琥珀という男の子が、その子の弟だった。
奈落に操られて、父を、仲間を殺し、ついには姉である珊瑚を殺そうとした。それでもやはり琥珀を愛している。

「さーんご。」

オレンジ色の空を、体育座りで見つめている珊瑚の隣にひょい、と座りこむ。

「あ、ああ。。どうしたんだ?」
「珊瑚が一人で黄昏てるから、俺も一緒にと思って。」
「た、黄昏てないよ!」
「冗談、冗談。まったく生真面目なんだからねー珊瑚は。寂しそうだから俺が隣にきたんじゃないの。」
「べ、べつに寂しくなんか…。」
「俺の目には寂しく見えたの。」

犬夜叉とか七宝なんかは珊瑚のことを女性として見てない節があるが、俺には立派な女性だ。(正真正銘女性だけどさ。)
普段は気丈に振舞っているけど、時々ふと悲しげな顔をする。一人で少しはなれた場所で物思いに耽ってたり。
そんな姿を見るたび俺は珊瑚を抱きしめたくなる。支えたかった。

「お前は、鋭いな。」

そういって笑った珊瑚の表情が痛ましかった。俺は、そんな顔見たくないんだ。

「珊瑚のことならなんでもわかる。」

ぽん、と珊瑚の頭に手を載せてなでる。
女の子の頭なんて撫でたことないから、もしかしたら強すぎたかもしれない。

「なー」
「ん?」
「俺さ、犬夜叉とか弥勒みたいに強くないし、特別優しいわけじゃない。でもね、俺珊瑚のこと守ってあげたいのよ。」
「へーえ?」

あ、この顔は絶対信じてないな。こんにゃろう。

「俺本気なの、ドゥーユーアンダースターン?」
「……何語しゃべってんの?」
「え・い・ご。俺って知的だよな。」
「はいはい。」

ぎゅー、と頬を抓ってやる。珊瑚のやつ、ひどく間抜けな顔だ。

「やーめーへ!」
「やーめーない。」

からから笑うと、珊瑚は無理矢理俺の手を引っぺがした。珊瑚の顔が赤かった。
夕日のせいかもしれないけどね。

「へ、変な顔、見せたくないんだよ!」

恥ずかしそうに顔を覆いそっぽをむいた。ああ、可愛い。やっぱり珊瑚は可愛いんだ。
まだ十六の女の子。これが年相応の表情ってもんだよな。

「俺は珊瑚のいろんな表情が見たい。」
「い、いろんな表情っていっても、何もこんな顔……。」

珊瑚の両手を掴み、開ける。真っ赤な顔があらわれた。うん、夕日のせいじゃないな。

「可愛いよ。」

真剣な顔で言うと、珊瑚は俺の手から逃れようと腕に力を入れたが、俺はそれを許さない。
珊瑚の腕っぷしは強い。けれど男の俺と比べたら、例え平凡な男でも、負けない。

「はなしてよ……!」
「いや〜ん。」
「気色悪い。」
「まーな。」

さっきまで遠い空を見ていた珊瑚の瞳は、今は俺だけを映している。
さっき珊瑚の目は空を通して一体何を見ていたんだろう。それを聞けるのはきっとすべてが終わったときで。
だから俺は一刻も早く奈落の野郎をぶっ潰して、聞きたい。
そのとき俺は珊瑚の隣にいてもいいのかな。珊瑚を守れる存在になれてるかな。


遠い空を見つめる少女
お題配布源*確かに恋だった