「この俺様が……魔王ガノンドロフがこんな小僧に敗れるのか……!?」
ついにリンクがガノンドロフに止めを刺した。まばゆい光が一面を照らすと、いつの間にやら光景が変わっていた。今までいた場所はガノンドロフが魔力で作り上げた空間だったのだろうか、今は城の屋上のような場所に出て、たちの頭上は薄暗く分厚い雲が覆っている。眼下ではリンクに破れたガノンドロフが膝を付き、そして倒れた。するとたちはゆっくりと地上へと降りていき、着地すると同時に封印の容れ物が消えてなくなった。ガノンドロフの魔力が消えたからだろう。冷たい風が頬を撫ぜて、ようやく封印から解かれたことを実感する。
「!」
「リンク……っ!」
リンクはのもとに駆け寄り、お互いが存在を確かめるように強く抱き合った。は抱擁されながら、リンクが大きな怪我もなく戦いを終えて、抱きしめることができて本当に良かったと喜びを噛みしめる。
一方ゼルダは倒れ臥しているガノンドロフを見下ろした。
「哀れな男。強く正しい心を持たぬゆえに、神の力を制御できずに……」
刹那、地鳴りが響き渡り、建物が小刻みに揺れ始める。ゼルダは「まさか……」と呟いて辺りを見渡す。
「ガノンドロフは最後の力で私達を道連れにするつもりです! 急いで脱出しなければ! 私の後についてきてください!」
城の外周を螺旋状に囲う階段を無我夢中で駆け下りる。建物の崩壊はもはや止まらず、時折大きな外壁の欠片が瓦礫となって落ちてくる。けれど止まるわけにはいかず、三人は足を止めることなく走り続ける。ガノンドロフは随所に結界を作って道を通れないようにしていて脱出を阻んだが、それをゼルダが光の力で解いていく。
なんとか城を脱出すると、ガノン城はすべて崩れ落ちて瓦礫の山と化した。地鳴りは収まり、一気に静寂に包まれる。ゼルダは瓦礫を見据えて言う。
「終わったのですね、何もかも」
「……終わったのかな」
ガノンドロフのことだ、なりふり構わず最後の最後まで悪あがきをして、襲いかかってくることは考えられる。
リンクが確認をするために瓦礫の山へと歩みを進めると、すると瓦礫の山からガノンドロフが現れて、その姿をそれまでの姿から巨悪な魔獣のような姿―――ガノン―――に変化し、咆哮をあげた。やはりまだ奴は終わっていなかったのだ。その姿はもはや理性を感じさせない、怒りや恨みで突き動かされる魔獣であった。力のトライフォースに選ばれたというのは、やはり伊達ではない。
ガノンは両手に大きな剣を持っていて、それを振り回す。大振りで、太刀筋も見極めやすく避けられるが、巨大な体躯に巨大な剣は強い力で地面を抉り、土の塊がリンクを襲う。それが厄介だった。隙をつきマスターソードでガノンに斬りつけるも、固い身体はびくともしない。
「くっ……! どこが弱点なんだ……!」
苦戦するリンクに、ガノンが剣を下から大きく振り上げると、再び土の塊がリンクに襲いかかり、その一つがマスターソードに当たる。マスターソードはリンクの手から離れて宙を舞うと、ゼルダのすぐ前に突き刺さった。リンクは虚を突かれて、一瞬動きが止まる。そこに畳み掛けるようにガノンがリンクに向けて剣を大きく振りかぶる。このままではリンクがやられてしまう。は気がついたときには、その手に大きな瓦礫を握りしめて無我夢中で動き出していた。
「ガノン!! こっちよ!!」
ありったけの声量で叫びながらガノンの方へと走り瓦礫を投げつければ見事命中し、幸か不幸か思惑通りガノンの気が一瞬へと向かい、動きが止まった。どうやら気を逸らすことに成功したが、ガノンにロックオンされたことにより恐怖で身が竦み、足がもつれる。は無様にも地面に倒れ込んだ。
「リンク! 受け取ってください!」
一方でゼルダがマスターソードをリンクに投げて、それをリンクが拾い上げてマスターソードを構える。
「!!!」
リンクが悲鳴混じりに名を呼ぶ。リンクは咄嗟にガノンの尻尾の先を斬りつければ、ガノンは尻尾を振ってリンクを払おうとした。
「お前の相手は俺だろ!!! には指一本触れさせない!!!」
ガノンの標的は再びリンクに戻った。その隙にゼルダが駆け寄り、が立ち上がるのを手助けした。
「ゼルダ姫、ありがとうございます」
「いいえ。私はの勇気に敬意を表します。ですがここは危険です、下がりましょう」
ゼルダに手を引かれて、少し離れたところに退避する。少しはリンクの役に立てただろうか。リンクの死はつまりこの世界の終わりを意味する。にできることなんて限られているが、の命が尽きようが、リンクとゼルダだけは守らなくてはならない。
ナビィは決死の覚悟でリンクのために立ち向かったの姿を見て、こみ上げてくる思いがあった。今が、今こそが勇気を出す時ではないか。最後の戦いで何もできないなんて……と、気がつけばナビィはガノンに向かって飛んでいく。
『ナビィ、に勇気もらった! もう逃げない! 一緒に戦うヨ!』
ナビィが己の内の恐怖や、ガノンから発せられる闇の波動に負けずに、弱点を探すためにガノンに近づいた。その間、リンクもガノンの弱点を探しながらマスターソードで対抗していく。そしてナビィはついにガノンの弱点を見つける。
『リンク、尻尾が弱点だヨ! 尻尾を狙って!!』
やはり、とリンクはナビィの言葉で確証を得る。あとは尻尾を狙ってひたすらに斬りつけるだけだ。渾身の力で斬りつければ、ガノンは悲鳴を上げる。
このガノンから、一体どれだけの人がどれだけのものを奪われたのだろうか。リンクは旅をしていく中で魔界となったハイラルを見てきた。ガノンを倒すことで、やっと取り戻すことができる。それに、のことを七年間、一人ぼっちにしてしまった。もう二度と離れるものか。
そして、ついにガノンは倒れ臥した。長い戦いにもうじき決着がつく。ゼルダは光の魔力を込めて、それをリンクの持つマスターソードに注ぎ込んだ。それを受けてマスターソードは淡く輝く。
「リンク、とどめを!」
ゼルダの叫びに呼応するように、リンクは渾身の力を込めてマスターソードでとどめを刺した。ゼルダは大きく両手を天に掲げる。
「六賢者たちよ! 今です!」
呪われた神殿を開放し賢者として覚醒したものたちへ、賢者の長であるゼルダは呼びかける。
「ハイラルを創りたまいし古代の神々よ! 今こそ封印の扉開きて邪悪なる闇の化身を冥府の彼方へ葬りたまえ!」
ゼルダの祈りに、叫びに呼応するように、その両手のうちには光が集まり、そして真っ白な世界へと移り変わった。
「おのれ……おのれゼルダ! おのれ……」
地の底を這うような恨みの声が聞こえてくる。ガノンドロフの声だ。
「おのれ、リンク! いつの日かこの封印が解き放たれし時、その時こそ貴様たちの一族、根絶やしにしてやる!! 我が手のうちに力のトライフォースある限り……!」
そしてガノンドロフは、力のトライフォースとともに冥府の彼方へと封印された。