「手、つなぎたいな。」
ちらと様子をうかがいつつ尋ねると、殺生丸の表情に変化はない。
あれ、聞こえてないかな?と思った矢先、わたしの手を大きな手で包んだ。
「ありがとう。」
何も言わないけれど、求めれば求めたぶんだけ愛をくれる冷たいけどやさしい人。
わたしは彼がだいすきだ。
「おおっ殺生丸さまとが手を…!」
「だめだよ邪見さまっそんな見たら!」
振り返り、一睨みした殺生丸。それだけで邪見は口を閉ざし、冷や汗を流す。
「…やっぱりいいよ、恥ずかしいよね。」
「かまわん。」
「いいの?」
「何を遠慮する必要があるのだ?」
顔がゆるんでしまった。
殺生丸の口から出てくる言葉のなかではやさしい類に入るその言葉に、わたしはときめきすら感じる。
「顔がだらしない。」
「…だって、うれしいんだもん。」
「なにがだ?」
「殺生丸のこと好きだからね、ちょっとしたことで盛り上がっちゃうんだ。」
すると急に殺生丸はわたしを抱き寄せた。
突然のことに目を白黒させていると、これまた急にきすをされた。
「きゃあ〜!りん!まだはやい!!」
「ほえ!?突然なあに邪見さま!?」
まわりの騒々しい声すら、いまのわたしにはあまり聞こえてこない。
いまはただ、殺生丸に触れているすべてに集中していた。
唇が離れ、殺生丸の顔があらわれた。相変わらず無表情だった。
「とつぜん、どしたの?」
「したくなったからしたのだ。」
そういって再び何事もなかったかのように歩きだした。
呆然とするわたしの手をからめとって。
「……ずるい。」
彼は本当にずるいんだ。またわたしの心は殺生丸ばっかりになった。
どきどきする。ああ、空がきれいだ。
キスしたかったから
配布元:確かに恋だった