サンドラを、止めなきゃ。
 悲しみの深淵で、その思いだけが確かに力強く根付く。何が目的で、珠魅を殺しているのかはまったくわからない。大事な人を守るため、なのだろうか。それでもは、サンドラの凶行を許せなかった。これ以上の悲しみを生まないために、絶対にサンドラを止めようと心に強く誓った。


憎しみの連鎖



「ちょっと、いいかね?」

 ボイドの言葉に、は小さく頷く。だが、一向にルーベンスのいた場所から動く気配のないの気持ちを察して、ボイドは肩に手を置き、「すまなかった」と、呟く。

「もう少し早くついていれば……ルーベンスさんを救えたかもしれんかった。チミには辛い思いをさせたな。サンドラの凶行を一刻も早くとめるために、協力してくれないか?」
「……はい」

 かすれた声でそれだけ呟き、うつろな目をボイドへ向けた。

「わたし、サンドラを、止めてみせます」

 細く、今にも途切れてしまいそうなか細い声で、強い決意をボイドに伝える。ボイドもその思いを汲み取り、大きく頷いた。は言葉を続ける。

「彼女は……大事な人は誰かを傷つけてでも、守らなければいけない。と、いっていました」
「大事な人?」
「ええ。ですから、もしかしたら、守るべき何かのためにこのような凶行に及んでいるのかもしれません」
「なるほど」
「大事な人を守る事は、素晴らしい事だと思います。ですが……」

 うつろだった目に、憎しみの炎が宿る。こぶしをぎゅっと握り、悲しそうに眉を寄せた。

「人を傷つけていいわけがないです」
「そうだとも」

 それに、誰かを傷つけてまで守られる事を、その大事な人は、嫌だって思うはず。

(わたしが気づかせてあげなきゃ。間違っていることを。そして、殺してきた罪のない珠魅の人々に謝ってもらわないと。ルーベンスさんも、浮かばれないよ)

 たくさんの犠牲の上守られる大切な存在。しかしこれはの憶測に過ぎない。いったいサンドラは、どんな大儀で核を集めているのだろうか。考えると頭が痛くなってくる。先ほど起きたことの処理もまだできていない、今日はなんだかとても疲れてしまった。

「……今日は少し疲れました。家に帰ります」
「わかった。月並みなことしか言えんが……元気を出すんだぞ」

 ボイドの優しさを感じながら、無理やり笑顔を作って頭をさげ、はテラスを立ち去った。
 瑠璃が知ったらどう感じるだろうか? 折角見つけた珠魅の仲間が、サンドラによって殺されてしまった。色々と聞きたいことも会ったはずだ。
 彼もまた、サンドラへの憎しみを心に宿すのだろうか? 帰り道、その疑問だけが頭の中をループした。