これは導かれし者たちが集結し、そして世界を救う旅に出るよりも少し昔の話。舞台はサントハイム城。おてんばなお姫さまと心優しい神学校の生徒とちょっぴり抜けている騎士見習いのお話。



memory of Saintheim



 、6歳。クリフト、7歳。

「今日も姫さまはかっこいいです……」

の頬は心なしか赤くなっている。

「ほんとうですね……」

 クリフトの頬も心なしか赤くなっている。今日も二人は訓練所で見習い兵士相手にこぶしを振り回すアリーナに心酔していた。見習い兵士たちは瞬く間にやられてしまい、上機嫌になったアリーナは訓練所からスキップして出て行った。

「よーしクリフト、しょーぶしましょう」
「なんの勝負ですか」
「しょーぶに勝ったものが、姫さまのいちばんです!」
「……いいでしょう!」

 アリーナの一番は、アリーナが決めることなのだが、とクリフトの幼い頭にはそんな考えは一つもない。あるのは相手に勝ってアリーナの一番になるという熱い気持ちだけ。

「しょーぶの種目はですね……。ダラララララララララ―――」

 がドラムロールを自分の口で唱える。

「じゃん! かけっこです!」
「ええーかけっこはのほうが速いじゃないですか!」
「さあーしりませーんーっ! さあお外いきましょうー!」

 クリフトの服をぐいぐい引っ張って城の中庭へとやってきた。

「あの木に先にタッチしたものの勝ちです!」
「わかりました!」

 クリフトがスタートの態勢に入る。

「よーい……どーん!」

 の合図で二人は駆けだす。どっこいどっこいのスピードではあるが、確かにのほうが少し早い。しかし夢中で走るがあまり、は足元に注意を払っていなかった。転がる石に気づかずに派手に転んでしまった。

「きゃー!!」

 ずしゃー、っと勢いよく転んだあまり、転ぶだけではなく地面を滑る 。膝小僧が擦り剥けていることは必至だろう。あまりの音に、隣を走っていたクリフトも思わず立ち止まる。

(これはチャンス……ですが、)

 地面に伏せたままのを見て、自分の中の天使と悪魔で揺れ動くクリフト。

 は怪我してますよ! 勝負とかはほっといて、手当てしなくては!
 と、天使クリフト。

 いま走れば私の勝利は確実です!
 と、悪魔クリフト。

 が、このバトルは、すぐに終結した。

「わーーーーーーーーんっっ!!!!!」

 が伏せたままで大泣きを始めた。放っておけるわけがない。半ば反射的にクリフトは駆け寄り、を抱き起す。

「わああああああ!!! い゙ーーーーだーーーーーー!!!!」

 は体操すわりをして、これでもかというくらい大きな声で泣く。膝小僧と手のひらを擦りむいていて、血がにじんできている。クリフトはホイミを唱えると、の傷口は見る見るうちに塞がっていき、自身痛みが引いていくのを感じた。

「はれ……いたくなくなった……」
「まったくは、おっちょこちょいですね」

 呆れたような、でも楽しそうな顔で、クリフトは笑った。

「クリフト……だいすきです!」

 ぎゅっと抱き着けば、クリフトもまんざらでもないような顔でにやっと笑う。

「私がいなくては、はだめだめですね」

 この様子を自室の窓から眺めていたアリーナは、ふっとほほ笑んだ。

「あの子たち、お似合いよね。ブライ」
「ほんとですな。……って、そんなことより、早く問題を解いてくだされ姫!!」
「もーうるさいわねえ」

 そんなことつゆ知らず、とクリフトは楽しそう笑顔。今日もサントハイムは平和であった。