翌日、マリアはシスターから洗礼を受けた。ルビー色の綺麗な水を振りかけられ、この修道院の一員として認められた。その姿はそれはそれは綺麗で、三人は見惚れてしまった。
 洗礼が終わり、シスターから祝福されているマリアを見ながら、三人も旅立ちの準備をせねばと、考える。いつまでもここにいても何も始まらない。

「相棒、とりあえず北上していこう。どうやら大きな町があるみたいだぜ。」

 ヘンリーがマリアを見ながら言う。

「そうだな。そこでいろいろ準備も整えようか。でも本当にいいの?俺の旅に付き合ってくれて。」

 昨夜には、とヘンリーがの旅についていく旨を伝えてあった。

「俺たちに帰る場所なんてないからなー。でも、ラインハットは寄ってほしいんだ。ちょっと様子を見てみたい。」
「俺もサンタローズに寄りたい。昨日の夜地図を見たけど、どうやらこの大陸は、サンタローズにもラインハットにも続いているからすぐに寄れるよ。」
「じゃあ、サンタローズに先に寄ろうぜ。それから、ラインハット。それから先は適当だ!」
「三人で旅なんて楽しそうだねー。ていうか旅なんてしたことないから、実はちょっとウキウキだよ。」

 が朗らかに言う。

「モンスターもうじゃうじゃ出るから、あんま気を抜くなよ?」
「もちろんだよ!ちょっと呪文だって使えるし!!大丈夫!」

 が心配そうにを見るが、の顔は変な自信で満ちている。昨日までは少しきまづかったが、一晩寝れば大分気にならなくなった。と自然としゃべれる。

「じゃあ、マリアさんとしゃべったらここを出ようか。」
「あ、ヘンリー……いいの?」

 何が、とは言わずヘンリーに問う。すなわち、マリアとのこと。ここを出ればマリアとは会えなくなる。会おうと思えば会えるが、非常に難しい状況になる。

「生きてればいつか会える。それに、マリアさんといるためにここに残るか、のお母さんを探すためにマリアさんと離れるか、って言われたら、そりゃあ後者を選ぶってもんだ。それにと離れるなんて考えたくもないぜ!」
「ふうーん……? あとでぶーぶー文句なんて言ったって駄目だからね?」
「俺はそんな女々しくないっての!」




オラクルベリーへ




 その日のうちに名もなき修道院を出発した。その際にマリアが、兄からです。といいゴールドを渡してくれたのだがなんだか悪い気がして断った。しかし半ば強引に押し付けられたので、ありがたくちょうだいすることにした。
 は、かつて父と旅をしていた時を思い出していた。自分の攻撃なんて全然通用しなくて、父が攻撃すると魔物はすぐに気絶していた。父のようになりたい、と子供心に思ったのを今でも覚えている。あの頃から幾つも年を重ね、の攻撃で魔物は気絶する。こんなことからも、成長していることを実感する。
 こんな姿を父に見せたかった、とも思う。

「外って広いんだねえ。は小さい頃から旅してたんだっけ?」
「物心ついたころにはもう旅に出ていたよ。」
「いいなー。じゃあ、旅に関してはわたしたちより先輩だね。」

 の言葉にが微笑みで返す。その様子を見ていたヘンリーが、にやり、意地悪な笑顔を浮かべた。しかしその心の思ったことはあえて口にはせず、その話の輪に加わる。

「なあなあ、大きな町で服、調達したいなー! こんな服そろそろやだぜ……。」
「確かに。」
はいいよな。シスターさんからおさがりもらったんだろ?も小さいころの服、新調してもらっちゃって。」

 ヘンリーの言うとおり、は修道院にいた背格好の似たシスターから、服をいただいていた。も、奴隷になった際に来ていた幼少期の服が樽の中に入っていたのを、シスターが生地を足して新調してくれた。恐らくヨシュアがいれたのだろう。ヘンリーの服も入っていたのだが、何せ王子様の洋服。生地なんてないので新調できなかったらしい。

「ふふ、悪くないよ。」
「他人事だと思ってるな、。ちぇっ。」
「次の町で装備をそろえないとね。」

 夜のとばりが下りる前に、一行は修道院で聞いていた、北にある大きな町、オラクルベリーにたどり着いた。実に華やかな街で、遠目からでもそれは確認できた。華やかさの正体は、街の中央にでんと構えたカジノによるものだった。ネオンライトでCASINOと書かれた看板を目の前にして、三人は圧倒された。こんなネオンカラーを生まれてこの方見た覚えがない。なんだかわくわくする。

「これが……オラクルベリー。」

 ぱあっと、目が輝いているのは、の瞳に映るネオンライトのせいなのか。かくいうも、気持ちが高ぶっているのは言うまでもない。ヘンリーに至っては、停止している。

。」

 そんな目で見ないでくれよ。はずるい、まるで子供のようにじっと顔を見るのだ。行きたい、カジノに行ってみたいよ。と。

「……宿をとったらね。」

 宿をとり、荷物を置いてオラクルベリー探索に出向いた。夜だってのに、これからが見せ場だと言わんくらいの賑わいだ。こんな都会には初めてやってきた。
 防具や武器を買い揃え、ふらふらしていると、”オラクル屋”という店があり、寄ってみると、狭く、薄暗い店内で、ちいさなおじさんが一人いた。そこで、旅には必須だよ、というものだから馬車を購入してみた。馬車の相場がいくらかはわからないけれど、の想像していた値段と比べて吃驚するくらいの破格だったものだから、不良品ではないかと少々不安にもなったが、不良品だったとしても、まあしょうがないかと思えるほどの値段、300Gだったのでまあいいだろう。馬車は明日には町の入口に用意するといってくれた。
 そののちカジノに入り、その煌びやかさと、煩さにびっくりしつつ、ぐるりと一周し、とヘンリーは満足したようだった。

「踊ってるお姉さんたちがすごい綺麗だったなあ。」
「な!あんなドレス、が着たら不格好だもんな。」
「失礼な。ていうか、ヘンリー結局、服を買わなかったんだね。」

 そう、ヘンリーはあれだけぶーたれていたくせに、結局服を買わなかった。

「動きにくそうなものばっかりだったからさ。なんか別にこれでいいかな、って思ってしまった。防具もあるしさ。」
「まあ、その服以上に動きやすい服なんてないと思うけどね。」
「違いない。」

 の言葉にヘンリーが笑った。