「こいつら……どうしたんでい?」
「さあ……あんたでもわかった?」

 ひそひそと、当人たちをちらちら見ながら囁きあう。
 今日は久々に野宿ではなく、宿屋に泊まることができて、早速夕飯を食べているところだった。

「見りゃわかるだろ」
「だってあんた鈍感だからさ、どうしたのかしら?」

 その当人たちというのは、と弥勒のこと。先程から目も合わさず、言葉も交わさず、むすっとした様子でご飯を食べていた。いつもなら、みんなで話している途中、二人で仲良さそうに話したり、すごいときは「あ〜ん」と弥勒が自らの開いた口を指したと思ったら、「しょうがないなあ」とかいいながらがおかずを弥勒の口に運んだりしているのに。

「喧嘩、しかないよね」

 珊瑚も困ったように言った。

「珍しいのう。あの二人、いつも暑苦しいのに」

 子どもの七宝にまで感付かれている。

「お風呂でに聞いてみる」
「おう。頼んだ」

+++

「ねえ……?」

 乳白色の温泉に浸かっている今ですら浮かない表情の。非常に声が掛けずらかったが、かごめは思い切って呼び掛ける。

「んー?」

 普通に返事はかえってきたが、やはり元気がない。

「あのさ……聞いていいのかわからないけど、弥勒さまとなんかあった?」

 おずおずと尋ねると、急にの眉間が寄せられ、厳しい表情になった。

「あいつ!!」
「は、はいっ!」
「あいつ……むかつくの! 聞いてふたりとも!」

 激昂に驚きつつも、言われた通りかごめと珊瑚はの言葉に耳を傾けた。

「今日、わたし犬夜叉と一緒に歩いてたのね。旅の道中、誰と歩こうがわたしの勝手でしょ? なのに、弥勒のやつが『私の以外を男の隣を歩かないでほしい』なんて無理難題を押しつけてきたの! 犬夜叉は仲間だよ!? そりゃあ、隣を歩くくらいあるよね!? ていうか、弥勒以外の男って、犬夜叉しかいないよね!? あ、七宝もいるけど、子どもだし、カウントしないとして。それ以前に、あいつだって散々女の子口説いてるくせにさ! 意味わかんないよね!? ねえ!?」

 物凄い早さでは捲し立てた。しーんと静寂が戻ってきたところで珊瑚が一言。

ちゃん……それは痴話喧嘩ってやつ?」
「ぜんっぜん違う! もっと深刻な問題!」
「あんたそれは惚気ってもんよ」
「か、かごめまで……」

 は唇を尖らせ、「ヘビーな問題なのに」と拗ねたように言った。

+++

「おい弥勒」

 ところ変わって男湯。いつもなら犬夜叉は温泉には浸からないが、今日は弥勒から事情聴取をするという重要な役割を担っているため、仕方なしに入ったのだった。温泉と言うのは熱くて頭がぼうっとするし、犬の本能なのか、そもそも湯につかるのがあまり得意ではない。早いところ役目を果たして出なければ、と自分に誓う。

「何か?」

 明らかに話し掛けるなと言う雰囲気が漂っている弥勒。

「お前、となんかあったのかよ?」

 犬夜叉の問いかけに、きっと視線を鋭くして弥勒が犬夜叉を睨む。

「お前がそれをいうか?」
「え……」

 なぜ自分が責められているかなんて皆目見当もつかない犬夜叉は目が点だ。

「はぁ……」

 さらにはため息。犬夜叉はもう何が何だかわからず、結局黙り込んだ。

+++

 温泉からあがったのちかごめと犬夜叉が中庭で落ち合い、報告を開始した。

「どうやら弥勒さまはあんたに焼きもちやいてるみたいよ」
「俺!?」
「うん。今日、一緒に歩いてたでしょ? それがいやだったみたい」
「どうりで弥勒の野郎が俺に冷たかったわけだ……」

 温泉での一件に漸く合点がいった。そして怒りがふつふつと沸き上がってきた。

「まああとはあの二人次第ね」
「冗談じゃねえ! あいつの勝手な嫉妬じゃねえか!」
「あちょっと犬夜叉!」

 犬夜叉は部屋に駆けていった。部屋の中には弥勒としかいなかった。七宝と珊瑚は気を遣って退散したのだろう。は荷物の整理をしていて、弥勒は退屈そうに外を眺めていた。

「やい弥勒!」
「待った」

 手を突きだし犬夜叉の入室を拒む。

「足の土を落としなさい」

 弥勒にいわれたのは癪だが、後でみんなに責められるのは目に見えているため大人しく土を落とし、改めて部屋に入る。

「で、弥勒!」
「むやみに大声を出すのは近所迷惑ですよ」
「喧しい! てめえの嫉妬でに八つ当りったら情けねえやつだ。、こいつみたいな心の狭いやつでいいのか!?」

 突然話を振られびっくりしたは驚きつつも首を横に振った。

「だいたい手当たり次第女に子を産めだのなんだのいっててのことを考えろよアホ野郎!」
「い、犬夜叉……」

 そんなに言わなくても、と止めようと思ったのだが犬夜叉は矢継ぎ早に弥勒の悪口を言う。

「変態だし色白だし女顔だしは俺と一緒にいたほうが絶対しあわ」
「もうやめてっ」

 が弥勒のもとへ駆け寄った。どさくさに紛れて言おうとした犬夜叉の告白はいとも簡単に流された。

「弥勒は確かに女グセ悪いけど……でもわたし」
「え、おい……」
……」

 犬夜叉をおいて二人の世界が進んでいく。見つめあい、甘い雰囲気が漂う。そこにひょいとかごめが現れ、「仲直りしたみたいね」と二人を見てにこりと笑った。

「わたし、弥勒の優しいとこいっぱい知ってるし、色白なのも女顔なのも、わたし……好きだよ」
「お前というやつは……」

 ひしと弥勒が抱きしめる。

「私が悪かった。つまらぬ嫉妬をしてしまった」
「わたしこそごめんね。犬夜叉ありがとう」
「え、お、おう」
「弥勒の悪いとこいっぱいいって、そんなことないんだよ! ってわたしに気付かせるためでしょ?」

 きらきらと輝く瞳で見つめる

「犬夜叉……見かけによらず粋なんだな。さっきは当たってしまい悪かった」

 爽やかな笑顔の弥勒。

「一件落着ね!」

 達成感で満たされた表情のかごめ。

「お……おう」

そ んな三人に囲まれてしまっては、そういうしかなかった。

(なんでこうなっちまったんだ……)

 やりきれない気持ちのなか、伝えられなかった気持ちのやり場所に途方に暮れる犬夜叉であった。