実は、ゾーラのプリンセスであるルト姫が、ゾーラの守り神であるジャブジャブ様に飲み込まれてしまったらしい。そのジャブジャブ様だが、どうやらガノンドロフがやってきてから様子がおかしいらしかった。ルト姫を呑み込んだのもその異変と関係があるのではないかとのこと。
そう語ったのは、キングゾーラ。それにしてもキングゾーラというのは、他のゾーラ族と違って随分と身体が大きいのだが、足はとても細い。ちょこん、と王座に座っているのがとても可愛らしい様子だった。
「よーし、じゃあこういうのはどう? 俺がルト姫を助けるから、そしたらゾーラのサファイアをくれないか?」
ダルニアとの一件で交渉上手になったリンク。
「背に腹は代えられん。お願いするゾラ。ではジャブジャブ様に、この魚のお供え物をすると口を開くゾラ」
「わかりました」
魚を受け取ってさっそくジャブジャブ様の住まう泉までやってきた。守り神というだけあって、とても大きくて、まるでうなぎのようだった。
「これが……うわさの……」
「でっけー!!」
リンクの目がぎらぎらしている。今からこのジャブジャブ様に飲み込まれると考えると、つい身構えてしまうが、リンクはそうではないらしい。
「……じゃあこの、お供え物をジャブジャブ様に供えようか。えい」
はビンに入った魚をジャブジャブ様の前に落とすと、ジャブジャブ様は大きく口を開いて息を吸い込んだ。途端、ふわりと身体が浮くのを感じる。吸い込まれる。
「わわわわわー!!! リンク―!!!!」
「ー!!」
必死にすぐそばにいたリンクに触れようともがいたのだが、努力虚しく、とリンクはそれぞれジャブジャブ様のおなかの中へ吸い込まれていった。
イン ジャブジャブ様
「……ううう……痛い」
「、大丈夫?!」
半身を起して少しぐずつくが、リンクがすぐに駆けつけてくれたので機嫌はすぐに元に戻った。どうやら二人とも怪我無く無事なようだ
「リンク! 大丈夫だよ」
「ジャブジャブ様の中にはいれみたいだな、ルト姫を探し出そう」
差し出された手をとって、も立ち上がる。ジャブジャブ様の体内は、平らな地面と違ってぶよぶよしていて歩きづらい。
「よっと、おっと」
は両手を広げてバランスを取りながら、一歩一歩集中して進んでいく。
「……ねえ」
「んーっ?」
「今日はいいの?」
「なにがあー?」
主語のないリンクの言葉を聞き返しつつも、歩くのに夢中で視線は足元のままだ。少し楽しくなってきたというのもある。
「だから、今日はいいのって」
そしてリンクの顔がどんどんと不貞腐れていく。
「だから、何がー?」
「こないだはしたじゃん。……やっぱいい」
「なんで不機嫌になっちゃったのー?」
「別にー」
リンクは明らかにぶすっとしていて、なんだか不機嫌そうだ。けれどそんな様子も可愛いな、と思ってしまう。理由はわからないけれど、何か気に食わないことがあるらしい。
「どしたのーうわっ!!」
会話に集中していて気を抜けていたからか、足を取られてバランスを崩しそうになったので慌ててリンクの腕をとる。
「危ないなーまったく」
リンクがふにゃっと顔を崩して笑った。
「あれ、なんだか嬉しそう」
といって腕から手を離すと、リンクの顔が一変して驚愕を湛えた。それでなんとなく察しがついた。恐らくリンクは、前のドドンゴの洞窟で手を繋いだのに、なぜ今日は手を繋ごうと言ってこないのだろう、てなところだろう。
「ねえねえリンク」
手を繋ぐ? と提案しようとしたところで、悲鳴が聞こえてきた。二人は一斉に悲鳴のした方を見る。
「いってみよう」
急ぎ足で悲鳴のもとへと向かうと、ルト姫らしきゾーラ族の子が尻もちをついていて、そのルト姫の視線の先にはくらげを邪悪に進化させたような大きな怪物がいた。は息をのみ、後ずさりすると、リンクはの前に躍り出て庇うように腕を広げる。
「待ってて、俺がルト姫を連れてくるから」
「う、うん、まってる!」
毎度毎度思うが、こんなにも守られるだけの存在でいいのだろうか。リンクは果敢にも怪物に立ち向かっているというのに、自分は何もせずただ見ているだけ。完全に甘えている。
「……がんばれっ」
ちいさく呟く。リンクは尻もちをついていたルトをおんぶしてこちらへと帰ってきた。
「、頼む」
「うん! がんばって!」
リンクが今度は怪物へ向かっていった。はルトと思しきゾーラ族の子と向かい合い、尋ねた。
「あなたはルト姫さま?」
「何者じゃお主ら! わらわはゾーラのプリンセスのルトじゃ」
「わたしは、あの子はリンク。わたしたちはお父様に頼まれて、あなたを助けにきたの」
「たすけ? わ、わらわはそんなことたのんでおらぬぞ!」
「ルト姫は頼んでないかもしれないけど、でもみんな心配してるんだから、帰ろう」
「……いやじゃ」
「なんで!」
まさか拒まれるとは思わなくて、は素っ頓狂な声を上げた。
「どうしてもいやじゃ」
「どうして? 何か理由があるんでしょ。話してみて?」
ルト姫は迷っているようだ。けれどは、じっとルト姫を見つめる。少し黙り込んだのち、の催促するような視線に根負けして、わかった話すゾラ。といい、理由を話しはじめた。
「……実は、亡き母上がわらわにくださった、わらわのふぃあんせにあげる、えんげーじりんぐがあの怪物のところにいってしまったのじゃ。あれは大切な宝物で、どうしても取り戻さなければならぬのじゃ」
「なあるほど、じゃあ、あの怪物を倒して、取りに行こう。きっともうすぐリンクが退治してくれるはず」
といってリンクのほうを見ると、ちょうどリンクが止めをさしていた。さすがリンクだ、とは感心する。
「いこう!」
ルト姫とともにリンクのもとへ向かう。ルトはえんげーじりんぐを探し始めて、はリンクの無事を確認する。
「大丈夫だよ、どうだった俺? かっこよかった?」
「うんうん、かっこよかったよ」
とかいいつつも実は全然見ていなかったのだが、得意げなリンクを見るとついつい煽ててしまった。
「あったぞら!」
「あ、よかったよかった」
ルトはえんげーじりんぐを掲げて、うれしそうにぴょんぴょん跳ねた。リンクが首を傾げる。
「なにがみつかったんだ?」
「えんげーじりんぐ、だって」
「そのほう、ようやったな。褒めてつかわす」
「さあ、父さんの所へ帰ろう?」
にこっと微笑んだリンクの顔に、ルトがしばし見惚れる。
「……そなた、なかなかいい男じゃな」
「わたしもそう思う」
心なしか少し顔が赤くなっているルトに、はしみじみと同意する。
「まさかのふぃあんせか?」
「はは、まさか! 違うよ」
ふぃあんせ、という言葉の意味を知らないリンクはきょとんとしている。
「ならばよい、これをそなたに授けよう」
「え? いいの!」
「これは水の精霊石……ゾーラのサファイアと呼ばれておる」
「水の精霊石!? ありがとう、ルト姫!!!」
「はやく迎えにくるのだぞ、まっておる」
リンクはルトのふぃあんせになった訳だが、勿論リンクは何のことやらわかっていない。貰うだけ貰って行ってしまうのも、若干詐欺紛いな気がしつつも、なにはともあれ、精霊石が三つそろったのだった。