急に雲行きが怪しくなったと思ったら土砂降りの雨。なんてこった、ついてない。そういえば朝、かすみが夕方ごろに一雨来るって言っていたような、言っていないような。結局今、傘を持っていないのがすべてだ。は男に、乱馬は女になってしまった。
 雨に降られながら呆然とお互いを見つめる。乱馬はまだいい、いつものチャイナ服だから。対するはどうだ? 制服のままなので、傍から見れば女子の制服を着た男子高校生。変態以外何でもない。

「ダメもとで聞くよ?」
「なんだよ」
「服……交換しない?」
「やなこった」

 ダメもとではあったが、こうも即答されるとむっとしてしまうものだ。

「乱馬、男子高校生がこんな変態チックなカッコしてるんだよ? やばくないこれ?」

 スカートの裾を掴んで持ち上げれば、乱馬は苦い顔をする。

「走って帰るぞ」
「えーーーこんな雨なのに?」
「いつ止むかわからないだろ? ほら、行くぞ」

 乱馬の手を取られ、土砂降りの中を駆け巡る。幸いなことに家は近かったのですぐにたどり着いた。はこんな変態な姿で家に上がるのは非常に抵抗があったので、ひとまず道場に入り、乱馬に着替えを持ってきてもらうことにした。
 漸く屋内に入ることが出来、雨から逃れることができた。ぽたぽた、と地面に水滴が垂れ、あっという間に玄関の色を変えていく。びしょびしょは度を越して、制服がぴたっと身体にまとわりついて、ボディラインが露わになる。のもとの姿よりも、グラマラスな乱馬のボディは、男のの身体の芯に何かを訴えかける。

「びっしょびしょだな」

 乱馬は笑い、もつられて同じように笑う。それで、に訴えかけていた何かは薄らぐ。

「乱馬だって」

 の言葉を受けて、乱馬は微笑みながらの髪に手をかけ、耳に髪をかけた。思わずびくりと肩を跳ね上げる。

「なんか変な感じ」

 へらっと笑うと、乱馬が頬を赤らめる。

……一度でいいんだ。その、なんだ……」

 不意に照れたように顔を赤らめながら、そんなことを言うものだからの中を電流が奔った。乱馬の華奢な体をきつく抱きしめる。雨の匂いと、乱馬の匂いがした。その匂いだってのこころを刺激する。そして肩を抱き、乱馬と見つめ合う。乱馬は頬を赤らめ、何かを求めるような、そんな顔をしている。

「好きだよ乱馬、大好き」

 口づけをしながら乱馬は玄関に腰を置かせ、は乱馬を押し倒す。自分の目下で煽情的な表情でを見つめる乱馬は、間違いなく女で、そんな乱馬を押し倒しているは間違いなく男であった。けれども本当の性別は別。

、おれ、一回でいいから……」
「うん」

 再び口づける。何度も何度も口づけて、少し空いている口に舌を入れ、絡ませる。いつもは乱馬からされる深いキスも、今日はがリードをする。身だけでなく心まで男になったようだった。熱い思いが全身を駆け巡り、熱が集中していくのを感じる。

「好きだ、

 唇を離した隙にうわ言のように言葉を漏らす乱馬。が乱馬のチャイナ服に手をかけたその時だった。雨音と共に足音が聞こえてきた。

「乱馬ーーいるのー??」

 あかねの声だ。一気に現実に引き戻され、はすかさず乱馬の上から退き、乱馬も物凄い速さで上体を起こした。やがてガラガラと戸のあく音がして、あかねが入ってきた。

「やだ、びしょ濡れじゃない。なんでこんなところにいるの?」

 道場の玄関でびしょぬれの二人が座り込んでいる。妙な光景だろう。

「あ、そ、その、服を持ってきてもらおうと思ってさ、乱馬に」
「ああ。男が女子高生の制服着てるわけだもんね。それなら私、とってくるよ。ちょっと待っててね」

 あかねは道場からでていき、ぴしゃりと戸が閉まると二人の間には何とも言えない雰囲気が漂った。

「……危なかった」

 ポツリが漏らす。

「一線を越えるところだった」
「俺は、それでもよかったけど」
「わ、わたしが腰を振って、乱馬が股を開くの?」

 グラマラスな乱馬に、男のが腰を振る。そのたびに眉を寄せ、の下で甘い声を上げる乱馬。思わずしてしまった破廉恥な想像をぶんぶん頭を振って、振り払う。

「ん、んな身も蓋もねえ言い方すんな!!」
「でもわたしも、一回くらい、いいかなって思った……」

 膝を抱えながら乱馬を見れば、乱馬ものことを見ていた。かち合う視線。

「また、今度だな」
「う、ん……」

 乱馬の言葉にが頷く。なんだこの恥ずかし約束は。性倒錯者と言われるかもしれない。けれども乱馬とは恋人同士だ。そういったプレイだと思えば、だなんて自分たちを正当化すべく自分自身に言い訳を連ねる。

「えっち」
だって」
「その時は、ちゃんとした服着てしよう」

 その言葉に乱馬がまじまじとの姿を見て、乱馬がぷっ、と笑いを漏らす。

「笑うな!! よし、乱馬絶対スカートはいてね」
「やなこった」
「じゃあしないよ」
「なっ!! なんで俺がスカート何て!!」
「男として乱馬とするんだから! 女の姿してもらわないと!! ああ、乱馬のスカート姿……ちょっと甘美」
「想像すんな!!」




雨と制服とチャイナ服と