「リンク、泊まっていくでしょ。わたしはマロンの部屋にいくから、わたしの部屋、つかってよ」
「え、なんで? も一緒に寝ようよ」

 ドキッと心臓が痛む。いい年をした男女で同じベッドで寝るなんて……と、すっかりリンクを男として意識してる自分がいて戸惑う。

『リ、リンク! 、この子見た目は大人だけど、中身はあのころのまんまだから……ネ』
「そうだよね……」

 そう、七年間眠らされていたわけだから、七年前と中身は何ら変わらないわけだ。けれどすっかりと美しい男性に成長したリンクに言われると、どうしたって意識してしまう。なんとたちが悪いのだろう。

「ああでも、中身がそのまんまなら、一緒に寝ても問題ないよナビィ」
『? どういうこと、
「なんでもない。積もる話もあるし、わたしの部屋で寝よう」

 中身があの頃のままならば、大人が思いつくようなやましいこと、リンクは思いつきもしないはずだ。結局は同じ部屋で寝ることにした。簡単な食事を用意しての自室に運び、二人は食事を摂る。リンクはの二倍の量を、二倍のスピードで食べた。むしろ食べ終わったのはのほうが遅かった。

「ごちそうさま、おいしかったー!」
「おそまつさま。あーほらリンク、食べてすぐ寝っ転がらない」
は相変わらずお姉さんみたいね、ナビィ安心しちゃったヨ。ちょっとお出かけしてきてもいい?』
「いいよ、ハイラルも変わったから、色々見ておくといいと思う」

 ナビィが部屋の小窓からふわりと飛び立った。残されたリンクはベッドにごろんと横になっていて、は食器をキッチンへ持っていき食器を洗い、部屋に戻るとリンクは相変わらずベッドにごろんと寝転がっていて、はそのベッドに腰かけた。

「ベッドなんて久々だなあ……」
「リンクってば」

 もともと美少年の部類だったであろうリンクは、今は美青年に成長した。さらさらの金髪に、すらっと通った鼻筋、どこまでも綺麗な澄んだ青い瞳。ああ、ずるい、とぼんやり思った。


「なあに」
が元いた世界って、どんなところだったの」

 リンクが身体を起こしての隣に座った。

「どんなところ、か。少なくともこことは全然違った。みんなみたいに耳は尖ってないし、建物とかがいっぱいで、学校っていう、お勉強を習う施設があって、わたしたちぐらいの年の子はほとんど学校へ行ってた。喋ることが出来るのは人間だけで、ゴロン族とか妖精とか、そういうのはいなかったよ」
「へえー……いつかいってみたいな、の世界も」
「そしたらきっとリンクはモテモテだと思うよ」
「もてもて? なにそれ」
「いろんな女の子がリンクを好きーってなること」

 こんな美少年がいたらそこら中の女の子が放っておかないだろう。

「へえーそれいいな」
「ん、そうね」

 嬉しそうに微笑んでいるリンクに勝手ながら腹が立つ。言ったのは自分だが、嬉しそうにされるとなんだか癪だ。

も好きになってくれる?」

 大きな碧い瞳が、を期待の籠めて見つめる。そんな目で見られてしまっては、頷かないわけにもいかず小さく頷いた。けれどあながち嘘でもない。きっとリンクみたいな男の子がいたら、意識するに決まっている。

「やった! が俺のこと好きなら、それでいいや」
「そ、そう?」

 まんざらでもない様子の

「……なんかさ、俺、さっきから変なんだよね」
「なにが、どうしたの、風邪?」
「なんか、よくわかんないや、いいや。ねえは俺についてきてくれるよね?」
「……ずっと、考えてるんだけどね、もちろんリンクについていきたいんだけど、でもロンロン牧場にもお世話になったし、リンクの冒険の足手まといになっちゃうかなって思うの」

 ずっと探してたし、ずっと会いたかったけれど、冒険についていきたいかというと、答えはまだわからない。自分の無力さならよくわかってるし、もう二度と自分を庇ってリンクに怪我してもらいたくなかった。
 それにこのロンロン牧場、今がここから出てしまっては、この牧場はどうなってしまうのだろう。

「牧場の人なら、俺が説得する。足手まといだなんて思ったこと、俺は一度もない」
「でも、リンクが思ったことなくても、わたしは感じるよ。いる意味ないんじゃないかな、って」
!」

 そんなこというな、と嗜めるように名を呼ばれては黙り込む。

「俺にとってって、そうじゃないんだよ」
「そうじゃない、って?」
「なんていえばいいんだ、あー、なんていうか、は、そばにいてくれればそれでいいんだ」
「でも……」
「一生“でも”っていうな!」

 少し大人びたことを言ったと思ったら、今度は子どもの言いそうなことを言い出した。

がそばにいないと、気が気でないんだ! 大切な人は俺のすぐそばで、俺自身の手で守りたい! 離れ離れなんか、二度といやだ」
「リンク……」

 リンクに肩を掴まれて、情けなくもどきっとしてしまう。何年生きてるんだ、これぐらいのことでどきどきして、緊張するなんて、らしくない。少女じゃあるまいし。

「――――っ! リンク、そうだ、エポナ覚えてる? あの子も成長したんだよ。見に行こうよ」

 結局は緊張に負けてそそくさ立ち上がって、リンクの手をとって部屋を出た。

「へえ、エポナ、懐かしいな!」

 すっかりとその気になったリンクがウキウキと目を輝かせた。
 そしてやってきたのは馬小屋。エポナの前にやって来ると、リンクはエポナの姿に歓喜した。すかさずリンクはオカリナを取り出して、エポナの歌を奏でた。するとエポナもリンクのことを思い出したのか、顔をリンクにすりよせてきた。そんな二人の様子を見ながら、の脳裏に献上の事が思い浮かんで、心に暗い影を落とす。

「……でもエポナ、もうすぐガノンドロフの馬として献上されちゃうの」
「なんだって!」

 ガノンドロフ、という言葉にリンクの顔が歪んだ。

「いまね、インゴーさんがガノンドロフに認められて、ここの牧場主になったの。それでタロンさんがショックを受けちゃってどっかいっちゃって……。それで、エポナが献上されることが決まって。いま、ロンロン牧場は大変なんだ」
「……そうか」
「インゴーさん、いい人なのに、最近ばかみたいに人が変わっちゃって。きっとガノンドロフに認められたことで、頑張らなきゃ、ってなってるんだと思う」

 少し神経質なところと、苦労人なところはあるが、インゴーはいい人だった。記憶の中のインゴーと、いまのインゴーがあまりにかけ離れていて、の胸にちくりと針が刺さった。

「なるほど……。、エポナを借りてもいい?」
「エポナかあ……どれくらいの間?」

 献上の件でインゴーが少しエポナに対して神経質になっているので、あまり貸したくはないというのが本音だ。

「明日には戻るよ」

 本当はほかの馬に乗ってほしいが、なんだかガノンドロフに屈しているようで嫌だった。もしなにかインゴーにいわれたら、よく走る馬ほどいい馬だよ、とでもいっておこう。

「わかった、いいよ。でもどこにいくの?」
「タロンさんを探しに行く」
「ええ! ほんとうに? 今から?」
「うん。俺に任しといて!」

 にこっと笑ったリンクの笑顔は昔のままだった。