「遅かったな、って! おはよう!!」
「おはよう。」

 ヘンリーはの姿を認めると目を丸くして驚いた。既に食事は用意されていて、おいしい匂いとご馳走を目の前にして、二人のお腹が限界を訴える。 の中に二人の時間が今も生々しく残っていて、は少しだけ気まずい。

『もうちょっと、二人でいたいな、なんて……。』

 何を考えているんだろう。どういうつもりでいったんだろう。あのあと暫く沈黙が続き、つかまれた手首にばかり意識がいってしまい、 は何も話題が浮かんでこなかった。止めたでただただ黙って、俯いたままで、自分の心臓の音ばっかりが聞こえた。

『そろそろ、行こうか。』

 顔を上げたがそういうものだから、は何も言わずに頷いた。
その顔は照れたような、けれどどことなく穏やかな顔で、自分ばっかりどきどきしていたのかな、と落胆する。

 ん? 落胆?自分の感情に自分が疑問を持つ。なぜ落胆するのだろう。
 こうして今に至るわけだが。
 はヘンリーの隣に座って、二人の前にが座り、その隣にマリアが座った。

「どうぞ、大したものではございませんが召し上がりください。」
「とんでもないです!!!」

 シスターの言葉をヘンリーが全力で否定し、、マリアもうんうんと頷く。

「いただきます。」

 みな口々に言って、食事をいただいた。それはもう夢中で食べた。こんなにおいしいものをもう一度食べれるなんて思わなかったので涙が出そうになった。

「ここには好きなだけいてくださって構いませんからね。」

 ニコニコとほほ笑みながらシスターが言った言葉に、の胸がじーんとしびれた。




二人の行方




、ちょっと海見てみないか?」
「うん! いいよ!」
さん、もしよろしければここの案内をしましょうか。」
「あ、お願いしていいですか?」

 ヘンリーはを、マリアはを誘うというなんだかおもしろい展開になった。ヘンリーがを誘うのよくあるが、マリアがを誘うことなんてほとんどない。もとよりマリアが奴隷として働きだしてまだ日が浅く、たちとそこまで打ち解けていないということもあるだろうが。少し気にかかりつつもはヘンリーとともに海に出た。
 ヘンリーは特に気にしている様子もないので も何も言わなかった。太陽の光を浴びてキラキラと輝く水面と、砂浜。生まれて初めて海辺というところにやってきた。ラインハットは山に囲まれた場所にあり、海からは遠いので一度もいったことがなかった。砂浜に座り込み、打ち寄せる波を眺める。

、俺たちどうしようか。」
「うん……どうしようね。ラインハットに行っても、ね。」

  には実の両親がいない。物心ついたときにはヘンリーと一緒に育てられていた。けれどきちんと、実の両親はもういなくて、ヘンリーとも兄弟ではなく、ラインハット王に拾われたということはわかっていた。ヘンリー同様に愛し、育ててくれたラインハット王には感謝している。しかし―――

「俺が王位を継承することを望まないものがいたんだもんな。」

 望まない者たちがヘンリーが実は生きていたと知ったらどうするだろう。もとより自分を誘拐させるほど疎ましく思われている人がいる場所に帰りたいとは思えない。その望まない者が、もしかしたらラインハット王である可能性も本当にわずかだがある。
 けれど、

「でも……今どんなふうになってるのかわたし気になる。」
「俺も。危険なのはわかってるけど、気になるよな。」

  状況を確認したらの旅の手伝いをするのもいいと思っている。ラインハットに居場所がなければ、と旅する以外居場所なんてどこにもない。もまた、居場所のない人。それよりなにより、と離れるなんて、考えたくない。ラインハットに居場所があったとしても、ラインハットにいていいのだろうか。と離れて本当にいいのだろうか。
 様々な考えが憶測とともに頭をめぐる。

「見に行こっか。」
「そうだな。」

 なににしろ、現状を把握しなければならない。二人は頷きあった。