足がもつれながらもアレクサンドルのもとに駆けつけて抱き寄せる。「アレックスさん!」と呼びかければ、アレクサンドルは力ない笑顔を浮かべた。足先から徐々に消えていくのが見えて、はひどく焦燥する。どうしよう、大切で、誰よりも幸せになってほしい、大好きなアレックスがしんでしまう。

「しっかりしてください!!」
「……できれば、さんとは違った時代に違った形で出会いたかった」
「アレックスさん、わたし、アレックスさんのこと―――」

 先ほどまで確かに存在していたアレクサンドルの重みが、ふっと消えてしまった。の気持ちは、届かずに終わった。

 アレックスさん、わたし、アレックスさんのこと、好きです。あなたがたとえアレクサンドルだろうが、誰もが許さない罪人だろうが、大好きです。
 誰もが許さないなら、わたしだけは許しますから。必ず、あなたを助けだしますから。だから、だから、 あなただけは生きていてほしかったです。
 この気持ちは最低な気持ちだ。倫理からかけ離れた気持ち。けれど、本当の気持ちだった。残念ながらアレックスはアレクサンドルとともに、消えてしまったけれど。



宝石たちの夢のあと


 アレクサンドルは最初からこうするつもりだったのだ。最後の一つとなり、そして蛍姫のための涙石となるつもりだったのだ。はもはや、何も考えることが出来なかった。消えてしまったアレクサンドルの重みが、今もどこかにありそうなのに、それが見当たらない。ルーベンスも、エメロードも、ディアナも、真珠も、アレクサンドルも、今この場にいないだけでどこかにいるんじゃないかと思ってしまうが、実際は宝石王の中で融合されてしまったのだ。やるせない気持ちだけがの中に留まり続ける。
 結局、何もできなかった。どうにかしたいと願いながらも、ついに止めることはできなかった。もう、何もかもを投げ出したかった。現実から逃避したかった。

「これが彼の出した結論か……」

 宝石王は呟き、美しいアレキサンドライトを空に掲げた。そしてそれを惜しげもなく飲み込んだ。刹那、宝石王は深く脈打ち、まるで身体の内部で何かが暴れるかのように激しく動き、やがて眩い光を放つ。は思わず目を閉じて頭を抑える。
 しばらく経ちうっすら目をあけると、かつて夢で見た景色が広がっていた。



あたり一面 キラキラ輝く宝石で満たされていて

とっても綺麗な世界


「宝石王が飲み込んだ核の力が、やつの容量を超えてオーバーロードしたんだろう」

 ようやく力が入るようになった瑠璃が立ち上がってアレクサンドルの夢のあとを見渡した。結局、残ったのは瀕死の蛍姫と、瑠璃と、と、融合できずに散り散りとなった珠魅たちの核だけ。あまりに悲しい結末だった。

「どうしてこうなっちゃったの……?」

 今まで抑えていた感情が一気に押し寄せて、大粒の涙がの頬を伝い、やがて地面に落ち、眩く光った。何粒も何粒も落ちては、光った。

「ねえ、どうして……?」

 こんなの、あんまりじゃないか。誰もが誰かを救いたいと願っただけなのに。それって、思いやりではないのか。珠魅は思いやりの気持ちをなくしたわけではない。きっと彼らは泣いている。涙を出さないだけ。ただ、泣き方を変えただけじゃないのか。
 一度零れおちた涙粒は留まることを知らず、堰を切ったようにぽろぽろと流れ出ていった。

、やめるんだ……!」

 瑠璃が駆けよって、を繋ぎとめるように抱きしめた。けれど足元から感覚がなくなっていくのがわかる。石になっているのだろう。『珠魅のために涙するもの、すべて石と化す』けれど、それでいいと思った。

 は石になった。