ダルニアの兄貴というのは、他のゴロン族とは風格が全く違った。大きながたいに、大きな声。ざっと自分の身の丈の2,3倍はあるのではないのだろうか。彼はこのゴロンシティを統制している大親分らしい。
「炎の精霊石? ああ、ゴロンルビィのことか。これは俺たち一族の秘宝だ。簡単にゃ渡せねえゴロ」
「でも、どうしてもほしいんです……」
「なんだおめえ、随分と貧相だな」
じろじろと見られながら言われた。そりゃあ、あなたと比べたら貧相にも程があるでしょうけど。とは毒づく。それを見たリンクが、の前に庇うように出た。
「 は女の子だからいいんだよ」
「ほう……まあ、どうしても、っていうならドドンゴの洞窟の怪物を倒して、オトコになってみな!」
ドドンゴの洞窟の怪物を倒せば、一族の秘宝をくれるということだろうか。なんだかこの世界の宝石の価値があまりにぞんざいであるなとは思った。見ず知らずの人間に、一族の秘宝をやすやすと渡してしまっていいのだろうか。勿論それほど困っていると考えてもいいが、それにしても秘宝と言われているものなのにどうなのだろうか。それともこんな貧相な人間たちには到底魔物は倒せっこない、ということか。
「わかった、俺、倒すよ! 約束だよ」
「おお、いい心意気だゴロ」
「ねえ、これは何なの?」
リンクが指差した先には、爆弾が成っているような花が咲いていた。
「これはバクダン花ゴロ。引っ張ると爆弾が点火して、暫くすると爆発するゴロ」
「へえー面白いな。こんなのコキリの森にはなかったよ! じゃあ、いってくるよ!」
「おお、気をつけるゴロ。洞窟は暗いから、この松明を持っていくゴロ」
ダルニアは豪快に笑って二人を見送ってくれた。
「ドドンゴってどんなのなんだろう」
「きっと、こんなんだよ」
まじめな顔してリンクが全身を使ってドドンゴを表した。できるだけ凶悪そうな顔をして、できるだけ大きく見えるように頑張ってる様子がなんともいえない。
ダルニアに聞いた通りの道を行くと、ドドンゴの洞窟にたどり着いた。洞窟の奥は暗闇で何も見えなくて、見ているだけで闇に引き込まれていきそうな錯覚に陥った。リンクはダルニアに貰った松明に火を灯して歩き出した。
「……」
ちょっと、怖くなってきた。自慢じゃないが幽霊とかそういうものはめっぽう弱い。この洞窟のうす暗さにはそういうものを連想させる何かがある。そんなに気付かずに、ずんずん進むリンク。ついていかなければいけないのだが、どうしても足が進まない。途中で気付いたリンクがくるっと振り返って、慌てて駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「……怖い」
「はははっ、なんだよ、怖いなんて。俺がいるじゃん!」
ぽんぽん、と肩をたたかれるが、怖いものは怖い。リンクがいたってそれは変わらない。ずっと口を固く締めていたが、リンクが「ほら、俺がいるってば」と諭すように言ってくるので、としても、仕方ない、行くか。という気になってくる。
「……わかったよ」
「ようし、じゃあいこう!」
「ま、まって!」
「ん?」
呼び止めたはいいが、もじもじと話を切り出すのを迷う。リンクが首をかしげる。
「あ、あのね……手、繋いでもいい……?」
「!!!」
それを聞いたリンクの顔がだんだんと赤らんでいった。彼は返答に困っているようだった。もじもじすると、困惑するリンク。
「……つ、つながない……」
「え!」
リンクの年頃には少し刺激が強い提案だったので、反射的に断ってしまった。しかし、からしたらまさか拒否されると思わなかったので、素っ頓狂な声を上げる。
「………わかった、ごめん」
しょぼん、と項垂れたがとぼとぼと先に歩きだす。その姿にリンクがはっとする。
「!」
に駆けよって、の手をとってぎゅっと握りしめた。
「その、、あの、のことは俺が守る!」
「あ、ありがとう!」
ドドンゴの洞窟へ、手を繋いでとことこ歩いて行った。暫く道なりに進むと、遠くの方でずしん、ずしん、と地鳴りのような音が聞こえてくる。
「なに、なに。なんだ、どうした」
動揺をそのままにがいう。どきどきどきどきと心臓が早くなっていくのを感じる。こんな大きな音、相当な大きさの怪物に決まっている。この音の正体はきっと、ゴロン族を悩ませてる怪物に違いない。
「これが、ドドンゴか……?」
「きっと……」
「、ここで待ってろ」
「い、いや! 怖い! ついてく!!」
「でも危ないよ」
「でも、ここで一人で待ってる方がいやだよ。足手まといにはならないようにするから、お願い!」
心からのお願いに、リンクがとうとう折れた。の言うことに一理あるのも確かだ。
「じゃあ、安全なところにいるんだからな!」
「うん!」
駆けだして音のする方へ急ぐと、開けた場所に出た。そこでは溶岩がグラグラと流れていて、巨大な恐竜のような怪物の姿が見えた。の足がすくむ。これ以上進むのは、身体が拒んでいる。
「よし、待ってて」
リンクは持っていた松明をに預けて、力強い笑顔を浮かべた。少し安心したは頷いた。つないだ手はすっと離されて、残された熱が少しでも長く残るようにその手をぎゅっと握った。
(がんばれ……!)
リンクは動きは軽やかだった。自分の身の丈の何倍もある大きなドドンゴに、物怖じせずにさっと駆けより、挑発しつつも様子を見る。対するドドンゴは見ていると図体がでかく、火も吹くが、動きは鈍かった。火を吹くときも精一杯息を吸い込んで思い切り吹いている。それに目をつけたリンクが、ドドンゴが火を吹こうと口を開けた瞬間、近くに生えていたバクダン花を引っこ抜き、口の中に華麗なスローを決めた。間もなく、くぐもった爆発音が聞こえてきて、ドドンゴは口から煙を吐いてその巨体が力なく横たわった。それを何度か繰り返すと、ドドンゴは動かなくなった。
「勝った……のかな?」
「ー! 倒した!!」
リンクが少し先でぶんぶん手を振っている。も大きく振り返す。するとリンクが駆け寄ってきて、何も言わずにの身体を上から下まで確認して、身体の至る所を触る。
「? なあに??」
「怪我ない?」
「ないよ、ずっとここにいたもん。それよりリンクこそ、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「俺は大丈夫だよ。そっか、が無事ならよかった!」
リンクの優しさが、の心にしみわたった。