あなたを想うと胸がいたくて
あなたを想うと胸がくるしくて
あなたを想うと胸がたかなる。

あなたが誰であろうと、それはきっと変わらない。ずっと変わらない一つの真実。



エメラルド



「次はどこを探すの?」
「うーんとね……宮殿あるじゃない、クリスティーヌの」
「ああ、うん」
「あそこの美術品講堂なんか探してみようかなぁって。あそこもいっぱい宝石がいっぱいって聞くから」

 確かにあそこには、クリスティーヌが自らの富で買い集めた世界中の宝石やらが眠っている。エメロードの提案はなかなかいい線をついていると思う。はずっと気になっていたことを躊躇いつつも口に出して見ることにした。

「ねえエメロード、少し気になったことがあるんだけど、いい?」
「ん、なあに?」
「さっきから、核を探しているみたいだけど……お姉さんってもしかして」
「核だけよ。残っているのは。不死皇帝軍に奪われてしまったの」

 痛々しい笑顔を浮かべたエメロードに胸が締め付けられた。彼女の姉はすでに、ただの核だけになってしまったのか。

「形見探しだったのか……」

 瑠璃がポツリと呟く。エメロードは首を横に振る。

「それは違うわ。姉さんたちの核にはきっと魔力が残っている。癒しの涙があれば蘇るわ」

 またでてきた、“癒しの涙”という単語。アレクサンドルによって連れさらわれた蛍姫のみが流すことのできる友愛の証。蛍姫は、そしてアレクサンドルは、今どこで何をしているのだろうか。珠魅の再建のために、どこかに身を潜めているのだろうか。それともどこかで息絶えているのだろうか。

「俺たちは涙を流せない。癒しの涙を流せる蛍姫だっていない。今は……あんたの身の安全のほうが大事じゃないか?」

 確かに、珠魅にとって外界はとても危険だった。核を狙うやつらだってそこらじゅうをウロウロしている。瑠璃は騎士で、剣だって扱えるので身を守ることはできるが、エメロードや真珠姫は姫で、自己防衛はできない。彼女たちは、騎士がいなければとても無力な存在に思えた。
 瑠璃やヌヌザック先生とやらが、姫を外に出したがらないのもわかる気がする。真珠はたぶんのけ者ぐらいにしか思っていないのだろうが、瑠璃の真珠への深い愛情が垣間見える。もう少し経ったら、真珠にも、エメロードにもそれが理解できるかもしれない。なりたてではあるが、騎士になった今だからこそ真にわかる、瑠璃の愛情。

「あなたのその剣は何? 騎士なら女々しいことは言わないの!」

 姫の立場ではわからない、騎士の愛情。は苦笑いした。

「ほらほら、美術品講堂行こう」

 道端でけんか腰の二人の間に入り込み、手をとり歩き出した。

「お、おい!」
「んー?」
「手、つ、つないで……」

 瑠璃が顔を赤らめて慌てふためいている。その様子が珍しくて、は笑みを浮かべる。

「それくらいで、照れないの」
「ばっ、照れ、照れてない!」
「情けないよね〜」
「ね〜」

 エメロードがころころと笑った。

+++

 美術品講堂にやってきた三人は、早速クリスティーヌと、そのお供のサザビーの姿を発見した。彼らはよくもわるくも目立つので、ぱっと見で見つけることができた。それなりにジオで働いているが、彼らの姿を見たのははじめてだった。本当に宇宙人、なのだろうか。

「こんにちは。あの、こういう宝石見たことありません?」

 そういって自分の胸元に輝くエメラルドを指差し、問いかける。クリスティーヌはちらりと一瞥して、すぐに視線を右斜め上の虚空へずらした。

「どうだったかしら……。サザビー、お前は見たことあるかい?」
「下の倉庫で見つけまちた!」
「倉庫にいってごらんなさい。必要なら宝石は差し上げます」

 予想以上のあっさりに、が「えっ」と声を上げて、言葉を続ける。

「あの、え、差し上げます?」
「ええ」

 至極当然のことのように、クリスティーヌは言ってのけた。

「いいんですか? 宝石ですよ? クリスティーヌさんが集めた、宝石なんですよね?」
「そうですが」
「はぁ……」
「? どうしたのちゃん? 早く行こうよ」
「もたもたするな
「……はぁ」

 もう歩き出していた珠魅二人のあとを、はどうにもしっくりしない思いを抱えながらついていった。この中で自分だけが文化の違う人間のようであった。
 三人が出て行った後に、サザビーがクリスティーヌを見上げて眉を寄せた。

「なして?」
「珠魅の核なんて、不幸を招くだけよ」