これは導かれし者たちが集結し、そして世界を救う旅に出るよりも少し昔の話。舞台はサントハイム城。おてんばなお姫さまと心優しい神学校の生徒とちょっぴり抜けている騎士見習いのお話。 memory of Saintheim 、5歳。クリフト、6歳。 「ではクリフト、今日こそはみつけましょう!」 「ええ、今日も行くのですか……もう諦めましょうよ…」 とクリフトは幼馴染で、ここ最近は休日になるとお城の中を探検していた。というのも、この城のお姫さまというのがと同い年ということをが母から聞いて俄然興味が出たのだ。最初のうちはクリフトも興味を持って探していたが、もう捜索をかれこれ5回くらいしているもので、クリフトはいい加減この不毛な捜索に飽きてきてしまったのだ。 「だんこキョヒです! だって、わたしとおなじ5さいですよ。おともだちになりたいです」 「はわかっていません。お姫さまと私たちはおともだちになれないんですよ」 「なぜですか?」 「”みぶん”が違うんです」 「で、でもっ。みうんがちがくておともだちになれなくても、いっかい見てみたいんです!」 「”みうん”じゃなくて”みぶん”ですよ。……しょうがないですね。じゃあ今日が最後ですよ?」 「やったーありがとうございますクリフト!!」 結局クリフトが折れて、今日も姫さま捜索をすることになった。 「さがしてないところって、あとありましたっけ?」 「えーっと……ほとんど探しましたけど、あ、私うっかりしてました! お姫さまのお部屋をまだ見てません」 「わわわったしかにです! しきゅう、いきましょう!」 普通に考えれば姫の部屋なんて一般の人が入れるわけがないのだが、まだ子供の二人にはわからなかった。二人は姫の部屋の在り処を見張りの兵に聞いたりして歩いていった。どうやらこの城の最上階にあるらしい。階段を見つけてあがろうとしたとき、階段の前に居た兵に止められた。 「待った、いくらこどもだからといってこの上にいかせることはできないぞ」 「なぜですか?」 「なぜってそりゃあ、王様がいるからな。ここは謁見を許されたものだけがいけるんだ」 「クリフト……エッケンもってますか? わたし今アメしかもってません」 「エッケンというのは王様に会うための許可のことです」 と、例によってクリフトがの間違った言葉を正していると、階段の上から何かがすごい勢いで駆け下りてきた。何気なくそれを兵二人、とクリフトで見ていると、それはまるで猪のようににぶつかった。ごつん、という音がなる。 「はう!!」 「いたーーーっ!!」 は猪のようなそれを受け止めることができず、ともに倒れこんだ。 「!? 大丈夫ですか!?」 兵が二人を起こして、「またか」と苦笑いする。クリフトは大切な幼馴染が思いっきり後ろに倒れこんで心配でならなかったのだが、どうすることもできずオロオロする。 「あたたた……痛いじゃないの!」 「す、すみばせん…よけるひまさえなくて……」 から起き上がり、突撃してきた同い年くらいの女の子がおでこをさすりながら怒鳴る。 「……あら、女の子?」 と、その女の子がの姿を認めて呟いたときだった。 「姫〜〜!!」 少し遅れて白髪の初老が階段を一歩一歩踏みしめるように、緩やかなスピードで降りてきた。 「「ブライ殿! お疲れさまであります!」」 「おおご苦労。姫! いい加減おとなしくしたらどうですかな!! さあきなさい!」 「ま、まってブライ……ぶつかった子もつれてきて!」 「ああこりゃ姫が失礼した。君たちも一緒にくるといいぞ」 は立ち上がり、クリフトと目を見合わせる。(もしかしたらこの子がお姫さまでしょうか…?) お互い疑問を目で伝え合いつつ、二人についていくことにした。兵たちが「よかったな上にいけて。」と笑いかけてきた。初めてやってきた謁見の間には、サントハイム城のどことも違う雰囲気が漂っていた。 「すごいところですね……わたしはじめてきましたっ」 「私もです。これは自慢できますね」 こそこそと会話しながら、二人について行く。王座にはひげをはやした一目見ただけで威厳が漂っている、サントハイム王がいた。そのそばに大臣。近くには見張りの兵が三人ほど居た。 「王、姫をひっとらえました」 立ち止まり、ブライが王に報告をする。 「おでかしたぞブライ。してブライ、そのこどもたちは?」 王がとクリフトに気付いてブライにたずねた。その瞬間どきり、と心臓が飛びはねた。 「姫さまがぶつかった子供たちです」 「なんと! アリーナよ何を考えておる! その方ら、アリーナが失礼した」 「だって気付かなかったんだもん……」 「めっそうもないです! こちらこそよけられなくてシツレイしました……」 ぺこぺこと頭を何度も下げて謝るに王が大笑いをする。なぜ笑われたかわからないは戸惑いつつも、苦笑いをした。(何がおもしろいんでしょう……) 「面白いな。それに、アリーナと同い年くらいと見える。隣の少年も、アリーナの友達になってやってくれ」 「「はっ、はい!」」 なんと、王が友達になれといってくれた。願ってもいないチャンスだった。ずっと姫――アリーナ――と友達になりたがっていたにとっては王の言葉が神の言葉にすら聞こえた。 「セイシンセイイ、おともだちにならせていただきます!」 「はっはっは。よろしい。名はなんと申す?」 「、です」 「少年は?」 「クリフトと申します」 「にクリフトか。