炎の神殿を出てゴロンシティへ戻る。すると既にリンクがダルニアの部屋に待っていた。は駆け寄り、かけたかった言葉を伝える。

「おかえり、リンク」
、ただいま。賢者、ダルニアだったよ」

 にっ、とリンクは笑った。そして、不意にを抱きしめた。突然のことにはどきっと心臓が痛む。なぜ急に抱きしめられたのだろう。リンクの突拍子のない行動に理由を見つけ出そうとして、すぐにやめる。この抱擁に身も心も任せてしまおうと思った。

「ねえ、さっき、俺をぎゅっとしてくれようとしたでしょ? だから、俺がぎゅっとする」

 リンクが照れたように言った。照れたように、というか、きっと照れているんだろう。リンクのことだ。その照れがにも伝播し、ますますはドキドキとする。リンクは抱きしめる力を少し強めて、ぽつりと呟く。

「……のこと、ぎゅっとすると、心臓が痛くなる。ビョーキかな」
「今も、痛いの?」
「うん。すごい痛い。心臓がぶっ壊れちゃいそう」
「わたしもだよ、わたしも心臓が痛いよ。おかしくなっちゃいそう」

 この心臓の痛みが何であるかくらい、にはわかる。けれどその痛みがリンクと同じ理由であるかどうかはわからない。それがまたドキドキもするし、悲しくもある。

「なんか、このまま、ずっと一緒にいたい」

 リンクの言葉がとても心地が良くて、頭がふわふわとする。リンクとずっと一緒にいたい。強い気持ちがの中でどんどん大きくなっていった。




氷の世界、ゾーラの里




「どうしちゃったの」

 手がかりを頼りに、カカリコ村を出てゾーラ川を上流に向かって歩いていくと、冬でもないのに冷気が漂っていてひんやりとしている。以前訪れた時のようにゾーラの里に行けば、なんとゾーラの里は凍っていた。かつて勢いよく流れていた滝までも凍てつき、水が張っていたところはすべて凍っていた。まるで里全体が眠りについているようだった。近づけば近づくほど冷気が増していたのはこういうわけだったのか。

「冬眠……?」
『リンク、ゾーラ族は冬眠しないヨ!』

 ナビィの的確なツッコミ。それにしてもゾーラの里が氷漬けになっていたなんて知らなかった。古来よりゾーラの里はゾーラ族と、王家の使いの者のみが入れる神聖な場所だ。王家の者も皆いなくなってしまったので、気付かれなかったのだろうか。外部のものがこの事実を知る機会もないに等しい。とはいえ、なぜこの状況になっているのかひとまず探る必要があるだろう。は七年前に謁見した巨躯のゾーラの長を脳裏に浮かべる。

「とりあえず、キングゾーラに会ってみよう」
「そうだね!」

 そうと決まれば一目散とばかり、氷の上を走っていくリンクをはらはらと見守っていたのだが、案の定途中で派手に転んで、静止した。

「リンクー大丈夫?」
「うん……」

 恐る恐る歩きながらリンクに追いつき声を掛ければ、リンクはむくっと起き上がって頷いた。明らかにテンションが下がりきっている。

「氷の上を走ると危ないし、歩いてるだけでも危ないから、手をつないでいこう」
「えっ、あ! ……まあいいけど」

 満更でもない顔で言ったリンク。はリンクの手を取って、ゆっくりと歩き出した。可愛いなあ、なんて心の中で思う。大人だけど子供の君、なんだかその真逆にはまってしまいそうだ。
 そうして王座にたどり着いたが、キングゾーラも氷漬けされていた。この里は時が止まってしまったようだ。

「もしかしたら……きっとこれ、ガノンドロフの呪いのせいなのかも」
『それはありえるネ……』

 の推測に、ナビィが同意する。コキリの森は、森の神殿に呪いをかけたことによってモンスターが増殖した。ゾーラの里はおそらく里に呪いをかけられたのだろう。よってこの里は溶けぬ氷に包まれてしまった。
 はそのまま推測を口にしていく。

「だから、呪いを解かないと、この里は氷から解放されないのかも」
「……あいつを倒せばいいんだよね?」
「そうだね。でも今は、森の神殿みたいに神殿の魔物を倒して呪いを解くほうがきっと先だね」

 ガノンドロフの話になるとリンクの顔が急に大人びて、真剣な顔になる。内に眠っている情熱が彼の名によって眠りから覚め、一気に焼き尽くすのだ。

「……そういえばジャブジャブさま、元気かな? 見てみようよ」
「うん、そだね」

 が話題を変えれば、にこっといつものように太陽みたいな笑顔のリンクになり、ほっと胸をなでおろす。
 王座を抜けてジャブジャブ様の様子を見に行くと、そこにジャブジャブ様はもういなかった。呪いによって封印されたか、それか年でお亡くなりになったか、いずれにしてもジャブジャブ様がいたその場所には大きな氷が浮いているだけだった。昔、魚を供えた場所にやってきて隅々見渡すがやはり何もいなかった。

「ゾーラ族に会いにきたなら無駄足だったようだな」

 背後から声がかかって、当たり前のようにつないでいた手を反射的に離して勢いよく振り返ると、シークがいつの間にかそこにいた。驚くリンクたちを気に留めるわけでもなく、そのまま話を続ける。

「見ての通り。ゾーラたちは一人残らず厚い氷の下。ゾーラの姫だけはなんとか助け出したが、その姫も水の神殿へ行く、と言い残していってしまった。この氷は邪悪な呪いによるもの」
「やっぱり……。ルト姫は一人でいってしまったんですか? わたしたちも行きます」

 の言葉にシークが頷く。

「ゾーラの里を救うため、危険に立ち向かう覚悟があるなら神殿へ導くための調べを教えよう」
「ある。教えてくれ、シーク」
「時は移り、人も移る……。それは水の流れにも似て、決してとどまることはない……。幼き心は気高き大志に。幼き恋は深い慈愛へ……澄んだ水面は成長を映す鏡。おのが姿を見つめるために水のセレナーデを聞くがいい」

 シークはハープで水のセレナーデを奏でた。短いが、とても深く、きれいな歌。澄んだ水の流れが頭に浮かぶ。そんな曲だった。それをリンクが時のオカリナで奏でていく。
 曲の伝授が終わると、シークは改めて話をする。

「曲を奏でた先にゾーラの服と、ヘビーブーツを置いておく……。ゾーラの服は水中での活動を可能にし、ヘビーブーツはその重さから水の底を歩くことができる。しかしこれは一つしかない。リンク、君が一人で水の神殿の呪いを解きに行くんだ」
「じゃあわたしは外で待ってるね」
「彼女のことは僕がしっかり守る」
「え!?」

 リンクとが同時に動揺をあらわにした。はまさかシークが自ら護衛を買って出てくれるとは思わず、リンクからすれば、とシークが自分の見えないところで二人で一緒にいることが嫌なのだが、けれどシークと一緒にいればの安全は確保される。迷いに迷って、結局リンクは小さくうなづいた。

「わかった……のこと頼んだ。、すぐ戻ってくるからね!」
「うん、待ってるね」

 にとってシークの提案は意外だった。シークがそばにいてくれるとは嬉しい反面、その行為がただの親切なのか、はたまた何か考えがあっての行為なのか、にはまだわからない。けれどここはひとつ、甘えることにしよう。シークが味方であることはきっと変わらない。