それは突然起こった。
グランバニア城で一家がつかの間の休日を楽しんでいたときだった。
城の屋上のとフローラが花の冠を作っていて、それをが喋りながら見守っているところ。

「きゃああああああっ!!!!」

急に女の子の悲鳴と、どさっという音が聞こえてきて、四人が顔を上げる。
するとそこには今まで誰もいなかったはずの庭の中央に、人間が二人ほど雪崩込むように倒れていた。

「お、お父さん、人が…」
「あなた…」

とフローラが心配そうにを見上げる。に至っては呆然として口が開きっぱなしだ。
も何も言わずにとフローラの前にたち見守っていると、すぐに謎の二人はもぞもぞと動き出した。

「あたたぁ…」
「ん…上にいるの?」
「あ、あう、!?す、すみませんすぐどきます!!」

上にのっかっていた女の子が急いでどくと、下にいる男の子も立ち上がって、砂埃を払った。
栗色の髪の女の子と緑色の髪の男の子だった。

「ここどこだろう…?」
「ううーさっぱりです。………あ、人がいますっ。あの、すみませんっ。」

女の子はたちのいるところとは全然目もくれず、まるで見当はずれのところを見回して、
やっとたちに気付いた。

「はい…?」
「あの、ここってどこでしょうか?私たち気付いたらここにいたのですが…。」
「ここはグランバニア王国で、城の屋上なのですが…。」
「グランバニア王国? …あの、、すみませんわたし世界に疎くて…グランバニアってどこです?
…俺も知らない。
「サントハイム大陸をこう見たとして、どこらへんでしょうか。」

ジェスチャーを交えながら聞いたことのない大陸の名前を言われ、四人は呆然とする。
だが女の子も男の子もいたって普通な表情で聞いてくる。冗談を言っているわけではないらしい。

「お父さん…サントハイム大陸ってどこ?」
「失礼ですがサントハイム大陸というものは聞いたことがないのですが。」
「サ、サントハイム大陸を聞いたことがない!?おかしなことです…ではアリーナ姫様もご存じないと?」
「残念ながら…。」
「ではエンドール城は?最近モニカ姫とリック王子が結婚したのですが…。」
「知りませんね…。」

彼女の口から出てくる地名も人名も本当にピンとこない。おかしなことがおこっている。
二人組もこの違和感に気付いているらしく、戸惑った表情でぼそぼそと会話を交わしている。

「あ。」

ここにきてフローラが声を出す。
みなの視線がいっせいにフローラに注がれる中、記憶を手繰り寄せるように斜め下に視線を置いた。
何秒か後、フローラが「思い出しましたわ。」と実に神妙な表情で口を切る。

「昔、花嫁修行をした修道院の書物に書いてあったのですが…もう、ほんとうに気の遠くなるほど昔に
 サントハイム大陸と言う大陸が存在してあったと書いてありましたわ。」
「気の遠くなるほど昔、ですか。」
「はい。そしてその大陸が存在していたときにも、勇者が存在していた、と。」

フローラの言葉に女の子と男の子が目を見開いて顔をあわせる。
なんとなく、にも事情がわかってきた気がした。

「…俺、勇者なんです。」
「待って、僕も勇者なんだよ。」

が装備してた天空のつるぎを抜き取って二人に見せる。すると緑色の髪の男の子も
剣を抜き取ってみせた。彼が持っているそれも、の持っている天空のつるぎと一緒だった。
まがい物なんかではないのはわかる。雰囲気がまるで一緒だった。

「もしかしてわたしたち…すっごい未来にきちゃったんでしょうか。」
「かもしれない。ていうことは…君が俺の次の勇者ってことかな?」
「じゃあお兄さんが…伝説の勇者?」
は勇者なだけでなく、伝説の勇者なのですか!?どひゃーっすごいです!!」
「どひゃーってなんだよどひゃーって。」

と呼ばれた男の子は、やわらかく笑って女の子おでこを小突いた。
彼らの持つ雰囲気はいわゆる恋人たちの持つ独特なもので、恋人同士、あるいはそれ以上なのだろうと推測できた。

「あっ申し遅れました!わたしサントハイム騎士団所属で、いまは導かれし者として勇者の
 サポートをしてます。と申します。」
「俺はです。大昔の勇者…ということですね、はい。」
「す、すごい!伝説の勇者様だ!!!僕ね、っていうんだ!お父さんがお名前つけてくれたの!」
「ぜんぜんにもわたしにも似てないね!あ、私はっていいます。同じくお父さんがつけてくれたんです。」
「そうなのですか〜。いいお名前ですね。」

持ち前の人懐っこさでが一気に二人のもとへ駆け寄っていった。
もフローラもどちらかというと人見知りをするほうなので二人は目を見合わせて苦笑いをする。

「うう〜可愛いですっこんなちっちゃな子が勇者なんて…すごいですねえ未来は。おいくつですか?」
「僕たち双子で10歳なんだ!」
「じゅ、じゅっさいですか!?ひゃ〜お若いっ!どうりでお肌がぴちぴちですね。」
おばさんくさいね。」
「うるさいですよ。あ、お父さんにお母さんはお名前なんというのですか?」
「俺はで、妻のフローラです。ちなみに失礼ですがお二人は夫婦なのでしょうか?」

とじゃれる姿があまりにお似合いだったので思わず聞いてしまった。
するとがぴたっと止まって顔を真っ赤にした。「ちゃん顔赤い!」なんてが笑う。
隣にいるもほんのり頬を染めて手を横にふる。

「夫婦ではないです。恋人、ですね。」
「あああああ!!!」
「!ど、どうしたのちゃん?」

急にが大声を出して赤かった顔をさらに赤くした。が心配そうに見つめる。

「き、気付いちゃったんですわたし…!」
「どうしたの?」

が突然大声を出すのは割と日常茶飯事なのか、は普通にたずねる。

くんは勇者で、ちゃんは双子…ということはつまり…。もし、もしですよ?」
「うん、もし?」
「もしわたしとが結婚したとして、こどもなんかできちゃったりしたら、くんたちはわたしたちの
 すご〜〜〜い後のお孫さんってことですよね。それってなんだか、ステキなつながりですね。」
「そうなるね。じゃあ俺たち気の遠くなるほど”ひ”が付いた、おじいちゃんにおばあちゃんってことか。」
「私も天空の勇者様の子孫なのです。」
「フローラさんもご子孫さまですね!」
「わあ〜ステキですね。」

とフローラが女同士で妙な盛り上がりを見せる。「握手してくださりますか?」なんてフローラが言ったと思ったら
「任せてくださいっ。」と、やけに嬉しそうな顔で握手に応えている。これにはが目を合わせて苦笑いだ。

「わたし、とても人見知りなのですが…さまとは自然に接することができますわ。
 これもやはり、血のつながりが関係しているのでしょうね。すごいです!」
「血のつながりってすごいんですね!」
「フローラさん面白い方ですね。」
さんもなかなか。」

男同士も盛りあがり始めた。