「ミドはコキリの森のボスみたいな存在なの?」
「う、うん、まあね……」
「すごいねー。ボスは大変?」
「そんなことないよ……うん」

 ミドの反応がとっても面白くて、はついついミドに話しかけてしまう。そんなが面白くなk、リンクはむすっとして黙り込んで二人の少し後を歩いている。

『リンク、面白くないの?』
「そんなんじゃないよ」

 ナビィの問いにますます顔を険しくする。はそんなリンクに気付かないままミドとの会話を楽しむ。気付いたとしても、は面白がってやめないだろうが。
 ミドの案内のもと、迷いの森、と呼ばれる、その名の通り、森に入り込んだ人たちを迷わせる森を奥へ奥へと進み続ける。木々は生い茂り、日の光は薄く届かない肌寒い場所だった。とても深い森なので、まるで森に飲み込まれてしまったような錯覚に陥いる。

「なんか怖くなってきちゃった……この道で本当に合ってるんだよね?」
「うん。おいらに任せて……
「なんだよミド、でれでれしやがって。さりげなく名前で呼んだの俺聞き逃さなかったからな」

 堪らずリンクは会話に割り込むと、ミドがむっと眉を吊り上げる。

「兄ちゃんには関係ないだろ!」
「か、関係ある!」
「ほんとかよ」
「ほんとだ! 俺はを守るんだ!」
「おいらだって姉ちゃんを守るんだ!!」
「あっはっはっは! ボディガードだらけだ!」

 なんだか面白くて、は大笑いした。そのままミドの案内で進んでいくと、古びた神殿の前にやってきた。どことなくお城を思わせる外観の神殿の入り口には蔦が絡まり、草木に覆われている。長い年月をかけて森と神殿が一体化していっているようだった。ミドは森の神殿を見上げて、拳を握ってリンクを見上げる。

「ここにサリアがいるんだ……! 頼むよ兄ちゃん」
「ようし、引き締めてこっ」

 ミドがカンテラに火をつけて、神殿の中へと潜入開始した。




深い森のおく




 神殿の中も植物による浸食が進んでいた。しかし外と比べ日の光が届かないせいか、そこまでひどくはなかった。ミドが緊張してがっちがちになっている。カンテラの光が小刻みに震えているのが何よりの証拠だ。かくいうも、この暗い空間に落ち着きはなくしている。それでも、小さいながらカンテラを以て先頭を進むミドを見れば、お姉さんである自分も頑張らなければと身がしまる。

「……ミド、大丈夫?」
「う、うん! 心配いらないぜ姉ちゃん!」

 そのまま暫く歩くと、少し大きな宝箱が置いてあった。

「宝箱だ。なんだろう」

 リンクがあけると、中には弓矢が入っていた。多少の年月は感じるものの、宝箱の中で保管されていたからか、かなり状態がよかった。

「弓か、便利そうだ」

 リンクは弓をしげしげと見つめながら言う。

「もらっておいたら?」
「そうする。あとで練習しないと」

 の言葉にリンクは頷く。
 さらに神殿を奥へ奥へと進むと、六角形のホール様な場所に出た。床には大きなトライフォースの紋章が描かれていて、壁には大きな肖像画がそれぞれの面に飾ってあった。

「……この肖像画、気味が悪いね」

 は呟きながら部屋の中央に立って、ぐるりと見渡す。肖像画はすべて、馬に跨ったガノンドロフの肖像画だった。何と趣味が悪いのだろう、と思いつつも六枚をすべて見て最初の一枚に戻ると、奇妙な違和感を感じた。

「……? あれ、なんか違うような」

 間違いさがしと同じような感覚だった。何かが、どこかが違う。けれどそれがどこなのかは分からない。一周して、改めて見た趣味の悪い肖像画は、どこか違和感を感じたのだ。

「あれ、ほんとだ! なんだこの変な感じ!」

 リンクも感じ取ったようだ。それならばとはもう一周すると、やはり違和感を感じた。もやもやする。そしてもう一周すると、今度ははっきりと違和感を感じ取れた。

「!!!!! にやって笑った! にやって笑った!!!!」
「ん?」
「おいら笑ってないよ姉ちゃん?」

 の悲鳴交じりの声にリンクとミドは首を傾げる。は違和感の正体を見つけた。それは肖像画の口元にあった。最初はきゅっと結んであった口元には、にやりと白い歯が覗かれているではないか。

「このガノンドロフ! 気持ち悪い!!!」
「え? どうしたんだよ

 困惑するばかりのにリンクがきょとんとするが、すべての肖像画からふわふわと淡い光が漂い、それはたちの真上で集まり始めた。三人はその場から立ち退き、部屋の入口まで戻った。淡い光は次第に形を帯びていき、それは馬に乗ったガノンドロフを象っていった。

「ガノンドロフが出てきた……!?」

 は突如肖像画から現れたガノンドロフに驚きを隠せない。リンクはとミドを守るように前に出て、目の前のガノンドロフを見極める。

「違うな、これは……、ガノンドロフじゃない」
「そう……だね、“あの日”出会ったときの、ガノンドロフみたいだね……!」

 あの日、謀反を起こし、ゼルダとインパを追いかけて馬に乗ったガノンドロフ。リンクが初めてガノンドロフと対峙し、戦ったときの馬に跨ったガノンドロフ。あのときほどの恐怖の圧力はそんなに感じない。それは自分が成長したからか、それともこのガノンドロフが“本人”ではない、と本能でわかるからだろうか。がたがたと震えるミドと手を繋ぎながらは部屋の隅に避難する。

「我が名はファントムガノン。貴様はここで潰しておこう」

 そういうとファントムガノンは宙を馬で駆けながら絵の中へ入っていった。どうやら肖像画を通じて異次元との行き来ができるらしい。久々に出会う強大な敵に対して冷静な分析ができるのはきっと、リンクがいる、という心強さだ。

「兄ちゃん、大丈夫だよな?」

 心細そうにいうミドを安心させるようににっこりほほ笑んだ。

「リンクは、絶対に負けないよ」