“屍の館”、というヒントのもと、エポナに乗りながらとりあえずゆっくりとカカリコ村に戻りつつ、それらしきものを探す、といった流れで決定したのだが、今からハイリア湖を出発したところで日が暮れるまでにカカリコ村にはたどり着かなそうなので、今日のところはせっかくなのでハイリア湖を探検することになった。時の勇者と言えど、ひと時の休息は必要だ。
ハイリア湖には釣り堀や、研究所があり、なんとしゃべるかかしもいた。久しぶりに童心に返った気分だった。そしてその日の夜、隣同士で座って二人は話していた。
「今日楽しかったね」
「うん、すっげー楽しかった!」
「そういえば、水の神殿に、リンクにそっくりさんがいた?」
「いた! なんで知ってるの?」
「会ったんだよ、わたしも」
「ええーすごいね! あいつ元気かなあ」
「ダークな感じもなかなか良かったよ」
と言った後で、これはリンクに内緒にしておこうと思ってたことを思い出した。ちらっと横にいるリンクの顔をうかがえば、案の定ぶすっとした顔のリンク。これは明らかに、面白くない顔だ。
「でもリンクが一番好きだよ?」
「ふーん」
「ほんとだよー」
「なんかよくわかんない、ここらへんがモヤモヤする、そんでむしゃくしゃする」
そういってリンクは心臓のあたりを一撫でした。
「それはやきもちやいてるんじゃない?」
ちょっとふざけて言ってみた。
「やきもちって何?」
『やきもちっていうのはネ、好きな人が他の男のコと仲良かったりして、やだなーって思うことだヨ!』
ナビィがふわっと現れて、それはそれは楽しそうに言った。
「なんか違―――」
「そっか。俺、のこと好きだからやきもちしちゃうんだ」
『そうダヨ! ナビィはずっと気づいてたヨ! リンクはのことが好きなんだよ!」
「じゃあじゃあ、のこと見ると、ときどき心臓が痛いんだよね、これものこと好きだからかな」
『キャアアー! それはもう、好きってコト』
「ちょっとちょっと、何盛り上がってるの! 変なこといわないの、ナビィ! 子供をからかわないの!」
いつになく盛り上がっているナビィに対し、わたわたと静止をかける。
「もう、ナビィってば」
『だってナビィ、すごくもどかしいんだモン』
「むう……」
もどかしい、というのはだってそうだ。きっと自分はリンクのことが好きで、もちろん男性として。けれどリンクは違うからこれ以上進めないし、進む気もない。不毛というかなんというか。進むことも、戻ることもできないまま、どうすればいいのだろう。
まして自分は異世界からきた、リンクよりもずっと年を取った女。さらに言えばマスターソードにリンクは七年間封印されていたのでリンクとの年齢の差はますます広がっている。なんだか引け目すら感じてしまう。
「でも俺、サリアのことも好きだけど、サリアといても心臓が痛くないし、やきもちをやいたりしなかったよ」
『サリアに対しての好きと、への好きは違う種類なんだヨ』
「うーん……よくわかんないなあ……」
最後に、んー、と唸ったあと、少しすると規則正しい寝息が聞こえてきた。寝てしまったのだろう。今日はいつにもまして元気に駆け回っていたので、無理もないだろう。
「……でもねナビィ、わたしの好き、とリンクの好き、はきっと意味が違うと思うんだ」
リンクが寝たのを確認したのちに、ぽそっとナビィに言う。
『の好きは、どういう好き?』
「リンクのことを男性としてちゃんと好きで、ずっと一緒にいたい。誰よりも近くにいてリンクを支えたいんだ」
『ナビィはね、リンクものことをちゃんと女の子として好きだと思うヨ。リンクは確かに中身は子供だけど、誰かを好きになるのに年齢って関係ないんだと思う。だからのことを、一人の男の子として好きなんだと思うヨ』
「ううん……確かにね。でも、どうなんだろうね。わかんないや……」
ナビィの意見はあくまでナビィの意見。本当のリンクの気持ちはよくわからない。と、そのときごろんと寝返りを打ったリンクがに寄ってきて、腕と腕とが触れる。
ちらっと様子を見ると、整った顔立ちのリンクが口を少し開けて、すーすー寝息を立てている。
例えばは、このリンクに口づけをしたいと思う。触れたいと思う、抱きしめたいと思う。けれどきっとリンクは、そんな感情を抱いていない。
「……おやすみ、リンク」
夜はなんだか余計なことを考えてしまう。
『好きだよ』
すっと目が覚めると、視界いっぱいにリンクがいた。一気に眠気が吹き飛んで、目を真ん丸に見開く。彼は頬杖をついてのことを見ていた。
「あ、おはよー」
「お、はよう。なにリンク、どしたの」
「ははは。ちょっと早く起きちゃったからさ、の寝顔ずっと見てた」
「な、や、やめてよ! 起こしてくれればいいじゃん」
ごろんと寝返りを打って、リンクと少し距離を開ける。
「なんで? 勿体ないよ」
「勿体ないって、よくわかんないけど。もう、次からちゃんと起こしてね」
「やだー」
「もう……。さ、朝ご飯食べよ」
昨日発見したハイリア湖畔にある小さな喫茶店で朝ご飯を食べ終えて、すぐにカカリコ村へ出発した。エポナに載ったリンクの後ろに跨り、落ちないように彼の腰に抱き着いているのだが、どうにもドキドキしてしまう。昨夜あんなことを話していたからだろう。
「……ほら」
「え?」
前方を向いたまま何かリンクがしゃべるので、はすっと耳を寄せる。こうしないとよく聞こえないのだ。するとリンクは手綱を引いて、エポナを止めた。
「また、ドキドキするんだ。俺はのこと、好きなんだ」
不意にそんなことを言われて、の心臓がまた高鳴った。
「なっ、」
「。俺、のこと好き。どうすればいいんだろう」
前を向いたままリンクが言う。その横顔がなんでか切なそうで、は混乱する。
(どうすればいいのって、わたしこそどうすればいいの?!)
「ちょっと降りよう」
言われた通りはエポナから降りて、リンクも降りた。
「は俺のこと、好き?」
やはり切なそうな顔。
「う、ん……大好きだよ」
「俺も好き。、大好き。どうにかなっちゃいそうだ」
リンクが不意にのことを抱きしめた。それは突然のことで、の頭は真っ白になった。ばくばくと心臓が早鐘を打ち、その音だけが聞こえる。どうしてこうなっているのか、何も考えられなかった。
「」