これが、シーク。目以外のほとんどの顔を包帯で多いつくし、ゴシップストーンと似たような大きな瞳の真ん中から一粒の涙が流れ出ているマークの入ったぴっちりとした服を着ていた。わずかに露出したところから読み取れる情報は、金髪で瞳は赤く、おそらく端正な顔立ちをした美青年だということ。彼の浮世離れした容貌はどことなく、時の神殿にマッチしていた。
 時の神殿で初めてお会いしたシークと言う男は、ミステリアス、と言う言葉がとても似合う男であった。シークはリンクから森の神殿の呪いを解いたという報告を受けて、頷く。

「神殿に憑りついた悪霊を倒し、賢者を目覚めさせたんだね。だが、君を必要としている賢者はまだいるはずだ。すべての賢者を目覚めさせるには君はもっと強くならなければならない。山を越え、水を渡り……」
「もっと、か……。俺はもっと強くならなきゃいけないんだ」

 リンクが俯いてきゅっとこぶしを握った。不意にシークの視線がへと移ろう。

「君は、時の勇者を支えしものだね」
「わ、わたしはそんな」

 赤い瞳にじっと見つめられて、はしどろもどろしながら答えた。

「見ていればわかる」

 見ていれば、なんて、出会って少ししか経っていないのに、さらりと言ってくれたものだ。

「時の勇者がさらに強くなるには、君の存在が必要だ。守るべき存在は、騎士を強くさせる」

 ――守られるだけが嫌だったが、守るべき存在が彼を強くする。彼の言葉に少しだけ励まされる。弱いだけの自分だが、このままでもいいのかもしれない、と前向きにシフトチェンジしそうになって、できなかった。どうしても浮かぶのは、あの日、ガノンドロフから自分を守って傷つくリンクの姿。ある種トラウマのようになってしまっている。

「……ありがとうございます」

 ありきたりな否定の言葉をしまって、は小さく礼を述べた。




高き山にて




「次は“高き山”。ってことは、きっとデスマウンテンだよね」
『そうよネ。昔と比べて、随分と様子が変わったみたいだし……』

 カカリコ村の宿屋でしばし休息していた。ナビィのいうとおり、ガノンドロフが支配するようになってからというもの、デスマウンテンの様子は少しおかしい。窓から見えるデスマウンテンは、禍々しい様子だった。村の噂では、いつ噴火してもおかしくない状況なんじゃないか、なんて囁かれている。

「ご飯を食べたらいこうか。あと、食料も買わないとね」
「ああそうだ、ゴロンシティは岩しかないからなあ」

 リンクが苦い顔をする。宴の席にでてきたご馳走は、ドドンゴの洞窟から採掘した新鮮な岩。例え歯が頑丈だろうと、あのご馳走は人間である以上いただくことはできない。食事を終えて食料を調達したのち、デスマウンテン登山道を登り、日が暮れる前にはゴロンシティにたどり着いた。しかし、かつてのゴロンシティとは比べ物にならないくらい静寂に包まれていた。

「どうしたんだろう……」

 の呟きは大きく穿たれた三層に連なった穴―――ゴロンシティ―――の静寂に溶け込んでいった。七年前にやってきたときは、ゴロン族が地面に転がるゴロゴロという地響きが聞こえていたというのに。

「あれ、ひとりいる」

 リンクが呟いたので、視線を辿れば、遠くのほうからゴロゴロと転がってくるひとりのゴロン族の姿が見えた。過去の記憶の中にあるゴロン族の姿よりも幾分小さな丸くなった体に、がむしゃらに転がり方から察するに、若いゴロン族なのだろうか。

「! あぶない

 ぼーっと見ていたは自分にゴロン族が迫っていることに気づかずに、気づいた時にはリンクに抱き寄せられていた。

「ふぉわっ!」

 自分の真横の壁にぶつかって回転することをやめたゴロン族。ぶつかった瞬間、結構な音が鳴り土煙があがったので、リンクに引き寄せられなかったら今頃プレスされてペラペラになっていただろう。考えただけでぞっとする。

