草原の王国フォルセナは高い山々に囲まれた国であるため、向かうのは少し骨が折れるルートだ。マイアを出て黄金の街道を抜け、山を貫く大地の裂け目を抜けるとモールベアの高原に出る、モールベアの高原を進むとやがてフォルセナに辿り着く。言葉にすると簡単だが、山を登ったり下ったりする必要があるため中々体力がいる。フォルセナ出身のデュランがいる分心強いが、そのデュランが準備は念入りにと言うのだから、それはもう、十分な準備をした。
 マイアを出る前に、ボン・ボヤジと言う変な発明家に捕まり、半ば無理やりボン・ボヤジの家の中庭にある発明品の大砲のようなものを見せられた。

「ワシが今作っている『スーパーキャノンマーク2』ならひとっ飛びで行けるようになる! もうすぐ完成なのだ! というわけでワシの自慢、おわり!」

 一方的にボン・ボヤジにまくし立てられ、さっと外に出されてしまった。全く不思議な人もいるもんだ。完成しているならまだしも、なんだか時間を無駄にした気がしたので、たちはマイアからそそくさと立ち去り、黄金の街道に出た。



故郷への道をゆく



 黄金の街道は岩肌の目立つ、木々の茂る道のりだった。昔はたくさんの商人が行き交い賑わっていたこの街道であるが、今ではモンスターの住処になってしまい通るものは殆どいないらしい。皆離れないように隊列を組みながら道を行く。
 にとってはついに武器を使ってモンスターと戦うデビューの日でもあった。ホークアイについてもらいながら、弱めのモンスターはが率先して倒しに行く。

「その調子だ。だがもう少し踏み込んで打撃を与えるといいぜ、昨日のデュランとくらいの距離にね」

 後半はにしか聞こえない声量で言う。

「ちょ、ホークアイ!」
「あっはっは! 顔が真っ赤だぜ

 こんな調子でからかってくるものだから余計に疲れてしまう。ロッドを振り回すだけでも疲れるというのに。

「でも、モンスターとはいえやっぱり攻撃するの気が引けるな」
「躊躇してると逆にやられちまうからなあ、とはいえ、らしいっちゃらしい! そういう優しいところ、おれは好きだぜ」

 好き、その単語には心臓が飛び出るかと思った。

「ちょ、ちょっとホークアイ! あんまり動揺させないでよ!」
「はっはっは! そう怒りなさんな」
「ほんっと、ホークアイとって仲いいわよねぇ」

 アンジェラの言葉にたちは顔を見合わせる。

「もちろん、おれたちは親分と子分の関係だからな」
「ねっ。親分がいなかったら今頃ここにいないからね」
「あんた狙ってるんじゃないの〜?」

 再び跳ね上がる心臓。アンジェラは悪戯っぽい顔でホークアイを見るが、ホークアイは快活に笑う。その反応には少しだけ胸を痛める。

「そんなわけないだろ! は大切な子分だ、そんな目でみねぇよ」

 グサッと彼の持つダガーで刺されたように心が痛い。は無意識にホークアイに対して期待の籠った視線を向けてしまった気がして、そんな自分を恥じた。別にだってホークアイが好きだってわけじゃない、ただちょっと、彼のやさしさとかに惹かれているだけ。ちょっとだけ。

「そうだよアンジェラ、もーすぐそういうこと言うんだから」
「だあって、そうだったら面白いじゃない? 長い旅路には娯楽が必要よ!」
「おれたちをおもちゃにするなっつの! おもちゃはデュランだけにしといてくれよな」
「おれがなんだよホークアイ」

 デュランが不審そうな顔をして詰め寄ってきたところで、はホークアイのもとを離れてケヴィンの隣へ移動した。飛び火は御免であった。

、どうした?」
「デュランとホークアイから逃げてきちゃった」
「オイラの近くにいるときは、オイラが守る。安心して」

 そういって笑顔を浮かべたケヴィンは、年齢よりも少し幼く見えた。そしてそんなケヴィンに少し胸がきゅんとなる。

「あーしゃん、いまケヴィンしゃんに惚れまちたね?」
「ばれたか。だってケヴィンって、天然でちょっとドキッとすること言うんだもん」
「オイラ……てんねん? ドキッとするってどういうこと?」
「ちょっとわかる気がするでち。こーいうおとこが、しょーらいおんなをなかせるんでちよ!」
「わかる〜〜〜! でもケヴィンに悪気はないのよ。困ったもんだわ」
「???? オイラ、とシャルロットを泣かせるの? オイラ絶対に泣かせないよ??」

 眉を八の字にして首を傾げたケヴィン。トゥンク、と確かに胸が高鳴る音がした。

+++

 大地の裂け目を抜け、モールベアの高原に出る。日も暮れていたため今日のところは野宿をすることにし、明日出立することにした。草原の国フォルセナはもう目と鼻の先だ。

「おれが住んでいたところは砂漠地帯だったから、こう、草が生い茂ってるのって不思議な感じだ」

 焚火を囲いながらホークアイが辺りを見渡す。

「そうだよね。国によって全然違うのね」

 も続ける。確かに、ホークアイに拾ってもらった場所は砂漠だった。

の住んでた国はこんな感じだったかい?」

 ホークアイの問いに、うーん。と空を見上げる。

「そうだねえ、砂漠でもなかったし、草原でもなかった。ニホンは……なんか、文明から全く違うようなかんじかな」
「そうかあ。なんか想像もできねえなあ。いつか、の故郷も紹介してくれるかい?」
「わたしの? もちろんだよ」

 故郷を紹介か……。なんだかこそばゆくて、胸の奥が温かい。

の故郷の前に、おれの故郷をじーっくり教えてやるよホークアイ!」

 ぬん、と現れたデュランがホークアイの肩を掴んでそう言った。

「わたしにも教えてデュラン!」
「お、おう!」

 の言葉に、デュランは嬉しそうに頷いた。