工藤新一と。二人は同日に行方不明となった。そしてその日にやってきた真新しい人物。小学生の男の子、コナンと、高校生の男の子、。二人は似ていた、失踪したその二人に。工藤新一と
 それもそのはずであった。なぜならコナンとは、失踪した工藤新一とであるからだ。彼らは好奇心からとある事件に首を突っ込み、運悪く見つかり毒薬を飲まされたのだった。その毒薬の作用で、工藤新一は幼児化し、は男体化したのであった。同じ薬を飲んで、なぜ副作用がこんなに違うのか皆目見当もつかないが、とにもかくにも今となってはコナンも小学生ライフも板についてきたし、も男の振る舞いもできるようになっていた。
 そして今、とコナンはポアロで学校帰りにお茶をしていた。

「はー、どうしよう……土曜日が怖い……」

 土曜日は、園子と学園祭の買い出しに出ることになっていた。今日は金曜日、つまり土曜日は明日だ。はこの世の終わりのような顔をして頭を抱えている。コナンは苦笑いをして彼の様子を見た。

「もう諦めろって。大丈夫、いざとなったら俺が助けてやるからよ」
「いや、来ないでって! 恥ずかしいから!!」
「お待たせしました。アイスコーヒーと、ホットコーヒーとチーズケーキです」
「ありがとうございます」

 最近ポアロに入ったイケメン店員、安室 透。彼の顔が恐ろしいほど整っているだけでなく、料理の腕も抜群ときた。人生イージーモードであることは間違いない。であったら、黄色い声の一つでも上げていたに違いない。

くんって、たまに女の子みたいな素振りをするときがありますよね」

 コナンの前にアイスコーヒーを、の前にホットコーヒーとチーズケーキを置いたところで安室がそんなことを言うものだから、の笑顔が凍り付いた。

「もしかして……」

 凍り付いた笑顔が溶け出して、今にも泣きだしそうな顔になる。

「女子力が高いのかな?」
「あ、い、いや、そんなことは……」
「たまにドキってしてしまいますよ」
「はあ……」

 不思議な人だなあ、とは頬をぽりぽりとかく。安室の整った容姿に園子がきゃーきゃー言っているのをは知っているため、なんとも複雑な気持ちである。

「安室の兄ちゃんって、彼女とかいないの?」

 コナンが聞けば、安室はトレーを小脇に抱えた。

「いませんよ」
「ふうーん、じゃあ、どんな人が好きなの?」
「ふふふ、そうだなあ」

 ちらっとを見て、にこりと微笑んだ。

くんみたいな子かな」
「は!?」

 とコナンの声が綺麗に重なる。

「ダメかな?」
「だ、だ、だめって……えっと、その……」

 安室の言うことは冗談なんだか、本気なんだかよく分からなくて翻弄されてしまう。の顔はみるみるうちに赤くなり、コナンもどうすればいいか分からなく、ひとまず安室の出方を伺う。

「だって、ぼくの言葉に、こんなに分かりやすく反応してくれて、見ていて楽しいですからね」

 確かにな、とコナンは心の中で頷く。園子とのやりとりに一喜一憂している姿は傍から見ているコナンも楽しくて仕方ない。正直な話をすれば、今、安室の言葉で顔を赤くなったり青くなったりしてる姿だって少々面白い。こんなことをに言ったら怒るだろうが。

「安室さん……か、からかわないでくださいよ」

 真っ赤な顔で瞳を潤ませて安室を見上げるの姿にの姿が重なってコナンは胸がドキッとした。

(ちっと……可愛いじゃねえか)

 それは安室も同じなのだろうか、一瞬彼の目が見開かれて、やがて破顔した。

「それじゃあ、ごゆっくり」

 安室はそのままカウンターへと戻り、はふう、と胸をなでおろした。

「安室さんは何を考えているんだろう……すっごくからかわれた」
「まあ……オメーってからかい甲斐があるからな」
「ええ、そんな風に思ってたの? 生意気な小学生」
「けっ、バーロー。コーヒーが冷めちまうから早く食べろよ」
「ふふ、はーい。いただきます」
「何度言わせるんだよ、素が出てるから気を付けろつーの」

 コナンが呆れたように、でもどこか楽しそうに言うが、は気に留める様子もなく、はーい。と間延びした返事を返すのであった。

「はあー。美味しい」

 顔を綻ばせてチーズケーキを味わうの姿は、安室の言う通り、女の子に見えなくもない。元は女性なだけあって、男性になった姿も中性的で、女性的に見えてしまうのも仕方ないかもしれない。
 何気なくカウンターのほうを見れば、愛おしそうに目を細めてを眺める安室の姿があった。愛おしそうというのはコナンの主観であって、小動物を可愛がるような慈しむような目かもしれないが。

(何はともあれ……)

 今は明日の園子との買い出しのことを忘れているであろうのことは、そのままにしておこう、とコナンは頬杖をついてチーズケーキを味わうの姿をじっと見守った。





金曜日のポアロ