「よくもやったなコロ! ガノンドロフの子分め!」

 ????
 とリンクの頭に、クエスチョンマークが浮かぶ。我々は断じて何もしていない。彼が勝手に壁にぶつかっただけだ。とんだ濡れ衣だ。寧ろ殺されかけたのはこちらの方だ。

「オラの名前を聞いて驚け〜!」

 驚け、と言われたので、多少身構える。物凄い名前なのだろうか。

「オラはゴロンの勇者、リンクだコロ!!」

 想定していた驚きとは違う方面から驚きが襲ってきた。

「おっ、俺もリンク!!」

 自分を指さし、少し前のめりになって食い気味に主張する。自分と同じ名前の人なんて滅多にいないから興奮したのだろう。

「えっ!? お前もリンクっていうゴロ? ってことは……お前が伝説の、ドドンゴバスターの勇者リンク!?」

 伝説の、ドドンゴバスターの、勇者リンク。なんだかすごそうなリンクの肩書に、リンクが目をキラキラさせている。とても嬉しそうだ。ゴロンのリンクも同じように瞳をキラキラさせてリンクを見て言う。

「オラのとーちゃんダルニアだよ! 覚えてる!?」

 ダルニア、懐かしい名前にが思わず、おお! と声を上げる。そういえば面影があるような、ないような。リンクも覚えているようで(リンクからしたら少し前の出来事なので、覚えてないほうがおかしいが)、覚えてるよ。と頷いた。

「オラの名前、とーちゃんがリンクの勇気にあやかってつけたんだコロ。オラ、リンクって名前気に入ってるコロ。それにしても、リンクはオラたちゴロンにとって英雄! あえてうれしいコロ!!」

 とてもうれしそうなゴロンのリンク。満更でもないように鼻の下をさするコキリのリンク。

「サインしてほしーコロ! ゴロンのリンクくんへ、ってかいてほしーコロ!!」
「いい―――」
「あ!! それどころじゃなかったコロ!」

 いいよ、と快諾しようとしたところ、ゴロンのリンクが何か思い出したように叫ぶ。それどころ、と言われたころにリンクは多少なりともショックを受けているようだった。なんだか見ていられない。

「とーちゃん、炎の神殿にいっちゃったコロ、あそこには竜がいるコロ! 早くしないととーちゃんも竜に食べられちゃうコロ! わーん!!」

 ゴロンのリンクが急に大泣きを始めた。これにはリンクももたじろぐ。が、そうもしてられない。は慌てて何を言えばいいか考えを巡らせる。

「落ち着いてリンクくん、竜ってなあに? いったいここで何が起こってるの??」
「ぐすん……むかし、このお山にヴァルバジアっていうわるーい竜が住んでたコロ」

 その竜はゴロンを食べる恐ろしい竜で、その昔、ゴロンの英雄がどっかーんとやっつけたらしい。そしてその英雄の子孫がダルニアだった。しかし封印したヴァルバジアをガノンドロフが解き放ってしまった。今現在ゴロン族は、ダルニアの留守の間にみな炎の神殿に連れてかれてしまい、ガノンドロフに服従しないものへの見せしめのため、徐々に竜に食べられてしまうとのこと。慌ててダルニアも炎の神殿へ向かい、残ったゴロンのリンクはごろごろ転がって誰にもつかまらないようにしていたらしい。

「リンク! 助けてコロ!!」
「任せて! 炎の神殿へはどうやっていけばいいんだ?」
「とーちゃんの部屋からいけるコロ! ありがとうリンクー!」
「ドドンゴバスター勇者リンクがきたからにはもう安心だ! よしいこう!!」
「う、うん(あーもう、完全にドドンゴバスター勇者リンクを意識しちゃってる)」

 リンクの目はキラキラしていて、ぴゅーんと階段を下りて行った。残されたとナビィは顔を見合わせた。

「いこっか」
『そうだネ』