自宅が見えてくると、灯りが燈っているのが見えたそれが。なんだか不思議な感じがした。いつも帰っても誰もいないし、まして明かりなんてついちゃいない。こうして明かりのついた家をみると、なんだか「おかえり」と言われているようでなんともいえない嬉しさがあった。

「いいな、家って」

 同じことを考えていたのだろうか。瑠璃がぽつりと言った。

「なんなら、一緒に住む?」
「なっ!?」
「嘘だよ、うーそ。ジョーク! でも、本当にいつでもきていいからね?」

 真っ赤になって慌てふためく瑠璃が可愛くて、は笑った。



ただいま、おかえり



「ただいまー」

 が家の中に声を掛ける。瑠璃も続けた。

「……ただいま」

 聞こえてくるはずの「おかえりなさい」が、聞こえてこない。確かに真珠はいるはずなのだが、一体どういうことだろう。まさか、また一人でどこかに……? と嫌な予感が、二人の脳裏に同時に浮かんだ。
 が急いでリビングへ行ってみると、その予想は大きく裏切られた。

「寝てる」

 あとからやってきた瑠璃も、リビングのテーブルに突っ伏して寝ている真珠の姿を認めてほっと息をついた。とても幸せそうな寝顔だった。

「……こいつに言わないといけないな。エメロードのこと、ディアナのこと」

 何も知らない真珠の寝顔はあまりに無垢で、それゆえに残酷だった。はソファに備えてあるひざ掛けを持ってきて、真珠の背中にそっとかけた。

「明日、はなそうか。ちょっとまってね、いまお客様用のお布団だすから」
「いや、いいよ。迷惑かけられないし……俺は近くの宿屋にいってるから」
「却下。もう、頼ってよね?」
「お前には頼りすぎているっ」
「シーッ」

 は人差し指を立てて眉をひそめれば、瑠璃はあわてて自分の口を手でおさえたが、もう遅い。恐る恐る真珠を見るが、彼女は変わらず幸せそうな顔で眠っていた。

「目が覚めて、瑠璃くんがいなかったらきっと真珠ちゃんは不安がるよ」
「……わかったよ。すまない、ありがとう」
「ふふふ、わかればいいんだよ」

 二組の布団を敷いて準備も整ったのちに、瑠璃が真珠を起こした。寝起きの真珠は大半言っていることが意味の通じないことで、瑠璃は適当に聞き流しながら寝室へ移動させて、布団の中へいれると「おやすみ」と言って頭をなでた。すると真珠は再び目を閉じ、寝息をたてはじめた。

「すっごい眠いんだろうね」

 寝室にやってきたが、寝ている真珠を見てくすりと笑みをこぼした。

「安心しきってるんだろうな。いつも宿とか、野宿とか、そんなんだから、こういう誰かの家ってのは心地いいんだと思う」
「瑠璃くんと真珠ちゃんさえよければ、いつでもうちにきてよ。わたしも一人暮らしで、寂しいからさ」

 迷惑だからいいよ、と断ろうとしたが、来てくれたほうがむしろ好都合みたいなことを言われてしまえばこちらとしても無下に断れない。だから、「ありがとう」といって曖昧に笑うのだった。たとえに、迷惑なんかじゃない、と言われたところで、やはり引け目を感じてしまうのだ。もしも彼女が自分のために涙することがあったとしたら……そう考えるだけでぞっとする。
 には、自分のせいで不幸になってほしくないのだ。

「こら」

 考え込んでいた瑠璃の頬にの指が突き刺さる。

「また、変な顔してるよ」
「……ごめん」

 とてエメロードを失って辛いのに、瑠璃の前では元気に振る舞っている。瑠璃は素直に謝った。

「お風呂入って、寝よ。寝ればきっと気分も爽快だよ?」
「ん、そうだな」

 明日ディアナのもとへいって、珠魅のこと、宝石泥棒のことを知る。その事実は決して穏やかな内容ではないだろうし、きっとショックだって受けるはずだ。今はそのときにむけて、何も考えずにおとなしく寝るのが得策だろう。