ずっと彼の背中を見て、追いかけていた。今眺めるのはその横顔。前でも後でもない、彼の隣が今の自分の立つ場所。こんなに近くにいることが許されるなんて、少し昔の自分は想像もしなかった。ただこれからも一緒に、同じ職場の人間としてでいいから、一緒にいたいと願っていただけだった。この現実が幸せすぎて、怖いくらいだ。
「?」
ソファで二人で腰かけていたのだが、の視線に気づいたアレクサンドルが不思議そうに首をかしげた。彼の横顔を誰よりも近くで眺めることのできるこの位置が、とても居心地良くて愛しかった。
「なんでもないです」
いたずらっぽく笑うと、アレクサンドルは顔をしかめる。
「さん、いつまでたっても敬語が抜けないですね」
「あっ、アレクさんこそ敬語やめてくださいよ」
「わざとです。やめてほしかったら、さんも敬語をいい加減やめてください」
敬語は敬語で、アレックスであったときの彼を思い出すので胸がきゅんとなるのでまたいい。あの日々は自分の人生の中でも特に輝いていた宝物のような日々だ。だが、今まで敬語から離れていた分、なんだか距離を感じてしまう。
「でも、敬語がもう癖づいちゃってて……」
「じゃあせめて、“さん”をつけないでくれないか」
つまり、それは、呼び捨て。アレクさんではない、アレク。体温が急に上昇して、どきどきと心拍数もあがっていった。心の中でアレク、と呟き、その響きにまたときめく。アレクサンドルはじっとを見つめる。
「ほら、いってごらん」
「あーえーと……ア、レ……ク?」
「もう一度」
「アレク……」
「よくできました」
そっと頭を撫でられる。心地よい痺れがの身体を支配した。アレクサンドルの微笑みはとても穏やかで、今までは、どこか悲しみが見え隠れしていたのだが、それが見当たらなかった。それがとても嬉しかった。
「わたし、アレクのその笑顔、好きです」
「ええ、どうしたの急に」
急にが言うものだから、アレクサンドルは面食らう。
「だってアレクの笑顔見てると、わたしまで幸せな気持ちになるんです」
ははにかむと、アレクサンドルはの身体に腕をまわした。ぎゅっ、と抱きしめられて、の身体が硬直する。視覚や、聴覚だけでなく、触覚でアレクサンドルを感じている。
「アレクさんっ?」
「なんて幸せなんだろう」
彼の声は、耳元で聞こえてきた。囁くようなその言葉を聞いた瞬間、の胸が熱くなる。世界で一番幸せになってほしいと願った人が、いま、幸せだと言っている。
やっとすべて終わったんだ。彼を悲しみから解放できたんだ。そう感じた。
「わたしもです」
これからまた新しい物語が始まる。わたしと、あなたの。そして、きっと物語はこう終わる。
―――二人はいつまでも、幸せに暮らしました。 と―――
after
that ...
ずっとずっと、だいすきで。
ただ一緒に過ごせればいいって思ってた。
けれど、少しずつ崩れていく”日常”。
遠ざかっていくあなたの背中を、やっとの思いでつなぎ止めた。
ぜったいに離したりなんてしない。
いっそ世界が終わればいい 完結でございますっ!
長らくお付き合いいただきありがとうございました。
連載はこれにて完結でございますが、これからも二人の物語を書いていこうと思うので
これからも宜しくお願いします(*^_^*)!
(2012.08.20)