「そろそろ吟遊詩人が帰ってきそうだな。旅立たねば」
「どこへ行くの?」
「あてのない流浪の旅ってところか。また会おう、

 そういってダークリンクはすっと立ち上がると、旅立っていった。一瞬身体が追いかけようとするも、踏みとどまる。はその後姿を見守り、その姿が闇に溶けて見えなくなると、寂寞たる思いがの中に残った。けれどいつかどこかで会える気がする、だから寂しくなんかない。と無理やり自分に言い聞かせた。
 それにしても―――

「……ダークなリンクもなかなかいいなあ」

 天真爛漫で元気いっぱいのリンク。あの感じがは大好きだけれど、リンクとおんなじ顔をした大人びたリンクも正直、すごくよかった。これはリンクには絶対に内緒だ。

「なんだ、にやにやしているが?」
「ひい! シーク!! びびびびっくりしたあ!!」

 突然声がかかっての心臓は飛び出そうなくらいびっくりした。見ればシークが戻ったようだった。その手には風呂敷のようなものがあり、それを無言でに渡した。ありがとうと、と礼をいい中身を見るとサンドウィッチがあった。お腹もすいていたのですぐに取り出してむしゃむしゃと食べ始める。ダークリンクのことを考えるのはこれでお終いだ。

「おいひいお、ひーふ」
「食べながらしゃべらない、と親に教わらなかったのかい?」
「はあい」

 呆れたような、でも楽しそうな顔でシークは言った。このシークという男、話せば話すほど人間味を帯びていき、なんだか親近感を持った。ふらっと現れては、詩のような言葉と、調べを残して去っていく。こんな人物に人間味を感じる方が不思議ではあるが。

「シークって、案外喋れる人だね」
「案外って、なんだか失礼な言い方だね」
「ふふ、でもほめてるつもりだよ」




水の神殿の解放




「―――、起きて!」

 その声にぱっと目が覚めた。まぶしく反射している金髪と、それに負けないくらいのまぶしい笑顔。リンクだ、昨夜はご飯を食べて野宿をしたのだが、リンクが帰ってきたんだ。

「リンクおかえり!」

 嬉しくて上体を起こして抱き着く。すると服はびしょびしょで、思わず身体を離して、「大丈夫?」と安否を確認する。見たところ、濡れてはいるが目立った外傷はない。

「うん大丈夫だよ、こそ大丈夫??」
「わたしは平気だよ、シークといたし」

 といいとリンクは立ち上がった。

「そっか、ありがとうシーク!」
「いや、君こそ、水の神殿の呪いを解いてくれたようだね。礼を言うのは僕の方だ。これでゾーラの里の氷は解けていくだろう」
「へへ、余裕だよ!!」

 それはそれはとても嬉しそうな顔で鼻の下を擦ったリンクを見て、は、ああやっぱりリンクだなあ。と思った。ダークなリンクもいい。けれどやっぱりこのリンクがいちばんだ。

「あ、そうだ、ルトがシークにありがとうっていってたよ!」

 身体ごとシークに向けてリンクが溌溂と言う。ルト、と言われて、ジャブジャブ様の体内に入った時に出会った、ゾーラのプリンセスが思い返される。古風なしゃべり方が特徴の、エンゲージリングをリンクに渡したちいさなゾーラ女の子だ。
 対するシークはまさか礼を言われるとは思わなかったのだろうか、紅い瞳がほんのり驚きの色に染まっている。

「ルト姫が僕に……そうか。彼女のためにもハイラルの平和を早く取り戻さねばな」
「そうだね。シーク、わたしもありがとう。シークのおかげでいろいろ助かったよ」

 もその流れで礼を述べれば、ますますシークは困惑していく。

「君まで……なんだか調子が狂うな」

 シークが困ったように頬をかいたので、はくすっと笑った。

「ねえねえ! 俺さ、水の神殿でね、すっごい頑張ったんだ! 仕掛けがいっぱいあってさ」

 思い出したようにリンクが今回の武勇伝を興奮気味に喋り始めた時、ぱちん、と何かがはじけた音がした。その音のほうを見ると、先ほどまでシークがいた場所には誰もいなくなっていた。

「もしかしてシーク行っちゃったのかな……?」
「えーシークにも聞いてほしかったんだけどなあ」

 リンクは自分の武勇伝を少しでも多くの人に聞いてほしいらしい。はシークが何も言わずにいってしまったことに対し少し寂しい気持ちになるが、もとより一緒に行動することを異としているのだから仕方ないのかもしれない。だからこそ―――

「ありがとうシークー!!」

 いないのは知りつつも、そう叫ぶ。するとリンクも「ありがとうー!」とにならって叫ぶ。

「……ふ」

 そんな様子をシークは大木の上から眺めていることを二人は知らない。