リンクの活躍はすぐにゴロン族の間に広まった。ダルニアはリンクのことをキョーダイと呼び、その夜は宴が開かれた。一つ残念なことは、“ご馳走”が岩だったこと。さすがゴロン族。結局とリンクははしゃいだだけで終わり、眠りに就いた。次の日、ダルニアから約束通り、ゴロン族の秘宝、炎の精霊石を頂いた。燃えるような赤いルビーのようなものだった。
「リンクが困った時は、今度は俺たちが助けるゴロ！」
という心強い言葉を帰り際には頂いた。別れのあいさつを交わしたのち、デスマウンテンを下山し、カカリコ村で食事をとる。
ご飯を食べながら、二人は今後のことについて話す。
「次は水の精霊石だね。確か、ゾーラ族が持ってるとか言っていたよね」
「うん。ゾーラ族って、どんなやつらなのナビィ？」
『水の中に住んでるのヨ。魚類に近いって聞いたけど、ナビィも実物見たことないからわからない』
「じゃあどこに住んでるの」
『ゾーラ川が流れていたでしょ、城下町からカカリコ村に行くまでに。そのゾーラ川をたどっていけばつくヨ』
などというリンクとナビィの会話を聞きながら、頭の中でゾーラ族の想像を膨らませる。の中では、水の中に住んでいるという時点で恐らく人魚だろうなという固い予想ができていた。人魚かあ……なんかわくわくするなあ。
そんなに、リンクが首を傾げる。
「、何にやにやしてるの」
「えっ、わたしにやにやしてた？」
「うん。なんで？」
「な、なんでもなーい！ ちょっとリンク、服にスープこぼしてるよもう」
「あほんとだ」
ごしごしと無造作にふき取るリンクを見て、はやれやれ、と少し微笑む。
『
はリンクのお姉ちゃんみたいネ』
「わたしもそんな気分、やんちゃな弟を持った気分」
「俺が弟？ そんなわけないだろ、のほうが弱いから、妹だな」
「わたしは女の子だから、男の子より弱いのは当たり前だもん」
「そんなことないよ、だって―――」
恐らくコキリ族の女の子の友達であろう子の名前を何人かあげて、その子たちとの喧嘩の内容を延々と話された。最初は聞いていたがだんだん面倒くさくなったは話を聞くふりをしながらご飯を平らげていった。
「さ、とりあえずこのお店でよ」
まだ話途中ではあったが、もリンクも食べ終わったのでお店を出て、ゾーラ族のもとへ向かうことにした。カカリコ村を出て、ゾーラ川の川辺に沿って上流を目指す。
「みてみてー」
リンクが川辺ぎりぎりを歩く姿をに見せる。一瞬でリンクが川に落ちてびしょびしょになり、火を起こして服を乾かす、という姿が頭をよぎる。
「リ、リンク！ だめ、ちゃんとこっちを歩こう！」
「なんでー？？」
「危ないから！」
けれどやんちゃ坊主こと、リンクはぎりぎりを歩くのをやめない。はどうやってリンクをそこから離そうかを考えて、一つ考えが浮かんだ。
「リ、リンクってばおそーい！ 競争だからね！」
唐突に走り出して一方的に競争を始める。子どもっていうのは確か、こうやって勝負をすると、勝ちたがったような気がする。別に幼児教育を習ったわけでも、子どもがいるわけでもないが、経験上そんな感じだったと思った。ちら、と走りながらも後ろを振り返ると、リンクが慌てて追いかけてきている。
「まてよー！ ずるいぞ！」
などという声を背中で受けながらも、くすくす笑いながら走り続ける。
「俺が1位だー！」
「わたしが1位だよー！」
とかなんとかいいながら競争し続けていると、急に空気が冷たくなった。道は細くなり、ちょっとした山道になっている。足元に気を付けながら歩き続けると、大きな滝が現れて、それ以上は進めなくなってしまった。しかし、どうにもゾーラ族は見当たらない。リンクはナビィを見やる。
「ナビィ、ゾーラ族はどこ」
『ナビィもわかんないヨー』
リンクがむーっと眉を寄せて腕を組む。
『一つ怪しそうなのはここの滝の奥カナ』
ナビィが向かったところを見ると、確かに滝の奥に道のようなものが見える。しかし、飛び込んだところで滝の勢いに流されて、川に落ちてしまうのが見えている。更に滝の前には、ハイラルの紋であるトライフォースのマークが大きくあしらわれたタイルが敷かれている。はうーんと首をひねる。
「このトライフォースのタイルも怪しいよね」
トライフォースといえば、ゼルダ姫から教えられた歌はどんな歌だっただろうか。口ずさんだだけだから少し曖昧だ。
「ねえねえ、ゼルダの子守唄ってどんな歌だったっけ。ふ〜んふ〜ふ〜ってかんじ？」
「んーちょっと違ったような。俺覚えてるよ」
オカリナを出してメロディを奏でる。それを聞いてメロディを思い出したが、リンクのオカリナに合わせてメロディを口ずさむ。すると滝が二股に分かれて、滝の奥にある道が開けた。
『ああなるほど！ もしかしたら、ゾーラ族のもとへは由緒正しい王家の者しかいけないのかもしれないネ！』
なるほどナビィのいうことも一理ある。そんなこと考えながら、二人はハイタッチをして、滝の奥へジャンプした。空気がこれまで以上に冷たくなる。
しばらく進むと、鍾乳洞のような作りの、大きな空間に出た。
「ゾーラ族だ！」
リンクが叫んだのでがきょろきょろと探すが、見当たらない。
「どこどこ？」
「ほら、あそこ！」
「……っ！！！！」
少しばかり離れた場所に、それらしき存在がいた。それを見たときに、に雷に打たれたような衝撃が走り抜けた。
「あ、あれが……ゾーラ族……」
幻想とは怖いもので、それはただの自分の中で作り上げた虚像であるのに、いつの間にかそれが実像だと勘違いしてしまう。
ゾーラ族は人魚とは言えない、言うならば魚人間のようなものだった。リンクの先のとがった帽子がそのまま身体の一部になったような、魚の尾ひれのようなものが頭の後ろに伸びている。腕からは大きなひれが生えていて、しかし足はしっかりと人間の足だ。
「あれがゾーラ族かあ」
一方リンクはとても興味深々らしい。相変わらず子どもの好奇心というのは尽きない。この世界に来てから人間以外の種族に会ってばかりなので、もうきっと宇宙人にあっても驚かないだろう。こちらに気づいたゾーラ族が、慌ててやってきた。
「君たちは何者だろうか。……見たところ王家の使者には見えないが」
「一応、王家の使者のようなものでもあります。水の精霊石を探してるんですが……」
「そうなのか、しかし残念だが今それどころではないのだ。いま少し大変なことが起こっていてな」
王家の使者という点が少し納得いっていないようだが、どうやら込み入った事情があるらしい。
「とりあえず王のもとへ案内しよう、ついてきてくれるか」
「うん！」
リンクが元気のいい返事をして、ゾーラ族のあとをついていった。
水を司りし種族