「……え、リンク?」
剣を抜いた瞬間、まばゆい光を放ってリンクはその場から忽然と消えた。残ったのは、剣が差してあったトライフォースの紋を刻んだ台座と、自身だけ。聖地への扉が開けたはずなのに、なぜ自分はここに取り残されたのだろうか。
「……どうしよう、あの剣触ってなかったら駄目だったのかな」
とにかくここにいたら、ガノンドロフが遅かれ早かれやってくる。しかしどこにいけばいい。リンクがいなければこの世界で、たったひとりになる。
、と名前を呼んでくれた太陽のような少年は一体どこへいってしまったのだろう。
「ロンロン牧場……しかないなあ」
この世界にただ一人、友達だ、といってくれた女の子がいる。いまのにはマロンしか頼れる人はいない。ロンロン牧場にとりあえず身を寄せることにした。
城下町を通り抜けて、ロンロン牧場へ走っていく。日はすでに沈みかけていて、非常に危険だった。ハイラル平原には魔物もいる。夜になると魔物の数はさらに増える。武器や、身を守るすべを一つも持たないにとって、夜になるということは不都合なことだった。ロンロン牧場はもうすぐだが、日が暮れてしまいそうだ。そのとき、骨の竜の魔物がに気づき、近づいていくる。鋭い爪で攻撃をしてくる魔物だった。
「や、ばい……!」
大慌てで魔物から逃れようとしたが、すぐに追いつかれて、魔物の鋭い爪がに襲いかかる。
「いっ!! ……った!」
服が破けて肩に三本の爪痕から血がにじみ出る。けれど怖気づいている暇はなくて、ありったけの勇気を振り絞って襲い掛かってきた魔物にタックルをした。魔物は少しひるんだので、そのすきにロンロン牧場まで猛ダッシュする。ぽろぽろと涙が止めどなく溢れるが、そんなのをふき取る余裕なんてない。やっとロンロン牧場についたころには、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃになっていたし、肩はずきずきと痛んだ。
「リンク……どこいっちゃったの……」
こんな広い世界で、わたし、ひとりぼっちだよ。誰も守ってくれないよ。
声を出して泣いた。リンクの存在の大きさを改めて知った。ただのちいさい子のはずだったのに、中に宿った魂はそんなんじゃなくて、やさしくて、強くて、勇気のある、素敵な男の子。リンクは剣とともにどこへいってしまったのだろう。
「……?」
名前を呼ばれた。顔をあげて確認すると、マロンがそこにはいた。
「うっ……マロン……!」
「。どうしたの、?」
慌てて駆け寄ってきて、を抱きしめた。
「、怪我してる! 父さん!!」
ロンロン牧場の中にあるマロンの家の中でけがの手当てをされている間に、もようやく落ち着きを取り戻した。マロンとタロン、そしてインゴーというロンロン牧場で働いている男、三人に囲まれる中、はいままでの経緯を話した。
ハイラル城がガノンドロフによって制圧されて、ハイラル城、城下町ともども壊滅状態だということ。身寄りのないがただ一人頼れる人間がマロンで、やってきたということ。来る途中に魔物に襲われて怪我をしたということ。
リンクのことも聞かれたが、うやむやにしておいた。リンクのことを話せば、すべてを話すことになる。それはまだ話したくはないし、正直リンクが今どういう状態かは分からない。なので、戦火の中はぐれた、と当たり障りのないことをいって納得させた。
「ここにいるといいだぁ〜よ、部屋も開いてるし、マロンもよろこぶだあ」
「うん、、ここにいてよ」
「ありがとうございます」
「こんなちいせえのに、苦労してるんだなあ……」
ちいさく呟いたインゴーの言葉は、の耳にしっかりと届いていたし、きちんと意味も伝わった。インゴーは、の姿がちいさいので、きっと言葉の意味なんて理解できないだろうという油断から、ぽろりとでたのだろう。
はその言葉を、聞いてないふりをした。
待てども待てども、リンクは訪れなかった。それから七年の月日がたった。
時を駆けそびれた少女