心を奮い立たせ、再び歩きはじめる。ひどく足取りが重い。けれどこの砂漠から抜け出すには進むしかない。そろそろ誰か出てこないかな、と思いつつなるたけ何も考えないようにして歩いて行く。すると、の願いが届いたのか再び砂が舞い、真珠姫をかたどった。真珠姫は砂漠に倒れていた。そのそばに瑠璃も現れる。

「真珠姫」

 瑠璃が歩み寄り、真珠のもとに跪いた。

「ん……んん……」

 真珠を抱き上げると、微かに声を漏らした。

「大丈夫か?」
「瑠璃くん……私は大丈夫よ」
「レディパールは? 彼女はどこへ? どうして君に戻ったんだ?」
「瑠璃くん……私は大丈夫……瑠璃くんは大丈夫?」
「俺が? 俺が大丈夫かだって?」
「だって、瑠璃くん……すこしヘンよ?」

 真珠の言葉に目を丸くしたが、やがて細められ、口角をうっすら上げた。

「……行こう、真珠姫」
「うん!」

 二人は歩き出した。は後姿を見守るが、やがてその姿は薄れていき、一人取り残された。さて、次は何が出てくるのだろう、と歩き出した途端、視界が真っ暗になり、次の瞬間にはもといた場所に戻っていた。急に多彩な色が世界に戻ってきて、目が一瞬で疲れを訴える。ベッドへ目をやると、蛍姫は穏やかな寝顔ですやすやと寝息を立てて眠っていた。健やかな寝顔に、なんだかほっとする。

「……どうやら、蛍ちゃん、眠りについたみたいですぅ。これでどうやら夢の世界も、少し歩きやすくなるはずですぅ」
「あ、バフちゃん。……わたしは夢の中を歩いていただけだったけど、大丈夫だった?」
「ぜんぜんおっけーですよぉ。って、バフちゃんじゃないですぅ! ベルですぅ!」
「ご、ごめんなさい!」

 ばふぅ〜といって登場してきたものだから、その印象が強くて名前を間違えてしまった。慌てて謝ると、バフ、改めベルは頬を膨らませてぷんすか怒った。謝りつつもその姿にちょっぴり可愛いな、と思ってしまった。

「まあ、それはいいとして。えっと、夢の世界を、頭の中で勝手に作られた嘘の世界だって思ってる人が多いけど本当は夢にも実体があって、それを現実のフィルターを通して垣間見るのが夢なんですぅ。ちゃんは蛍ちゃんの夢の中にいる人たちを助けたんですぅ。だから、蛍ちゃんを悩ませるものも一緒に浄化されたってワケですぅ」
「……なんだか難しい話だね。とにかく、よかった」
「それじゃ、私はこれで……。楽しい夢を見てくださいね〜。私、食べに来ちゃうですぅ〜」
「うん、それじゃあね」

 別れの挨拶を述べた後、意識がぼんやりしてきて、再び海をゆるやかに泳ぐ心地になった。胸に未だ、サンドラに告げられた言葉の痛みを抱えながら。



夢と現実の狭間