わかった、もういってよいぞ」 「ではいきましょう」 ブライに諭されて、謁見の間の左下のすみにある階段を上り始めた。いまさらながら、謁見の間に張り巡らされた水路と、花壇とに感動を覚えた。 階段を上りきると絨毯の導く先には大きな扉が聳えるように存在していた。「あそこは王の寝室じゃ」とブライが説明をしてくれた。そのすぐ隣にある部屋がアリーナの部屋らしい。部屋の前には侍女がそわそわとしていて、アリーナを見るなり「アリーナさま!」と涙でも流しそうなくらいな勢いで叫んだ。その侍女はアリーナは適当にあしらいつつ、アリーナの部屋に入った。適当に座って、とアリーナが部屋の中央にあるテーブルと、四脚のいすを指した。言われたとおり二人は並んで座った。 「、頭は痛くないですか?」 「だいじょーぶですよ。もういたくないですっ」 「まったく姫は……。もう少し姫らしくしていただきたい」 「ほんとにごめんね。、ちゃん?」 「い、いいいいえめっそうもございません! むしろよかったです!」 「変な子ね。……ブライ、どっかいってよ。あたしこの子たちと仲良くしたいの。年寄りはじゃまじゃま」 アリーナはブライの背中を押しながらどんどんと扉のほうへ向かう。 「なっなんですと!! このブライを年寄りと!? こう見えてまだまだ若いんですぞ!!」 「はいはいさようならー」 「ひめええ!!」 ほとんどブライを強制的に追い出して、アリーナの部屋にはアリーナととクリフトだけになった。急にしんと静まり返った。扉の向こうではブライがなにか叫んで居るようだが、気をつかっているのだろう。部屋にはいってくることはなかった。 「やっとやかましいのがいなくなったわ」 たちの目の前に座り、扉を睨んで苦々しく呟いた。二人はなんと返していいかわからず苦笑いをする。やはり相手がお姫さまとなると何を言えばいいのかわからない。 「あたしはアリーナよ。に、クリフト。よろしくね」 笑顔で自己紹介をしたアリーナの笑顔はあまりに可愛くて、とクリフトはその笑顔に骨抜きにされた。 「これからも遊びに来ていいわよ。あたし友達とかいなかったから、すごい嬉しいわ」 「私たちでよろしければいつでも伺います」 「お姫さまとおともだちなんてなんだかすごいですっ」 何気ないの一言だが、日ごろからブライや侍女、王に叱咤されてきたアリーナには”姫”という言葉に嫌悪を抱いていたため、逆鱗に触れてしまった。 「あたしは姫なんかになりたくなかった!」 「ひぇ? ……そ、そうなのですか」 突然怒鳴られてひるむ。 「普通の子に生まれて、普通の生活をしかった…。でもみんなお姫さまだからって、お姫さまらしくしろって。ねえ、あんたたちも姫は姫らしくって思うの?」 今にも泣き出しそうなアリーナに、は言葉を失った。姫には姫の悩みがあるんだ、と幼いながらも感じた。そしてそのことにアリーナは悩んでいる。は挙手をして、あの……と言葉をはじめた。 「わたしはそうは思いませんよ。お姫さまだから何をしちゃいけないということはないと思います。オコトバですけどそんなこというほうがまちがっていると思います。わたしはきしみららい……じゃない騎士見習いなんですけど、クリフトのマネでアーメンってやったりします。ですから…えっと…」 結局何を言えばいいのか、閉めの言葉が浮かばずにおろおろとし、クリフトに助けを求めるように視線をやると、クリフトがその心を汲み取ってくれて言葉を続けてくれた。 「姫さまは姫さまが思うように、したいことをすればいいのではないでしょうか」 それです! とでも言わんばかりの顔でクリフトを見て、アリーナを見た。アリーナはぽかんと呆気にとられたような顔をしていた。そのような言葉を言われるのが意外だったのだろう。 「そんなことはじめて言われた……。ありがとう、あたしたちきっといい友達になれるわ。あ、ねえ見て見て。あたしすごいのよっ」 アリーナは肩を抑えてぶんぶん腕をまわして勝気な笑みを浮かべると、立ち上がって「二人とも下がって」と警告する。言われたとおりいすから立ち上がり後ずさると、アリーナは精神を統一するように一回深呼吸をし、テーブルをじっと見つめた。テーブルの真ん中に手を沿え、目をつぶる。 「おりゃああああああ!!!!」 目をかっと見開いて思いきりテーブルに拳を喰らわせる。するとテーブルはすごい音を立てて真っ二つに割れた。とクリフトは呆然とその様子を見つめるが、やがて何かが胸の中ではじけるのを感じた。 「す……すごいです姫!!!」 「な、なんということでしょう!?!? 私には到底ムリです!!」 「姫!?!? なんじゃこの騒ぎは!?!?」 「あっブライ……いやちょっとその、特技を……ね?」 あたふたとアリーナが入ってきたブライに説明するが、ブライの禿げ上がった頭が真っ赤に染まっているのを見てもうムリだと悟ったらしい。「ごめんなさい!!!」と謝る。 「きなさい姫!!!」 「あーん許してよブライー」 「今日と言う今日は!!」 ブライはアリーナの手を引いてずんずんと部屋を出て行った。取り残されたとクリフトはしばらくたちつくしたが、やがてクリフトが最初に我に返った。 「……」 「ク、クリフトわたし…どうしましょう……」 「「かっこよすぎです姫さま!!」」 二人はきらきらと輝く瞳を突き合わせて同時に叫んだ。この事件をきっかけにとクリフトはアリーナに心酔したのだった。 |