さん、博士、灰原、それに服部……。どいつも、口を滑らすようなことはないとは思うし、こいつと共通点のあるやつもいないと思う。じゃあ、一体誰だ? 「さぁ、どこでしょう?」 ああ、むかつく。 「じゃあ、名前は?」 「。あなたは江戸川コナンね、よろしく」 「ね……あんた、意味わかんねぇな」 とりあえず、運ばれてきたオレンジジュースに口をつけた。 「それはごめんね。ねえねえ、コナン君の秘密を厳守するからさ、そのかわり、チューしてくれない?」 ぶっ、と飲んでいた100%のオレンジジュースを80%ほど噴出した。きたねえ! チュ、チュ、チュー!?!?!? ちょ、コイツ何をぬかしてやがるんだ! 「だめ?」 噴出したオレンジジュースを普通な顔で拭きながら上目遣いにたずねてきた。正直可愛いと思って俺は至って普通な高校生男子だろう。(中身はな) 「……ば、ばかぬかせよ!」 「あ、一瞬してもいいかもって思ったでしょ?」 「思ってねぇよ!」 「ほら、ほらほら、して」 俺の言ってることなんて聞いちゃいない。顔を前に出して目をつぶって待っている。いわゆるキス顔が、俺の目の前にある。なんていうか、どうにかなっちまいそうだった。俺だって健全な男子高校生なわけで(中身はな)やっぱり、こんなことされたらしちゃいたいわけで。でも俺のファーストキスが……! いいのか、いいのか俺!? 俺には蘭という心に決めたやつが、でも、でも、でも、……! 「んっ」 がものほしそうな顔で催促するように小さく声を漏らした。……でもよ、俺の秘密だってかかってるわけで、ここでにキスしたって、きっと誰もとがめないはずだ。誰とキスしようが俺の勝手なんだからな。 「ちょっと、待ってろ」 悔しいが座ったままじゃ届かないから、靴を脱いで立ち上がり、テーブルに手を突いてきょろきょろとまわりを確認する。よし、蘭はいねぇ。顔を近づけていきながら、唇の位置を確認する。鼻が当たらないように少し顔傾けて目をつぶる…… 唇と唇が触れ合うと言うのは、果たしてこういう感触なのだろうか。うっすら目をあけて見れば、至近距離でよくわからないがごちゃごちゃしたものが視界に広がっている。明らかにの顔ではなかった。あわてて唇を離せば、がニコニコと座っていた。 「おい工藤。ウワキかいな?」 はっと声のしたほうを見れば、通路に褐色の男がにやにやといやらしい笑顔で立っていた。 「服部……?!」 大阪にいるはずの、服部平次。一体どういうことだ。服部の手にはお子様用の、まちがい探しがあった。どうやら服部はあれで俺のキスを妨害したらしかった。 「まさか……」 「その、まさかだよ。」 「悪いな工藤。サプラーイズや!」 がすっと奥へつめて、服部がの隣に座る。 「てめぇ…。」 「は俺の女や。マジで手ぇだすなや」 「いやぁ工藤君ひっかかったね」 「なっ。やっぱこいつも男なんやなぁ」 楽しそうに会話する服部とに、俺は苦笑いするしかなかった。俺はコイツらにはめられたらしい。ああ、最悪だ。穴があったら入りたいってこういうことだな。 「大丈夫、蘭ちゃんにはナイショにしときますよ」 人差し指つきたてて、口の前にもってきて目を細めた。可愛い、可愛いんだよ確かに。でも、むかつく…! にゃろう、こいつらはめやがって。 「それは、どうも」 「まっそういうことやから。今後のことよろしくな」 「紹介の仕方が最低だぜ」 「はっはっは。まんまとひっかかった工藤が悪いんとちゃう?」 「ねー。東の名探偵! 頑張りたまえ!!」 そして彼女は愉快そうに笑った 服部とお似合いじゃねぇか… |