「どこって……瑠璃くんを見ているじゃない。」

つい口をついてでた言葉に疑問を抱くことなく、リオは朗らかに答えた。

「……そうだな。変なこと聞いて悪いな。」
「瑠璃くんはたまに変なこというもの。気にしないよ。」
「変なこと、ね。」

変なこと、と言うのは、俺が「リオはいつもどこを見ているんだ?」と聞いてしまったことだった。
勿論、俺は変なことを聞いたつもりはない。恐らく、その質問に隠された真意をたぶん彼女は理解していないだろう。

「変なことだと思ってるのはリオだけだ。俺からしてみればきちんとした意図を含んでいる。」
「……今日の瑠璃くんはちょっと変だよ。」
「なぜ?」
「その意図を、教えてくれたっていいのに。いつもならそんな回りくどい言い方しないもの。」

教えてどうするのだというのだ。この質問は君を困らせるだけだし、俺だっていやな心持になる。
ではなぜ俺は聞いてしまったのだろう。…それは俺にもわからない。
リオがこのように追求してくることは予想の範疇であったのに。

「リオはいつも遠くを見ている。」
「遠く…?そうかな。」

心当たりがないのか、不思議そうな顔をする。
けれど君は遠くを見ている。俺といるときだって、ふとした瞬間遠くへと思いを馳せている。
それに一人でドミナを歩いている君を見たときも、君はやっぱり遠くを見ていた。
ジオの宝石店の目の前に立っている君を見たときもそうだ。君は宝石店を通して遠くを見ていて、ひどく悲しそうだった。

君はどこにいても、いつでもアレクサンドルを想っている。

なあ、アレクサンドルはどこかへ行ってしまったんだ。
誰にも何も告げずに、珠魅が蘇ったその日にいなくなってしまったんだぞ。
そしてその日からもう何年経った?
その目に俺を映してはくれないのか?
リオはいつまでアイツを待っているんだ。
――――いつまでも、か?

「俺、」
「うん?」
「アイツが大嫌いだ。」
「へ?アイツってだあれ??」

リオのこと幸せにできないくせに。リオがこれほど想ってる事、知らないくせに。
俺だったらリオのことをどこのどいつよりも幸せにしてみせるのに。だから俺を見ろよ。
頼むよ。好きなんだ、大好きなんだ。

「誰だろうな。」
「……瑠璃くんの意地悪。教えてくれたっていいじゃない。」
「なんか言ったか?」
「イイエ。」

何も知らないリオ。何も知らないアレクサンドル。
俺のことを見ないリオ。どこかへ消えたアレクサンドル。
いつか、決着はつくのだろうか。



君は決して僕を見ない