むかし、むかーし。あるところに、おにいさんとおねえさんが仲良く暮らしていました。
おにいさんの名前はクリフト。おねえさんの名前は。二人は仲がよく、一緒に暮らしていました。

「では。私は教会にいってきますね。」
「わたしは川沿いで訓練してきます。」

クリフトは神官で、は騎士なので、それぞれの行くべき所へ向かいました。
は川で槍を使って突く練習をしていますと、川をどんぶらこ、どんぶらこ、と流れてくる
巨大なスライムがいました。どうやらそのスライムは作り物のようです。は不思議に思って
川に入りそのスライムをつかみ、陸に引き上げてみました。

こんこん、とノックしてみますと、中は空洞のようでしたが、中からなにも返事はありません。
おそるおそる耳をくっつけてみます。ですがやはり何も聞こえてきませんでした。
どうしよう、と少し悩んだのちに、もういちどノックをしてみます。すると今度はかすかに中から物音が
してきました。は驚いて、スライムの一番上のきゅ、っとなっている部分を槍で叩いてみますと、
スライムはもののみごとに真っ二つにわれて、中から男の人があらわれました。
男の人は衰弱しているようで、ぐったりと横たわっています。

「だ、だいじょうぶですか!?」
「ん…」
「怪我してるわけでは…なさそうですね。少しおまちください、ルーラ!」

はルーラを唱えて家へ戻りました。
男の人をベッドに寝かせてしばらくすると、目を覚ましてに礼を述べました。

「さきほどはありがとうございました。俺の名前はです。」
「あ、目を覚まされましたか。ご無事で何よりです。ですね…なぜスライムのいれものなどに?」
「それがよくわからないのです…。覚えているのは自分の名前のみで、記憶がまったく…。」
「そうなのですか…あ、ではしばらくうちへいてはどうでしょう?」

記憶がないとなるとは行くあてがないということです。それに彼に持ち物は見当たりません。
もしかしたら無一文なのかもしれません。そう考えたら自然と口を突いて出ました。

「いいのですか?」
「かまいません。困ったときはお互い様ですよ。」
「…ありがとうございます。本当に助かります。」

そういっては深々と頭を下げました。
その夜クリフトが教会から帰ってきてから、クリフトの許可も得て無事は同居することに決まりました。

それからしばらく月日がたちました。
すっかりは溶け込んで、とても仲良くなっていきました。そのうちにに対して
特別な感情を抱くようになっていきました。
そんなある日のことです。

「うーん困りました…。」
「どうしたの?」
「実はですね、少しはなれた村で悪いやつが暴れているらしいのです。時期にこの村も襲われてしまうかもしれません…。」
「それは大変だ。被害のほどはどれくらいなの?」
「まだ死者はでていないのですが、負傷者が多数。わたしが退治しに行ってもかまわないのですが、わたしは
 この村の守護を任されているので離れられないのです。…辛いです。」

がションボリとうな垂れました。

「しかし、あなたを危険にさらすなんてことは私にはできません。」
「クリフト…ですが、」
「それに、が退治しにいっている間に攻めてきたらどうするのです?それこそ、この村はなすすべもなく降伏です。」

クリフトのいっていることはもっともでした。村の戦力といえる人がしかいないなか、が旅に出て
退治しに行くと言うのはあまり得策でないように思われました。そんなことはもわかっているのですが
やはりその被害を受けた村のことを思うと一刻も早く不安要素を取り除きたいと思わずにはいられません。

、クリフト、俺いってくるよ。」
「どこへですか?」

きょとん、とが不思議そうな顔をします。

「その悪いやつを退治してくる。」
「え、だ、だめです!そんな危険なことにさせられません!」
「そうですよ!そんなはやまったことはしてはいけません。」
「でも俺、そいつを退治するために生まれてきた気さえするんだ。いままでさんざん迷惑をかけてきたけど
 これが最後の迷惑。お願い、いかせて?それに俺やクリフトがそういう不安に脅かされるの嫌だよ。」

はそういいますが、やはりとクリフトは大切な家族とも言える存在を危険にさらしたくありません。
ですがの瞳にはいままでにない強い意志がこめられてあり、もはや拒否権なんかないように思えます。 

「…で、でも嫌です。もしになにかあったら…。」
、約束してください。無理はしないで、絶対に生きて帰ってきてください。いいですね?」
「クリフト!?」
「約束するよ。誓って、無理はしないし、必ず帰ってくる。」
「それならばよいです。少々お待ちください。持たせたいものがあります。」

クリフトは自室へ向かいます。それにもついていき、「どういうつもりですか!?」と問い詰めます。
棚の中を調べながらクリフトは言いました。

「わかってあげましょう。私もこれでも男ですからね、の気持ちはわかります。
 男には、やらねばならぬときがあるんです。にとってはそれがいまなのでしょう。」
「男の人はばかですっ…どうしてそんな危険を冒したがるのですかっ?わたしは嫌です!」
「”護りたいから”ですよ。……わかってあげてください。」
「…っ。」

棚から薬草の束を取り出し、クリフトはのとこへ戻って行きました。
は目尻にたまった大量の涙粒をぬぐいとって、少し遅れてのもとへいきます。

「これは薬草です。きっととても使うことになるでしょうからぜひ持って行ってください。
 それから少ないですがゴールドです。…頼みましたよ、。」
「ありがとうクリフト。必ず倒してみせるよ。」
…。」
「うん?…泣かないで。俺は必ず戻ってくるから。」
「約束です。必ず戻ってきてください。」

繰り返し零れ落ちる涙をそのままに、を抱きしめました。
は少し驚きつつも、手をの背中に回して一度ぎゅっと力強く抱きしめ、そして離れました。

「いってきます。」