人間五十年なんてよく言うが、そんなことは殺生丸にとってはどうでもよかった。
人間なんぞに興味はなかったし、むしろ嫌悪さえ抱いていた。
だがそれは昔の話で、今は人間というものに本当に少数ではあるが好意を抱いている。

「うちの国じゃ80歳くらいが平均寿命らしいよ。」

夜も深まり、静まり返った森の中。木陰に腰を下ろして二人は話していた。

「50も80も変わりないな。」
「えー結構な違いだよ?30年で結構違ってくるもの。」
「妖怪の寿命は何百年、だからな。」
「そっかぁ。わたしみたいなのは殺生丸の一生の中ではほんの少しの間に存在した人間の娘、ってなっちゃうんだね。」

殺生丸は何も言わなかった。否、言えなかったのだ。気付いてしまった。はもう何十年もすれば死んでしまう。
勿論りんも。それはにとっては遠い未来だとしても、殺生丸にとってはそう遠くない未来に感じるのだ。

「寂しいね。」

それは殺生丸がなのか自身なのか、それは明らかにせずぽつりといった。
死が二人をいつかは別つ。それは確実にやってくる。

「わたしが死んでも、殺生丸はわたしの何倍も生きて、生きて、生きて、その途中恋もして。いつかは結婚して。」

は殺生丸の手を握って、笑った。

「ねえ、たまにでいいからわたしのこと思いだしてね。」
「…やめろ。」

悲しくなるだけの言葉のやり取りならやりたくなかった。

「それだけでいいから、それだけでわたしは嬉しいから。」
「少し、黙れ。」
「出会えてよかった、って思えるから。」

無理矢理口を塞いでしまおうか、と思いを見たが、彼女の瞳は驚くほど悲しみに満ちていた。
殺生丸はおどろき、思わず固まった。

…。」
「わたしね、少しでも長く殺生丸と一緒にいたい。」
「ああ。」
「将来誰を愛して、誰と結婚したってかまわないけど、いまは、いまだけはわたしだけを愛して。」

殺生丸は肩に手を回しそっと抱き寄せた。は頭を殺生丸の肩に預けた。

「案ずるな、未来永劫お前しか愛さない。」

握られた手を握り返す。

「未来は不確かなの。」
「信じる信じないは次第だ。」
「…じゃあ、信じる。」
「いい子だ。」


――は確かに私を置いて逝く。彼女が人間である以上仕方がない。
だから、いつか去っていってしまうへありったけの私の愛を最期の瞬間まで伝えてやりたい。
最初で最後、愛した女へ。




いつか去っていくきみへ