異次元、つまり絵の中の世界へ行ったと思ったら、次には違う絵から出てきて、昔リンクに放ったような邪悪なオーラをまとった光の玉を放ち、リンクに攻撃をする。ファントムガノンを倒すには、彼がたちが存在する次元に出てきた瞬間に攻撃をするしかない。けれどすぐに光の玉を放ってはそのあとすぐに異次元へ行ってしまう。第一浮いているので剣では戦いにくいのだ。さすがのリンクも苦戦しているようだった。は俯瞰して絵を見て、ガノンドロフがどの絵から出てくるかをリンクに伝える。

「……リンク! 次わたしの正面の絵から出てくるよ!!」
「オッケー! ……よし」

 リンクはマスターソードを鞘に納めると、先ほど宝箱から頂戴した弓を構える。

「リンク、使えるの!?」

 弓矢の先でファントムガノンが絵の中から姿を現した。

「パチンコと同じようなもんだ!」

 矢がまっすぐにファントムガノンへ向かい、突き刺さる。地を這うような低い悲鳴を上げてファントムガノンは実体化し、地上に舞い降りた。その隙にリンクはファントムガノンにマスターソードで斬りかかる。しかしファントムガノンもやられっぱなしではない。彼はリンクを光の玉で弾き飛ばす。

「リンク!!」
「兄ちゃん!!」
「俺は二度と負けない!」

 リンクは軽やかな身のこなしで立ち上がり、立て直そうとするファントムガノンに飛び掛かり剣を突き刺した。

「小僧……!」

 ファントムガノンはよろめき、ファントムガノンを形成していたものが剥がれるように消えてなくなり、最後には何も残らなかった。すると神殿を支配していた薄暗く、陰鬱としたオーラが徐々に消えていくのを感じた。そして床に描いてあったトライフォースのマークが淡く光った。

「神殿の呪いが解けたんだ」
「てことは、封印された賢者が目覚めるんだっけ?」

 神殿の呪いを解いて、封印された賢者を復活させる。それがリンクの役目だと聞いている。

「うん、きっとね。じゃあ俺ちょっといってくる」
「いってらっしゃい。じゃあ、わたし神殿の外に先にいってるね」

 うん、とほほ笑んだリンクはそのまま光に包まれて消えた。ミドはぽかんと口を開いていたが、がミドの前にしゃがみ込んで両手をつかむと、我に返った。

「帰ろう、ミド」
「うん……!」

 手をつないで森の神殿を引き返した。




森の目覚め、解放




 神殿の外にはすでにリンクがいて、を見つけるなり「!」と手を振った。

「おかえりなさい」
「ただいま、やっぱり森の賢者はサリアだったよ」

 結局最後まで“サリア”のことを見ることができなかったなあ、と心中で少しぼやく。ミド曰く、リンクがでれでれしていたという幼馴染。興味がない、というわけではない。

「兄ちゃん、サリアはどこにいるんだよ……?」
「ん、サリアは……どこ、っていえばいいんだろう、
「んん、わたしもよくわからないけど、サリアはたぶん、森を見守ってる。姿や形が見えなくてもすぐそばにいるんだと思うよ。きっとね」

 賢者になるということは、きっと人間ではなくなっているのだろう。リンクが光に包まれて別次元に飛んで行ったのが何よりの証拠だ。けれどある種、森を見守る守り神のような形で存在しているのなら、なんて素敵な話だろう。

「うーん、なんかよくわかんないけど、サリアはいるんだよな?」
「そう」
「なら、いいか」

 年月経ても小さいままのミドにはよくわからない話だっただろうが、ミドなりに解釈したようだ。三人はミドの案内でコキリの森へ戻った。コキリの森は蔓延っていたモンスターはすっかり姿を消していて平和な森がそこにはあった。

「ありがとうな。これからはおいらがこの森を守るから! いつでも会いに来てくれていいんだよ! ……
「おいミド! またさりげなく名前で呼んだの俺聞き逃さなかったからな!」
「兄ちゃんには関係ないだろ!」
「か、関係ある!」
「ほんとかよ。おいらなんて姉ちゃんと手つないだからな!」
「俺だって何回もある!」
「(何回もつないだっけ……?)わたしモテたことないから、そういう取り合い大歓迎だよ」

 どっちも子供なのが非常に残念だけど! という言葉は心の中にしまっておく。

「とにかくおいら、みんなに知らせてくる!」

 風のようにミドは走り去っていった。残された二人は顔を見合わせる。

「どうしようか」
「俺、デクの樹さまに会ってくる」
『そうね、ナビィも賛成ヨ』
「わたしもついていっていい?」
「うん、もちろん、いこう」

 集落を少し離れて細い道をたどると、大木が静かにそびえていた。あれがデクの樹。大木の幹には顔のようなものがついて、それは深く閉ざされている。死がデクの樹を蝕んでいるが、土に還るにはまだまだ時間がかかるだろう。リンクがそっとデクの樹に手を触れて、何も言わずに目をつぶる。静寂があたりを包み込んで、もそれを見守った。と、が異変に気づいた。リンクの少し後ろに双葉がにょきっと生えた。

「……?」

 踏まないように気を付けて、とでも言っておこう。リンクが振り返って「お待たせ」とに向かって歩き出した。が双葉を踏まないようにね、と言おうとしたその時だった。

「っっっっっっ!?!?!?」
「なんだ!?」

 は声にならない悲鳴を上げて尻餅をついて、リンクもびくっと体を震わせた。とリンクの間に生えた双葉が、凄いスピードで見る見るうちに地上に出てきたのだ。リンクは慌ててのもとへ向かい、手を取って立ち上がる手助けをした。

「ボク、デクの樹のこどもデス! キミたちが森の神殿の呪いを解いてくれたから生まれることができたデス! 本当にありがとうデス!」

 親であるデクの樹にも顔があるが、このデクの樹の子にも顔がある。この世界にきてもうずいぶん経つが、に根付いている常識はなかなか深いらしい。まさか樹に顔がついていて、しかも喋るとは思わなかった。

「リンク、ボクは真実を伝えるデス!」
「真実?」

 リンクは首をかしげた。