「…?ちゃん?」

聞いた事のない声が、わたしを呼ぶ。低くて、落ち着く声。あなたはだあれ?
ゆっくりと目を開き、その人の事を確かめる。どこかで見た事のある顔だけど、少し違う。
ぼんやりする頭で、このヒトは誰だろう?と、考える。紫色の髪の毛に瞳。やはり、どこかで見た事のある顔。

「俺だよ。バド。昔よく世話になったね。」

穏やかに微笑んだ彼は、バド、らしい。自分の知る限りのバドという男の子は、小さくてやんちゃで可愛らしい子。
でも目の前で微笑んでいる彼は、大きくて、好青年で、とてもカッコいい男性。

「……魔法を使ったの?」

ゆっくりと上体を起こしてたずねれば、彼はきょとんとした。

「なに言ってるの。俺も大人になったんだよ。そういうちゃんこそ、なんで昔のままなの?」

もしかしてエルフか何か?なんてたずねられて、頭を横に振った。自分は至って普通の人間だ。
それにしても状況が理解できない。改めてあたりを見渡して見れば、どうやら自分が寝ている場所は誰かの部屋らしい。
だが、自分の部屋ではない。確かに寝たときは自分の部屋だったはずなのに。そして目の前に大人バドがいる。
しかも、かなりの美青年の。

「…昔のまま、っていうより、私は私だよ。バドが急成長しすぎなんじゃない?」
「でも俺がちゃんと知り合ってからもう何年も経つよ。なのにちゃんは知り合ったころのちゃんと変わらない。」
「おかしいなあ。もしかして、タイムスリップでもしちゃったのかな?」

半分冗談で言ってみるが、言葉にしてみるとそれは少し現実味を帯びてきた。
自分の知っているバドはおこちゃまで、自分の足の長さよりも小さい男の子。その男の子が、今はもう一人の男。
もう自分なんかよりも幾分も大きい。座ったままでもわかる。

「そうかもね」

バドが大人の、あのどこか余裕のある笑顔を浮かべた。こんな表情を、自分の知るバドができるだろうか?
答えは否。イタズラっぽい笑顔ばっかり見ていて、こんな笑顔は見た事がない。
ああ、なんだか切ない。自分の知っているバドじゃないバドがここにいる。自分なんかよりもずっと大人っぽいバドが。

ちゃん」

この大人バドに言われるこの呼ばれ方、なんだか年下の子に対する呼び方、って感じで少し嫌。
でも悪い気はしない。イッツ ア アンビバレンス。

「俺ん家住む?なんかよくわかんないけど、もしかしたら本当にタイムスリップかもしれないし。」
「…じゃあ、よろしく。」

こうして、不思議な流れで大人バドとの同居生活が始まった。








(きみ と ぼく の きみょう な どうきょせいかつ)